
海外留学の減少など、海外にあまり目を向けない日本の若者の内向き志向が指摘されて久しいが、新型コロナ以降に一般化したオンライン生活に慣れ親しんだ若者を中心に、国内にいながらオンライン学習でキャリアアップや就職に有利とされる海外の資格の取得を目指す若者が増加傾向にある、という。
創業期を含めて30年前から日本人対象の国際資格取得講座事業を展開するアビタス(東京都渋谷区)の中澤匠取締役は「米国公認会計士(USCPA)資格の取得を目指す若者が増えている。当社の同資格取得講座の大学生受講者は、2016年に比べ、24年は約7倍に増大した」と指摘する。
国内の少子高齢化に伴う国内市場の縮小から企業の海外展開の重要性が指摘される中、英語の財務会計資料を吟味できる米国公認会計士に対する企業側の認知度は高まっているという。中澤取締役は「英語と財務会計の2つの能力を持つ人材として米国公認会計士資格取得者を求める企業は昔に比べると確実に増えている」と話す。
アビタスの調べによると、同社の米国公認会計士資格取得講座を受講して同資格を取得した合格者は計7238人(2025年3月末時点)に上る。受講者の同資格取得は年々増えており、最近は年間700〜800人に達するという。
アビタスの米国公認会計士資格取得講座(受講料約50万〜80万円)は、日本人の講師が日本語のテキストを使用し、日本語で講義する。講座は当初、講師と受講者が教室で顔を会わせる対面方式でスタートしたが、現在はすべての学習をオンラインのみで終えることができる。米国公認会計士試験自体も国内からオンラインで受験する。
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東京と大阪の校舎で受講できる対面式講義も残しているが、仕事をしながら学習する社会人はもちろん、社会人に比べて比較的時間があると思われる大学生も含め、大半の受講者がオンライン学習のみを選択しているという。
現在、アビタスの米国公認会計士資格取得講座受講者の多くは、転職やキャリアアップを目指す20〜30代を中心とする社会人で、近年増えている20歳前後の大学生の比率は受講者全体の2割に届いていない、という。
中澤取締役は「海外展開を考えている企業側に比べれば、学生側の米国公認会計士資格に対する認知度はまだまだ低い。大学生の中では、国際ビジネスでの活躍を目指すなど明確な目標がある人の受講が多い」と説明する一方で「今後はそこまでの明確な目標はないものの将来進路の選択肢拡大という観点から、幅広い分野で役立つ可能性が高い、財務会計と実務英語の知識を身に付けるために、この資格を目指す若者は増えていくはずだ」と指摘する。
その上で「当社も、日本企業の国際人材育成に寄与すべく、多くの若者にこの海外資格の魅力を伝えるため大学の教職員らへの情報提供を強化していく。オンライン学習のみで完結するので、受講者が少ない地方の大学生らにも受講を勧めていきたい」と話す。
若者の「内向き志向が社会問題となっている」として、文部科学省の有識者会議(国際交流政策懇談会)が対策を検討した「最終報告書」をまとめたのは2011年3月。この報告書では内向き志向の要因の一つとして、語学力不足の問題を挙げ、幼少期からの外国語教育の充実や国内にいながら子どもたちが国際的な教育を受けられる、いわゆる「インターナショナルスクール」や国際的に通用する大学入学資格を得られる「国際バカロレア」教育プログラムの積極活用などを提言した。
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デジタル技術の進化に伴い新型コロナ禍以降、非対面のオンライン生活が浸透した現在、若者が海外に目を向ける機会は相当に増えているはずだ。国内で米国公認会計士資格の取得を目指す若者の増加は、昨今のオンライン生活の進展が若者の海外への関心を高めた一例と言えるかもしれない。