
【払拭できなかった苦手意識】
4月17〜19日に東京で開かれているフィギュアスケートの世界国別対抗戦。フリーで崩れ3位に終わった世界選手権の悔しさを晴らすべく臨んだ鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大学)は、悔しい結果に終わった。
アメリカ・ボストンでの世界選手権後はカナダへ移動し、来季のプログラムの振り付けなど次へと歩みを進めていた鍵山。国別対抗戦の競技前日には、「今大会の練習もしっかりとできていました。ショートプログラム(SP)は、来季の構成で4回転フリップを入れる予定なので、今回もフリップを入れる。いいチャレンジになるかなと思う」と話していた。
今季のSPは、4回転トーループ+3回転トーループと4回転サルコウを入れた構成だったが、納得する滑りができた世界選手権でも107.09点と、2022年北京五輪で出した108.12点の自己ベストには届かなかった。王者イリア・マリニン(アメリカ)の存在も意識し、「少しでも近づきたい」と、基礎点は1.30点高い4回転フリップの導入を決めたのだ。
だがフリップに関して、今大会の公式練習でも苦戦していた。世界選手権後はフリップで「ミスをしがち」と苦手意識を持つようになり、「どういう練習をしたらいいんだろう」と迷いのなかにいたという。
それでも、「ここで挑戦するからこそ来シーズンにつながる部分もある」と挑戦したが、本番では力みもあり、3回転で転倒という結果に。ほかの要素はGOE(出来ばえ点)加点もしっかり稼ぐ完璧な出来としたが、93.73点で4位。その結果を冷静に受け止めていた。
|
|
【伝えたいものを伝える意識】
翌18日のフリー。来季は、4回転4本の構成に4回転ルッツを加えるために、現時点で構成に入れているフリップまでの高難度のジャンプを、シーズン最後の試合でしっかり挑戦しておきたいという思いで臨んだ。
フリーの4回転フリップは、SPの軸がぶれたジャンプとは違うしっかり体を締めた鋭い回転のジャンプで気持ちが感じられたが、転倒。苦手意識を払拭仕切れなかった。
「6分間練習の時は気持ちがすごく前に出ていたから、『もうちょっと落ち着いて』と父(正和コーチ)にも言われた。そのあとはしっかり心を落ち着かせたけれど、今までの経験では6分間で成功したものは本番でも成功するし、失敗したものは失敗するという感覚だった。昼の公式練習や6分間での調子がそのまま出た内容だったとすごく感じました」
回転不足で転倒した冒頭の4回転フリップに続き、次の4回転サルコウも転倒。そして、SPで完璧に決めていた4回転トーループ+3回転トーループは、4回転がオーバーターンになってしまう単発に。トリプルアクセルからの3連続ジャンプでは最後の3回転サルコウで軸が傾き、成功したがGOE加点を稼げなかった。
それでも、そのあとのフライングシットスピンで気持ちを落ち着かせると、丁寧な滑りに徹して4回転トーループ+2回転トーループとトリプルアクセル、3回転フリップ+ダブルアクセルは確実に決めた。
|
|
「父には滑る前に『何も考えず、とにかく全力で。全ミスしてもいいから』というふうに言われた。世界選手権の時とは違って前向きに、頑張るぞという気持ちでやったけれど、やっぱり4回転フリップや4回転サルコウという大事なジャンプをミスしてしまって悔しい気持ちがあります。後半は、しっかりと立て直すことができ、最後のステップやコレオ、スピンもお客さんの顔をしっかりと見ながら。このプログラムは(今大会で)最後になるので、自分が伝えたいものをしっかり全力で伝えるというふうに意識しながら頑張りました」
終盤の滑りは、鍵山らしさを存分に見せるものだった。とくにステップシークエンスは、丁寧に滑る前半から、テンポが変わって激しさを増す後半へのつなぎもメリハリがあり観客を沸かせた。ジャッジ全員が、GOE加点で4〜5点を並べる出来にして、フリーの得点は168.93で5位だった。
【初心に帰って、何もかも忘れて】
結局、ノーミスの滑りが一度もできなかった今季のフリー。鍵山は、「このプログラムを自分のなかで完成させることができなかったのがすごく悔しいけど、いつかはまた同じジャンルのプログラムをつくって完成させたいと思います」と話す。
「どれだけ調子が悪くても、僕のなかで構成を変えてまとめるっていう考えはいっさいなく、とにかくチャレンジできるものはどんどんチャレンジしていきたかった。4回転フリップが跳べなくてもやろうと思っていました」
悔しい思いは残ったが、五輪シーズンへ向け、今季の結果は彼の決意を強固にするものになっただろう。
|
|
「来季は自分がどういうパフォーマンスをしたいかという目標を、もう一回立て直さなければいけないと、今季を通してすごく実感してきました。4回転フリップは、フリーではしっかり(体を)締めきれて、自分では全力でやれたというポジティブな感覚だけど、今季はなかなか決められなくてすごく悔しい思いもあります。考えることはたくさんあるけれど、オフの時間でしっかりとトレーニングを積み重ねて、来季はまたゼロからのような気持ちで、初心に帰って、何もかも忘れて純粋にスケートができたらいいなっていうふうに思います」
五輪プレシーズンだった今季、納得がいく滑りをしきれなかった要因のひとつには、宇野昌磨の引退で自分が日本男子をけん引しならなければいけないという思いが芽生えたこともあるだろう。さらにマリニンの急速な進化も、鍵山の焦りを誘発したはず。
今シーズン、結果を出しきれなかったことがもう一度本来の自分を見つめ直すきっかけになるはずだ。シニア移行から北京五輪シーズンまで順調に成長してきた鍵山にとって、ケガからの本格復帰のシーズンに味わったもどかしさは、さらなる進化への道筋を見極めるための、貴重な経験になっただろう。
世界国別対抗戦2025記事>>