元ベイスターズ倉本寿彦が培った「3ミリの成長」 くふうハヤテで「1日1日、うまくなっている」

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2025年04月19日 10:10  webスポルティーバ

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倉本寿彦インタビュー(前編)

 倉本寿彦の2025年シーズンが始まった。くふうハヤテベンチャーズ静岡に入団して2年目となるシーズン。NPBを出てさらなる円熟味を増した不屈の男の歩みは、遅くとも着実に前へと進んでいる。

「今年のハヤテはメンバーも大幅に変わって、そういう意味では寂しくもあり、一方で『こういう世界なんだよな』とあらためて感じますね。今年チームは"勝ちにこだわる"という方針を強く打ち出しています。楽しみですよね。

 僕もチームの年長者ですから、当然責任も感じているので、ひとつでも多くチームを勝利に導きたい。個人の目標としても、NPB復帰に挑戦することは同じでも、『やり残したことがあるから戻りたい』ではなく、今は『やれるから挑戦したい』という思いになっています」

【野球がうまくなっている】

 今年1月、倉本は34歳になった。2015年に横浜DeNAベイスターズに入団してから11年目のシーズンとなる。2022年にベイスターズを退団した時は、ギリギリまで引退に気持ちが傾いたこともあった。だが倉本は、もう一度あの場所(NPB)に戻ることをモチベーションにして立ち上がった。

 2023年は古巣である社会人野球の日本新薬に復帰し、昨年はNPBファームの新球団であるくふうハヤテベンチャーズ静岡へ。春先の故障で出場試合数こそ少ないながら、打率.349と結果を残し、今年も開幕から「3番・サード」としてチームの中軸を担う。

「本当はもう辞めていたかもしれないのに、今年もまたこうして開幕を迎えられる。本当にタイミングと縁があったんですよね。去年のハヤテでの1年間、僕のなかで勉強になった部分がすごくありました。数字も大事かもしれないけど、それ以上に今できるプレーのなかで、当たり前のことでも1日1日、自分に力がついているなと。野球がうまくなっているなという実感を、毎日積み重ねることができた。

 特にバッティングに関しては年を重ねるごとにつながるものがあって、たとえば"逆方向"というのも、一昨年ぐらいから本当の意味で"自分の一番いい形"として引き出しにすることができているんです。プロに入る前、門田博光さんに言われた『信念を持ってやり続けること』は、今でもずっと僕のなかで生き続けています。いろんな遠回りをして、初めてのことも経験して、人間的にも器がちょっと大きくなったのかな。おそらく3ミリぐらいですけどね(笑)」

"3ミリの成長"という言葉に、倉本の謙遜と喜びが見え隠れする。実際、これまであまり前に出たがらなかった倉本が、今季はハヤテのプロモーションやイベントにも積極的に出演し、メインポスターを見てもど真ん中で、かつて見たことのない必死の形相をつくりバットを振る姿がある。

【いいメンタルで向き合えている】

 オフには地元・茅ヶ崎で毎年行なっている野球教室だけでなく、FMラジオで宮治淳一氏の音楽番組にも出演するなど、意欲的に過ごしてきた。

「これまでは"すべてが野球"という感じで、それ以外のことは断っていたんです。でも、知らない世界に踏み出すのもきっと価値があることなんじゃないかと思って、いただいたオファーはなるべく断らずに受けるようにしてみました。ほかの人から見たら、たった3ミリくらいの成長かもしれません。でも僕にとっては、3ミリはデカいんで(笑)」

 そして倉本はこう続けた。

「やっぱりプロとして勝負している以上、『絶対に結果を残さなきゃいけない』とか『いいプレーをしたい』とか、どうしても『自分が......』ってなりがちなんですよね。それは当然のことだと思います。でも、日本新薬でもハヤテに来てからも、若い選手たちといいメンタルで向き合えている自分がいます。彼ら、本当にすごく練習するんですよ。それに負けたくなくて、僕も限界まで競っていたし、自然と積極的に話しかけるようにもなっていました。

 もちろん、自分が打てなければ悔しいし、負けたら次は勝ちたいと思う。同じポジションの選手が活躍すれば、『オレだって』という気持ちになります。でも、そういう気持ちの捉え方が、これまでとは少し違うんです。今はすべてが自分じゃない。気持ちをいろんなところに分散できるようになって、そのおかげで少し心に余裕ができたというか......3ミリくらいだけど広がった気がするんです。壁にぶつかった時に、以前ならメンタルで崩れていた場面でも、今は前向きに一歩、二歩と踏み出せるようになった。そんなふうに選択肢が増えている実感があるんですよね」

つづく


倉本寿彦(くらもと・としひこ)/1991年1月7日、神奈川県出身。横浜高から創価大、日本新薬を経て、2014年のドラフトでDeNAから3位指名を受け入団。1年目から開幕スタメンを果たし、3年目には全試合フルイニング出場を果たすなど、不動のレギュラーとして活躍。しかしその後は出場機会を減らし、22年のシーズン終了後に戦力外を受ける。23年は古巣である社会人野球の日本新薬でプレーし、昨年NPBファームの新球団・くふうハヤテベンチャーズ静岡に入団した。

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