「パーフェクトブルー」「千年女優」今敏の映画はなぜ時代を超える? 新潟国際アニメ映画祭で語られた普遍性

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2025年04月15日 18:21  アニメ!アニメ!

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『パーフェクトブルー』(C)1997MADHOUSE
第3回新潟国際アニメーション映画祭が開催され、レトロスペクティブ部門で今敏(こん さとし)監督が特集された。今監督の歴代作品の上映とともに関係者によるトークショーも行われ、同氏の功績の大きさを改めて振り返る貴重な機会となった。
会場には今監督の作品を初めて見る若い観客も多く詰めかけ、映画祭が才能と功績の継承の場となっていることを実感できる催しとなっていた。

本稿では、同映画祭で行われた『千年女優』と『パーフェクトブルー』のトークショーの内容から、改めて今監督の偉大さについて振り返りたい。

ハリウッドの巨匠にも影響与えた今敏
長編映画監督デビュー作『パーフェクトブルー』の上映には、同作のプロデューサー丸山正雄氏と『千年女優』のプロデューサー真木太郎氏が登壇、司会をアニメ・特撮研究家の氷川竜介氏が務めた。

今監督は「アニメーション作家」よりも「映画監督」として評価されている。しかも、批評家のみならずクリエイターに大きな影響を与えた映画作家だ。長編映画デビュー作となった『パーフェクトブルー』は、『ブラックスワン』のダーレン・アノロフスキー監督にも多大な影響を与えている。ちなみに『ブラックスワン』の浴槽のシーンは、今監督に許可をもらって引用したのだとか。

同作のプロデューサーを務めた丸山正雄氏はトークショー内で「今監督は映画としての作り方を習得するのが非常に早かった」と振り返る。『パーフェクトブルー』制作前は漫画家だった今監督は、アニメ作りを覚えるのが非常に早かった。また「マンガ家として非常に緻密な絵を描くタイプだったこともあるためか、絵コンテのクオリティが非常に高く完璧なレイアウトで出来上がっていた」と丸山氏は述懐する。そんな今監督が、映画作りにのめり込んだ理由の一つは、“集団作業”としての魅力だったという。1人で完成させるマンガ制作の孤独から解放され、多くのクリエイターとの共同作業によって作品を進化させていけることが魅力だったようだ。

ドリームワークスが世界配給した『千年女優』
今監督の長編映画2作目『千年女優』をプロデュースした真木太郎氏は、『パーフェクトブルー』を試写で見て衝撃を受けたという。その後、今監督に一緒に作品を作りたいと申し出て、生まれたのが『千年女優』だ。

真木氏は、今監督にどんな映画を作りたいのかと尋ねられた時「『パーフェクトブルー』みたいな“だまし絵”のような作品だ」と答えた。今監督はその答えを気に入り、5本ほどあった企画の中の映画女優の話を発展させ『千年女優』が生まれた。

真木氏は『千年女優』の完成度の高さから、公開規模をなるべく大きくしようと、劇場が空くまで1年近く待ってから公開することにした。その“待ち”の期間に、企画を探して日本のアニメスタジオを回っていたアメリカの映画会社・ドリームワークスの担当者と出会い、ドリームワークスが配給権を獲得する運びとなった。完成後に英語字幕をつけたプリントを送ったところ、ドリームワークスの担当者が泣いていたという。今でこそ、日本のアニメがグローバル市場で存在感を発揮しているが、当時は画期的なことだったのだ。真木氏は、現代なら今監督はNetflixなどがお金を出してくれるような存在になっていただろうと、早すぎる死を改めて惜しんでいた。
欧米では「『千年女優』を見ることで映画のリテラシーが上がる」と高く評価され、通過しておかないといけない作品としてのステータス」を確立しているのだそうだ。

『千年女優』上映時には、同作の脚本を担当した村井さだゆき氏が登壇。『パーフェクトブルー』の脚本も手掛けた村井氏は、この2作が「だまし絵」的な構造を持った作風を決定づけることになったと語る。『パーフェクトブルー』の原作ではストーカーの男性が主人公だが、映画版では元アイドルの女性に変更されている。プロットの打ち合わせ段階で今監督から「自分の影に追われる話」というアイディアが出ており、この時すでに現実と虚構が混淆していく物語の骨格が彼の中にはあったようだ。

村井氏は、今監督が亡くなる一年ほど前にアニメスタジオのマッドハウスへ行く道で出会い、「また一緒にやりたいと思っている」と言葉を交わしたのが最後になったという。2人のコンビ作はもう一本あったら、どんな作品になっていただろうか。

今敏の 時代を超える普遍性
アニメ・特撮研究家の氷川竜介氏は、「今敏映画は“古くならない”」と熱弁。技術の進化した現代においても通用する普遍性と完成度を有しており、難しくても面白いと感じさせる訴求力があると語った。

真木氏は「この才能を語り継いでいってほしい」とはじめ「今敏の作品は今なお色褪せることのない魅力を放っている。早すぎる死によって長編映画は4本の監督にとどまったが、いずれも外れがない」と太鼓判を押す。

今監督の提示した世界は、虚構と現実の境を失わせるものが多かった。それは現代のデジタル環境で、何が真実で何がフェイクかわからない時代を先取りしていたとも言える。
何が事実かわからないなかで人間の実存とは何か、客観的リアリティよりも心のリアル…言い換えると、“生きている実感”を求める登場人物たちの姿は、むしろ公開当時よりも切実な印象を与える。
とりわけ筆者は『千年女優』に大きな感銘を受けたが、主人公が最後に語る「あの人を追いかけている私が好き」というセリフには、幻だったとしても追いかけていることに生の充足があるということを教えてくれたように思う。

そんな深い感動や驚きをもたらす作品を生み出した稀有な才能が日本のアニメ界にいたことは大きな財産になる。改めてそう思わせてくれるトークセッションだった。


【第3回新潟国際アニメーション映画祭】
■会期:2025年3月15日(土)〜 20日(木・祝)6日間
■名称:第3回新潟国際アニメーション映画祭
Niigata International Animation Film Festival 2025
■主催:新潟国際アニメーション映画祭実行委員会
■フェスティバル・ディレクター:井上 伸一郎(「月刊Newtype」元編集長)
■プログラム・ディレクター:数土 直志(アニメーション・ジャーナリスト)
■ジェネラルプロデューサー:真木 太郎(株式会社ジェンコ代表取締役)
■映画祭実行委員長:堀越 謙三(ユーロスペース代表、開志専門職大学教授)
■副委員長:梨本 諦嗚(映画監督、株式会社サニーレイン役員)
■東京事務局長:井原 敦哉(株式会社ジェンコ/プロデュース本部プロデューサー)
■新潟事務局長:内田 昌幸(にいがたアニメ・マンガプロジェクト共同体統括本部長)
■特別協力: 新潟市、新潟日報社、新潟県商工会議所連合会、NSGホールディングス、他
■後援(予定):内閣府知的財産戦略推進事務局、経済産業省、文化庁、新潟県、新潟県教育委員会、他
■助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画祭支援事業)

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