「もし自分が死んだら、代わりにSNSで報告してほしい」。高校時代に交わした約束は、自分の手で親友を殺してしまうことなのか――。そんな葛藤に揺れる主人公を描いた漫画『約束に暮れる』がXに投稿されている。
すぐ身近にありそうなリアリティを放つ、この物語を描いたのは山田果苗さん。日常で実際に感じたことを形にしたという本作について、彼女に振り返ってもらった。(小池直也)
――多くのいいねが集まっていますが、なぜここまでバズったと思いますか。
山田果苗(以下、山田):自分でも検討がつきません(笑)。雑誌に載った時は読者の方の反応がわからなかったので、「理解しづらいものを描いてしまったかな……」と不安に思っていたのですが、今回たくさんの方に楽しんでいただけたようで嬉しいです。
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「安心した」というのが1番ですね。SNSの話でもあるので、SNSで作品を公開する事と相性がよかったのかなと思いました。
――アンソロジー『青の秘密』の1篇である本作を描いたきっかけは?
山田:小学校から20年の付き合いの友人と話しながら、「自分は当時から存在していたんだ」と気付いて感動したからです。作中でも描いてますが、私が覚えていない私のことを友人が覚えてくれていたことが嬉しかったんですね。
実際、中学生の時に友達から「私が死んだら、漫画『のだめカンタービレ』を山田さんにあげる」と言われたことがあるんですよ。それに対して私も何か返答した気がしますが、覚えていません。
当時の自分たちは死から遠いと感じているからこそ「死んだら」の話をしていたと思うんです。いつか来るその時まで互いに「この子とは友達だろうな」と感じていたんだなと。だから「私が死んだら◯◯してくれ」というのは自分の経験からきたものでした。
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――なるほど。
山田:私自身も「インターネット上のもうひとりの自分みたいな存在を終わらせてほしい、自分の痕跡を消してほしい」と思っていて。だから「親友のSNSで死を伝えて、アカウントを消す」という流れにしました。
生きた証だから残したいと考える人もいると思うのですが、私は消したいんです。ただお願いされる側は大変だと思うので、まだ誰にもお願いできていませんが……。
作中の親友の子は若かったので、主人公に言えたんだと思います。佐々木に殺してほしかったのでしょう。でも大人になって考え方に変化があり、当時の約束をすっかり忘れている。大人には考えつかないことだから。
――「故人がまだ生きているような気がする」という現象はインターネット時代特有の現象だと思います。もしかしたらAI時代に入って、人はネット上で死ねない可能性すらあります。「知人の死やそれを乗り越える」ことについて山田さんはどうお考えなのでしょう?
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山田:乗り越える方法は失った分だけ得るしかないと考えてますね。母が死んだ時に「親しい人を失う悲しみに耐えられないから人は結婚し、家族を増やすのだろうか?」と思って、現在は妹の結婚式で思い出が終わってます。
冒頭の葬式と最後の結婚式の両方で小さい子どもを描いていますが、「人は死ぬ、でも生まれる。だから大丈夫。やっていける」という気持ちで描きました。
ただ正直、私は諦めてるだけで乗り越えられてないです。そもそも乗り越える気があるかどうかな気もします。でも乗り越えなくても大丈夫、とも思えるんですよ。
――制作の際に苦労されたことなどはありますか?
山田:親しい人を亡くした方が読んでも不快にならないようにしたいと考えてました。もちろんよく思わなかった方もいると思いますが、シリアスにしすぎず茶化さず美化せず、を意識して描きました。
――作画でこだわっていることも教えてください。特に親友の表情やポージングが可愛いかったです。
山田:主人公から見た親友はずっと可愛いので可愛く描くよう意識しました。あとは主人公の座り方が雑なところもこだわりです。
――影響を受けた作家や作品があれば教えてください。
山田:好きな作家は松本大洋先生。存在感のある背景が好きで、意識して背景の作画をしています。あとこの作品を描く前に安田弘之先生の『ちひろさん』を読んで「ひとりで生きる女性カッコいい!」と思ったので、本作の主人公を自立して働く女性にしたんです。
――今後はどんな作品を構想されていますか?
山田:ひとりで生きる人をもっと描きたいのですが、それをエンタメにするのが難しい……。ずっと悩んでますね。
◼︎本作が収録されているアンソロジー『青の秘密』は好評発売中。
青春に潜む感情を描いた、選りすぐりの読切10篇を収録。
(文・取材=小池直也)
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