
安藤勝己選定「3歳牡馬番付」(前編)
3歳牡馬クラシックの第1弾、GI皐月賞(中山・芝2000m)が4月20日に行なわれる。
今年は、無傷の3連勝でGIホープフルS(12月28日/中山・芝2000m)を制して2歳王者に輝いたクロワデュノール(牡3歳)が断然の評価を受け、第2弾のGI日本ダービー(6月1日/東京・芝2400m)を含めて、春の二冠濃厚といった声が大勢を占めている。
実際、ホープフルSでは他馬を寄せつけない圧巻の競馬を披露。しかも、その後のクラシックの前哨戦やトライアルでは、クロワデュノールに敗れた馬たちがことごとく勝利を挙げている。であれば、そうした評価を受けるのも当然といったところだろう。
だが、何が起こるかわからないのが競馬である。過去を振り返れば、二冠達成確実と言われた馬であっても、その多くがその夢を果たせずに終わっている。
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はたして、今年はどうか。クロワデュノールが春の二冠で評判どおりの強さを見せるのか。はたまた、クロワデュノールに土をつける存在の登場があるのか。
そこで今回も、競走馬の分析に長けた安藤勝己氏を直撃。皐月賞、ダービーでの戴冠が期待できる馬についてうかがいつつ、安藤氏独自の視点による3歳牡馬の番付を選定してもらった――。
近年、クラシックへ向けての路線の選択肢が多岐にわたって、牝馬と同じく牡馬も各馬の能力比較が本当に難しくなった。ともあれ、今年の3歳牡馬は牝馬同様、全体のレベルは高いと思う。
ただし、牝馬と異なるのは、牡馬には1頭、抜けた存在がいる。クロワデュノールだ。この馬が春の二冠を制するほど強い馬なのか。あるいは、それを阻む馬がいるのか。そこが、牡馬クラシック最大の見どころと言える。
前頭筆頭:エリキング(牡3歳)
(父キズナ/戦績:3戦3勝)
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2歳時に3戦3勝。GIII京都2歳S(11月23日/京都・芝2000m)を快勝した際には、一躍クラシックの最有力候補と言われた。しかし、その後に故障が判明。長期休養を強いられてしまった。そのため、皐月賞は京都2歳S以来の、ぶっつけ本番となる。
デビュー3連勝という結果を残しているが、自分が見る限り、馬自体はまだしっかりしていなくて、素質だけで走っている印象が強い。それでも、負けていないということは、見た目以上に何かを持っている、ということ。ホープフルS2着のジョバンニ(牡3歳)を2度も負かしていて、能力的なレベルも水準以上のものがある。馬体も立派だし、競馬っぷりを見ても、まだまだ奥がありそうな気がする。
とはいえ、先にも触れたようにクラシックへ向かう時期に故障して休まざるを得なかった。クラシックを勝つには、調教をきちんとやって、万全な仕上げで臨む必要がある。そういう意味では、復帰初戦となる皐月賞はどうだろうか。無論、皐月賞の内容や結果を含め、この先も順調であれば、ダービーの頃には面白い存在になるかもしれないが......。
小結:サトノシャイニング(牡3歳)
(父キズナ/戦績:3戦2勝、2着1回)
GII東京スポーツ杯2歳S(11月16日/東京・芝1800m)では、「1強」クロワデュノールに4分の3馬身差の2着。このレースには見どころがあった。
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逃げて他馬の目標にされてしまい、クロワデュノールには直線に入って早々に外から並びかけられた。キャリア2戦目ということを考えれば、その時点でズルズルと下がってもおかしくなかったが、サトノシャイニングはそこからしぶとかった。クロワデュノールに食い下がって、最後まで熾烈な競り合いを見せた。
そのレースぶりを見て、クラシックで面白い存在になると思っていたら、次戦のGIIIきさらぎ賞(2月9日/京都・芝1800m)では、東スポ杯2歳Sとは一転して、道中は中団を追走。直線大外から追い込んで、2着に3馬身差をつける圧勝劇を演じた。
逃げてもよし、差してもよし。キャリア3戦にもかかわらず、どんな競馬もできて、それなりの結果を出しているということは、そもそもの能力が高い証拠。まだ底を見せていないし、今後の成長次第では、クロワデュノールを逆転する存在になってもおかしくない。
関脇:マスカレードボール(牡3歳)
(父ドゥラメンテ/戦績:4戦3勝、着外1回)
ここまで4戦3勝。唯一の敗戦は、11着と大敗を喫したホープフルS。その結果を受けて、それまでに勝ったレースが左回りだったため、敗因は右回りとか、コース適性といった声が挙がっていたが、自分はそうは思っていない。
まだ幼さが残る2歳暮れのこと。理由もよくわからないままレースで力を出しきれない、というのはよくあることだ。自分は、そういった若さゆえの敗戦と見ている。ならば、この結果は度外視していい。
そしてその後、クラシックとの関連が深いGIII共同通信杯(2月16日/東京・芝1800m)を快勝。そのレースぶりが実によかった。好位で折り合って、最後は上がり33秒台の脚を使って後続を振りきった。2着馬との差は1馬身ながら、着差以上の完勝だったと思う。
この馬のいいところは、前で折り合えてレースぶりが手堅いこと。さらに、終(しま)いの脚を考えると、皐月賞よりもダービーのほうが面白いかもしれない。ただ、クロワデュノールを負かすまでのイメージは、現状では抱けていないが......。
(つづく)◆アンカツが「横綱」「大関」に選定したのは?>>
安藤勝己(あんどう・かつみ)
1960年3月28日生まれ。愛知県出身。2003年、地方競馬・笠松競馬場から中央競馬(JRA)に移籍。鮮やかな手綱さばきでファンを魅了し、「アンカツ」の愛称で親しまれた。キングカメハメハをはじめ、ダイワメジャー、ダイワスカーレット、ブエナビスタなど、多くの名馬にも騎乗。数々のビッグタイトルを手にした。2013年1月31日、現役を引退。騎手生活通算4464勝、うちJRA通算1111勝(GI=22勝)。現在は競馬評論家として精力的に活動している。