アップルやマイクロソフト、アマゾンなどと並び時価総額世界1位を争うエヌビディアのジェンスン・フアンCEOは、過去にスピーチでこう述べています。
【分かりやすい図で見る】小売業におけるAI活用の例(計1枚)
「AIに仕事を奪われると心配する人もいるが、AIに精通した人に仕事を奪われるのではないか」
これは広告業界やコンサルティング業界で以前から起きていることと類似しています。従来の広告会社は最適な広告を提案するために自社でリサーチをし、それを基にクリエイティブや媒体計画を提案。展開後は結果分析を行い改善するサイクルを繰り返してきました。
しかし昨今は、広告会社がクライアントの業務を効率化するために、分析用のダッシュボード導入を支援したり、媒体の運用をクライアント側で出来るようにサポートもしています。
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コンサル会社も同様に、自社が行ってきたことをクライアントが自分で行えるようにするためのコンサルティングが多くなっています。業務分析を行い、報告書を作成し改善案を共に模索するのではなく、常に業務の現状が把握できるシステムを導入し、そもそもコンサル会社に頼む必要がない自走できる仕組み作りをコンサルティングしている構図です。
冒頭のエヌビディアCEOの言葉にも同じような意味が含まれているのではないでしょうか。
単純にAIが業務を代替・代行することもありますが、その範囲は想像より大きいものではありません。実際に影響力が甚大なのは「AIをどう利用するか」を構築できる人、またはAIがアウトプットした内容を踏まえて自社にとって最適な形に加工できる人に価値が集まっていくことを示唆しているように感じます。つまり、AIを使いこなす側に回れば、次のステージが待っているというポジティブなメッセージにも受け取れます。
小売業におけるAI活用事例を見ながら、その実情を確認していきましょう。
●生産性を「100倍」向上させたウォルマート
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ウォルマートは2024年、プロダクトデータを活用し生成AIを導入したことで、カタログ管理で8億5000万件を超えるデータ作成・改善を行い、生産性が100倍も向上したと発表しました。
正確には「同じ作業を人が行っていたら100倍の時間がかかっていた」とのことですが、これがそっくりそのまま人間の仕事を奪ったかというとそうではないでしょう。8億件以上ものデータ活用と作成は、そもそも人間が正確且つスピーディに行える範囲ではありません。
ここでのポイントは、そうした業務はできないけれども、AIを使って「どのように実現するか」は人間が設計できるということです。どのデータを活用し、どのようなルールで整理するか。一定のフォーマットやフローを構築したことで、人力では不可能な業務が実現しました。
コンテンツを作成した後、反響について何をもって良し悪しを判定するか、その次のアクションには何を導くのが最適か。これも人が設計しなくてはなりません。AIがアウトプットしたものをそのまま信じ、ノーチェックで市場に送り出すわけにもいきません。こうした正確性のチェックやコンプライアンス、レピュテーションリスクの判断も必要です。チェックのデータソースとロジックにも、もちろん人間の力が必要です。「人が介在せずして有効なAI活用なし」なのです。
●セブンでもAI活用で大きな効果が
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コンビニで国内最大手の、セブン-イレブンの例を見てみましょう。
同社は2020年から一部店舗を対象にAIを活用し、発注業務をサポートしています。これにより、発注業務を最大で4割削減しました。
AIを活用した発注業務では、店舗における必要な在庫数の算出を「過去の販売動向」「納品リードタイム」「天候・気温」「曜日」などにより自動で行います。それにより欠品の防止や発注業務の削減効果を得られます。
この過程においては「過去のどのデータを抽出するか」を検討し、見えた傾向をまとめ、未来へのヒントを得なければなりません。加えて、より精度の高いシステムにするためにはサーバーのスペックやデータベースの制限を考慮しつつ、全国の店舗をまかなえるようなチューニングも必要です。
現場では、スタッフがタブレットで商品の陳列や在庫状況を見えるようにする必要もあります。旧来のように、バックヤードにあるPCを一部のスタッフしか扱えないままでは、活用は進みません。
次の表は小売業におけるAI活用の分類例です。
このように各業種や各企業の業務に照らし合わせ、現状業務を代行できるものが何なのか。現状は人手に頼っている業務をAIによって拡張できることは何なのかを見定め、実現に向けたステップを歩んでいく必要があります。
●トライアルの「AI活用」は何がスゴいのか
最近、トライアルが西友の子会社化を発表して話題になりました。トライアルの決済機能付きショッピングカート「Skip Cart」は、AIを活用しながら利用者への提供価値を高めている好例です。
Skip Cartは200店舗以上に導入しており、月間延べ利用人数が450万人を超える、タブレットとスキャナを装着したショッピングカートです。あらかじめチャージを済ませた同社の決済アプリやプリペイドカードをスキャンし、購入したい商品のバーコードを読み取りながらカートに入れていき、専用ゲートを通過すると決済が完了する仕組みです。
Skip Cartでは、カートに入っている商品の合計金額や、関連する「おすすめ商品」、利用可能なクーポンなどを表示する機能を搭載しています。利用者の属性や購買履歴に合わせて最適な商品レコメンドをAIが行っており、利用者視点では買い物をしながら新たな商品に気付く体験価値が増大するとともに、決済にかかる時間を短縮。店舗側にとっても、レジ待ち列の解消やレジ人員の削減といった効果を期待できます。Skip Cartの利用率や利用層と未利用層の購買単価、買い合わせ点数などを比較して効果検証も可能でしょう。
このように、AIを単なるツール導入ではなく顧客と自社のメリット、目的を明確にした全体像の中で適切に活用するという流れが理想です。AIの活用が当たり前となってきている今だからこそ、効果を最大化させるための全体像、目的を的確に描いて戦略を実行すると良いでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
(佐久間俊一)
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