創業120周年を迎えた日本旅行の小谷野悦光社長はインタビューで、地域活性化に向けて「日本の各地方の魅力を発信する応援団のような人を増やしたい」と語った。旅行業を通じて、「各地の伝統文化や伝統工芸、歴史などに触れる機会を提供していくことが重要だ」と指摘。その上で「インバウンド(訪日客)とDX(デジタルトランスフォーメーション)がキーワードになる」と力を込めた。主なやりとりは以下の通り。
―日本の伝統文化や伝統工芸の衰退が叫ばれて久しい。
世界の市場に日本の価値を知ってもらい、各地域をもり立てるためには、地方の魅力を発信する応援団のような人を増やしたい。観光情報などは東京や大阪、京都といった大都市圏の話題に偏りがち。各地の伝統文化や伝統工芸、歴史などに触れる機会を提供していくことが重要だ。
―具体的には。
インバウンドとDXがキーワードになる。まず、訪日客に地方で特別な体験をしてもらえるようなツアーなどを企画し、魅力を伝えたい。花火大会の鑑賞と花火の制作体験を組み合わせたり、火花を散らす日本刀の鍛錬見学と人間国宝の刀匠との交流会をセットで行ったり、伝統文化や伝統工芸に興味を持ってもらえるよう仕掛けを検討している。
DX関連では、親会社であるJR西日本の公式アプリと、日本旅行のサービスを連携させたり、次世代交通サービス「MaaS(マース)」を活用して観光の促進や地域課題の解決に取り組んだりしている。今後も引き続き旅行の利便性向上に努めたい。
―日本旅行は今年、創業120周年を迎えた。
人工知能(AI)技術が発達し、これを活用すれば、個人でも最適な旅行プランを作成できるようになり、旅行会社は現在、存在意義が問われている。120年という節目の年に、グループ全体の従業員が改めて創業の精神などを振り返ってみてほしい。
日本旅行は旅が身近ではない時代に、気軽に旅行に行ける概念をつくりだし、最も歴史のある旅行会社となった。創業から3年後の1908年に手掛けた長野県の善光寺までの団体旅行では、鉄道を利用。旅行者が温泉宿泊と参拝をセットで体験できるツアー形式も採用した。誰も経験していないことに、初めて挑戦した意味や、当時の苦労を知ることは、未来へのヒントにつながる。