チャンピオンズリーグでインテルがじわりと存在感 3−5−2を機能させる2トップの強さ

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2025年04月14日 07:10  webスポルティーバ

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西部謙司が考察 サッカースターのセオリー 
第44回 ラウタロ・マルティネス&マルクス・テュラム

 日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。

 今回は、インテルの2トップ、ラウタロ・マルティネスとマルクス・テュラムを紹介。イタリア伝統の堅守第一の戦いのなかで、このふたりの強さがチームを支えているといいます。

【イタリアの伝統を踏まえたインテル】

 チャンピオンズリーグ(CL)準々決勝第1戦、インテルはアウェーでバイエルンに勝利した。ラウタロ・マルティネスが先制、85分に追いつかれたが、88分に交代出場のダビデ・フラッテージが決勝ゴールを決めている。

 セリエAで首位のインテルはCLでも好調で、リーグフェーズでは8試合で1失点という驚異的な堅守だった。強豪ぞろいのCLでインテルはちょっと異質だ。それぞれに特徴はあるが、インテルのプレースタイルは1980〜90年代の香りがする。

 フォーメーションは3−5−2。1980〜90年代のセリエAでスタンダードなシステムだったが、現在はあまり見なくなった。3バック+左右のウイングバック、中央のMFはほぼ横並びに近い。そしてラウタロとマルクス・テュラムの2トップ。

 ビルドアップで無理をしない。危なくなったらすぐボールを下げる。GKヤン・ゾマーを経由しながら大きく動かしていく。それでも危なかったら大きく前線にフィードする。バイエルンのマンマークによるプレッシングに対してはポジションチェンジを織り交ぜて捕まらないようにする工夫も見られた。ただ、無理はしていない。マンマークならGKは常にフリーなので、少しでもリスキーなら安全なGKへバックパス。

 堅実第一はディフェンスラインの高さにも表れている。例えばバルセロナのようなハイラインとは対照的で、時にはフラットではなく斜めにラインを形成して裏をケアしていた。

 ラインのリスクをあまりとらないこともあり、ボールへのプレスもさほど強くない。相手が後ろ向きでパスを受けるなど、奪えそうな時は鋭く寄せるが、前を向いている相手には決して突っ込まず、パスコースを切りつつも強引に距離を詰めることはしない。

 リードした後は、バイエルンにボールを持たせてローブロックで待ち構えていた。ある意味、楽に守っている。ボールを奪ってカウンターのチャンスになっても、あまり人数はかけず、カウンターで冒険しないので、逆カウンターもされない。人数が足りているので余裕を持って守っていた。

 1988−89シーズンにスクデットを獲ったチームと似ていた。ローター・マテウス、アンドレアス・ブレーメ、ジュゼッペ・ベルゴミらを擁し、ジョバンニ・トラパットーニ監督に率いられたインテルは、前年に優勝したミランとは対照的だった。

 ゾーナル・プレッシングという新戦術を引っ提げて、従来とは次元の違う強度を見せたミランとは逆に、インテルはイタリアの伝統を踏まえた堅実重厚なスタイル。

 トラパットーニ監督の戦術は堅実すぎて「つまらない」と批判されていたのだが、バイエルン戦のインテルも娯楽性という点では似たようなものだろう。ただ、いまどきあまり見ないプレースタイルは逆に新鮮に感じられた。

【2トップが戦い方を決めている】

 1990年イタリアW杯で優勝した西ドイツはインテルに似ている。フランツ・ベッケンバウアー監督率いるチームにマテウス、ブレーメがいたせいもあるが、3−5−2システムと堅実そのものの戦い方がよく似ていたのだ。というより、この時期の多くのチームがそうだった。

 後方からの大きな外回りのパスワークは、ボールを失う危険が低い。そのままじわじわと敵陣に入ると、最後はサイドからのハイクロスというアプローチがメイン。ゆっくり攻め、ゆったりと守る。攻め手はわかりきったようなハイクロス。まあ面白くはない。ただし確実だった。機能美のようなものはあった。

 この堅実な3−5−2システムを機能させるにはいくつか条件があるのだが、そのひとつが2トップの強さである。

 大きな外回しのビルドアップのなかで、トップへのクサビのパスは重要な攻め込みルートになる。ウイングバックから斜めのクサビが通ると相手を中央へ集められるので、サイドのより深い場所への進出が可能になる。また、組み立てに行き詰まって蹴る時も、2トップのロングボール収容力が必要。さらにラストパスはクロスボールが多いので、ゴール前での高さと強さが必須になる。

 ラウタロとテュラムは3−5−2にうってつけの2トップだ。むしろこのふたりがいるからこういうシステムなのだろう。

 ラウタロは長身ではないがロングボールを収める能力が高く、そもそも苦手のない万能型である。アルゼンチン人らしい球際の強さとテクニックに優れ、インテルではすでに100ゴールを超えて外国籍選手としては史上最多得点者となっている。バイエルン戦でもアウトサイドで巧妙な先制点を決めていた。

 テュラムの父親は、フランス代表DFだったリリアン・テュラム。弟のケフランはユベントスでプレー中というサッカーエリート一家。192センチの長身を利したキープ力、空中戦の強さ、パワフルなシュートを持つ、いかにもストライカーというタイプだ。

 ポストプレーや得点だけでなく、ラウタロもテュラムもしっかり守備を行なう現代的なアタッカーである。1988−89のインテルも、前線はアルゼンチン人のラモン・ディアスと長身のアルド・セレーナの2トップだったが、昔のFWは現代ほど守備をしていなかった。ただ、2トップが戦い方を決めているところは似ている。

【せわしない現代のサッカーで珍しい】

 今のインテルのサッカーは「つまらない」と言われた時代とよく似ているので、本来は面白くないはずなのだが、あまりにも堅実で淡々とした感じはせわしない現代のサッカーでは珍しく、ちょっと落ち着く気もする。

 かつての北欧にも似た、無駄を削ぎ落した機能性と安定感、重厚感。ほぼ誰もドリブルしないし、トリッキーなコンビネーションは少ない。たまに炸裂するカウンターの鋭利さ、2トップのパワフルなプレーが魅力。

 1990年代は正直つまらない試合が多かった。昔のサッカーだから面白く感じないのではなく、リアルタイムでそう思っていた。基本、サッカーはつまらないものだと。娯楽性の点では底の時期だった。ところが大半がそうしたチームだと退屈なのに、1チームだけだと懐かしい気もするから、不思議なものである。

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