
今年も京大は侮れない。
関西学生リーグで最下位が定位置だった京都大だが、近年のリーグ戦では「台風の目」になっている。
【京大の歴代通算最多安打記録も視野】
2019年秋には4連勝を含め、5勝を挙げて過去最高の4位に。2022年は年間7勝を挙げ、秋には名門・近畿大から勝ち点を奪った。そして2024年は春に4位に食い込むなど、年間6勝をマーク。西日本最難関の入試を突破した学業面のエリートたちが、野球のエリートたちに牙をむいている。
ただし、彼らの目標はあくまでも「リーグ優勝」である。昨年の主力メンバーの多くが残る今季は、大きな期待を受けている。
近田怜王監督(元・ソフトバンク)によると、今年の4回生のうち4人が社会人野球でのプレー継続を希望しているという。
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絶対的リードオフマンの細見宙生(ひろき/天王寺)、強力なエンジンを秘めた大型スラッガーの中井壮樹(長田)、パンチ力のある右の強打者の谷口航太郎(茨木)、1年時からリーグ戦マウンドを経験するエース格の米倉涼太郎(洛星)の4人である。主将の山本陶二(藤島)も168センチと小柄ながら、昨春にリーグ首位打者に輝くなど打撃力がある。
4月5日からの関西学院大との開幕節では、1回戦で0対11と大敗したものの、2回戦は終盤までもつれる接戦を展開。最終的に5対7で敗れはしたが、9回には二死満塁とあと一歩のところまで追い詰めた。
なかでも活躍が目立ったのは、1番・遊撃手の細見である。身長166センチ、体重68キロの小兵ながら、昨春はリーグベストナインを受賞した実力者である。
今春の開幕節は2試合で3安打をマーク。2回戦では1回表の先頭打者として左前安打を放つと、次打者の初球に盗塁を成功させる。さらに犠打で三進すると、3番・山本の犠飛で生還。2回表には押し出し四球を選び、チームに勢いをつけている。
試合後、細見は鮮やかな先制攻撃について、こんな内幕を明かした。
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「試合前のプランどおりだったんです。初回に僕が塁に出たら、盗塁、バントで1点取ると。めちゃくちゃうまいこといきました」
2試合で3安打を放っているが、状態は決してよくないという。細見はサラリとこう説明している。
「真っすぐをレフト前に打つのは、いつでもできると思っているので。今はインコースを引っ張ってライトに打てていないので、これからリーグ戦に馴染んでいくなかで打っていけたらいいなと考えています」
レフト前ならいつでも打てる──。その言葉に細見の技術とメンタリティが凝縮されていた。近田監督は細見について、こう評する。
「負けん気が強くて、『自分が絶対に一番だ』と普段から思っているような選手なんです。それが結果につながっているのかなと感じます」
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開幕節を終えた段階で、リーグ通算安打数は52本。京大の歴代通算最多安打記録は西拓樹(たくな/2016〜2019年)の74本で、細見は記録更新を視界にとらえる。
「最初は全然意識していなかったんですけど、去年の春・秋に結果を残して(1年間で29安打)、いけるかもしれないと思いました。今春はあまり意識せず、なるべく多く打っておきたいですね」
【一浪中に偏差値が爆上がり】
細見は大阪の公立進学校・天王寺高の出身である。「チームが弱いだけで、個人としては自信があった」と細見は豪語する。「関西の強いリーグで野球をしたい」という理由で、京大を志望した。
現役では勉強時間を確保できず、合格を勝ち取れなかった。一浪中に「数学が爆発的に伸びた」と細見は振り返る。
「野球と一緒で、得意とわかるとのめり込んで、自信がついて『楽しいな』という感覚になるんです」
京大志望者のみが受ける模試では、当初40〜45だった数学の偏差値が最終的に70近くまで伸びた。
工学部で学び、ゆくゆくは大学院に進むことを考えていた。だが、一昨年の秋に方針を改めた。小学生時にチームメイトだった1学年上の椎葉剛(阪神)が、ドラフト2位指名を受けたのがきっかけだった。
「申し訳ないんですけど、剛くんが行けるなら自分も行けるなと思って。『行けるとこまで勝負したろ』と覚悟を決めました」
打撃面には自信があるだけに、今冬は課題の守備面の強化に力を注いだ。来春からはすでに企業チームでプレーする予定になっている。もちろん、プロへの夢もその先につながっている。
まずは目の前のリーグ戦に全力を注ぐ。開幕2連敗を喫したとはいえ、まだ優勝の可能性は残されている。試合後のミーティングでは、近田監督が「逆転するチャンスがあるからこそ、落ち込まずに準備をしよう」と選手を鼓舞するシーンも見られた。
カギは細見とともに1年時からチームを牽引してきた、主砲の中井になるだろう。身長180センチ、体重84キロの左打ちの強打者だ。
開幕節は好機で凡退を繰り返し、守備でも手痛い失策を犯した。2回戦の最終回、2点差に迫ってなお二死満塁の場面で打順が回ってきたが、中井は二塁ゴロに倒れている。
近田監督は「代打を出そう」という考えを胸にしまい、中井に託したという。
「彼が打てないと、チームに先がないので。もっとやれるはずの選手ですし、彼も上で野球を続けたいなら乗り越えてもらうしかありません」
細見もまた、「中井ならやれると信じています」と信頼を口にする。
今年も京大旋風が吹き荒れる可能性は十分にある。戦いは始まったばかりだ。