
「ペットロス」という言葉では片付けられない心の痛みに直面した時、当事者は向き合い方に悩むものだ。S_Tomo(@Sh_Tomoki)さん夫妻も、そうだった。
【写真】亡くなる直前の先住猫さん…トイレに行くのも辛い状態だったため、オムツを使っていました
3匹の猫と暮らしてきた夫妻は最後の愛猫たあこちゃんを亡くし、心に猫型の穴が…。それを埋めてくれたのは、新たに出会った猫だった。
生後間もない5匹のきょうだい猫を保護
たあこちゃんは、4匹のきょうだいと共に捨てられていた子だ。生後間もない子猫たちを保護した飼い主さんはお世話をしながら里親を探したが、1匹しか引き取り手が見つからなかった。
さらに、きょうだい猫のうち1匹は病気で逝去。飼い主さんは、たあこちゃんを含めた3匹を正式に家族として迎え入れることにした。
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小柄なたあこちゃんは、マイペースな性格。若猫期には家族と少し距離を置き、いつも絶妙に手が届かないところでくつろいでいた。
「必ず丸くなって眠るのですが、いつも少しだけ目が開いていて細目になっていました。一度寝始めると、さすってもなかなか起きない子でした」
たあこちゃんは生まれつき内臓の状態が悪く、医師からは「長生きできない」と言われていたが、実際には14歳まで生きてくれた。
「きょうだい猫のうち1匹は10年ほど経った頃に突然死し、もう1匹は重度の貧血で危篤状態となり、奇跡的に回復してくれたものの腎臓病を患い、亡くなりました」
腎臓病の愛猫を必死に支えた1年間の闘病生活
たあこちゃんの命を奪ったのも、猫の宿敵である腎臓病だった。飼い主さん夫妻は毎日、点滴や投薬をし、二人三脚で闘病。治療費は毎月1〜2万円ほどかかったが、たあこちゃんの命には代えられなかった。
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「最初は点滴を嫌がっていましたが、点滴を打つと楽になるのが理解できたのか、次第に点滴の準備を始めると自分から来るようになりました」
病が進行し、歩行が難しくなってきた晩年は家族とたあこちゃんの距離感に変化があったそう。それまで、たあこちゃんは家族とほどよい距離感を保つ癖があったが、オムツをつけながら嬉しそうに奥さんの布団に潜り、添い寝するようになった。
そんな幸せがあったからこそ、たあこちゃんの死後、奥さんは深いペットロスに陥ったという。
「たあこがいなくなった部屋を見ることに耐えられない様子でした。私も寂しかったですが、安らかに旅立ってくれたので、拾ってから最期まで楽しかったという感謝のほうが大きかったです」
たあこちゃんが亡くなって1週間ほど経った頃、飼い主さん夫妻はかかりつけ医にお礼を言いに行き、自宅に残っている未使用のフードやペットシートの寄付を申し出た。
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翌月、奥さんは約束したフードやペットシーツを渡しにかかりつけ医へ。すると、心に空いた猫型の穴が埋まる出会いが…。なんと偶然にも、病院で保護していた猫が子猫を産み、里親を募集していたのだ。
先代猫から託されたみたい…ペットロスの傷を癒す2匹の子猫
事情を知った奥さんは、2匹の子猫を引き取った。2匹は共に黒猫で女の子であるが、性格は真逆。
小柄なはなちゃんは物怖じしないお転婆さんだが、ジャンプを失敗するなど、やや抜けている。
大好きなのは、日向ぼっこと猫じゃらし。日の光を思いっきり浴びながら眠る姿を見るたび、飼い主さんは微笑ましくなるが、愛ゆえの心配も…。
「夏場は熱中症にならないか心配で…(笑)はなは、引き出しの奥にしまっている猫じゃらしを器用に出して目立つところに置くこともあります」
一方、食欲旺盛で大柄なゆきちゃんは動物病院にいた頃から人間を警戒。お迎え当初は威嚇が止まらなかったが、噛まれたり引っかかれたりしながらも撫で続けたところ、デレてくれるようになった。
「好きなのは、かくれんぼ。猫部屋のドアをガチャガチャして呼び出してから部屋に入ると、遊び場にしている段ボールに隠れます」
2匹は先代猫たちと性格が異なるため、初めの頃、飼い主さんは驚きの連続だったそう。だが、日常をにぎやかにしてくれる2匹のおかげで愛猫を失った痛みは和らいでいった。
「かかりつけ医が未使用のご飯やペット用品を引き取り、有効活用してくれたのもよかったです」
ペットロスになるのは、その子たちと大切な時間を過ごしてきた証。だから、悲しみを無理に抑え込まなくてもいい。ペットロスの苦しみを知っているからこそ、飼い主さんは似た境遇の同志に、そう語りかける。
「もしかしたら、愛猫が虹の橋の向こうから、あなたのために何かしてくれることもあるかもしれません。うちみたいに『今度はこの子らの面倒見てね』とかね」
不思議なことに愛猫を亡くした後、新たな猫を託されたという話を見聞きすることは多い。ひょっとしたら、猫は私たちが思っている以上に飼い主想いな動物なのかもしれない。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)