久保建英と日本代表の未来をも暗示 攻撃の仕組みを放棄したビジャレアル戦のソシエダ

1

2025年04月21日 18:40  webスポルティーバ

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

webスポルティーバ

写真

 4月20日、ラ・リーガ第32節。レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)はビジャレアルの本拠地に乗り込み、2−2で引き分けている。来シーズンのヨーロッパカップ出場権を巡る争いでは、どうにか勝ち点1を奪った。

 だが、勝利にふさわしいのはビジャレアルだった。ラ・レアルを押し込み、ありあまるチャンスを作り出した。オフサイドなどによる3度のゴール取り消しがなかったら、大勝もあり得たほどだ(特に後半アディショナルタイムのゴール取り消しは誤審に近い)。

 この一戦で、ラ・レアルの久保建英は前半と後半でまったく別の顔を見せている。大げさに言えば、それは久保という選手の"真実"と、日本サッカーが進むべき道までも示していた――。

 前半、久保は4−3−3の右アタッカーで先発している。ラ・レアルでの定位置だ。自分たちがボールを持って、能動的に戦うプレーモデルにおいて、彼は機動力と意外性で「崩す」という役目を担っている。

 この日、ラ・レアルは主力に多くのケガ人が出ており、イゴール・スベルディア、ナイエフ・アゲルド、マルティン・スビメンディというセンターラインの選手の欠場が重く響いていた。その結果、早々に失点を食らう。ビルドアップもMFベニャト・トゥリエンテスがバックラインに下がり、サイドバックが中にポジションを取る変則的構成で工夫したが、後手に回った。

 攻撃はノッキングしていたが、久保は単発ながらも脅威になっていた。

 18分、自陣まで戻って守備をしたあと、味方に檄を飛ばした久保は右サイドでボールを受ける。守備が得意ではないバルサ育ちの"先輩"デニス・スアレスを軽々と外すと、アルゼンチン代表ファン・フォイトに乱暴に倒されている。カウンターの機会は潰されたが、これで得たFKの対応で敵のハンドを誘い、PKからミケル・オヤルサバルが同点に追いついた。

 27分、久保は距離を取って守るデニス・スアレスをあざ笑うように、左足でバーをかすめるシュートを狙い、際どいシーンを作った。40分、ビジャレアル時代の"後輩"スペイン代表ジェレミ・ピノにわざと突っ込ませ、完璧に縦に抜け出す。焦った相手のファウルでイエローを誘発した。

【5バックで押し込まれ続けた後半】

 44分、トゥリエンテスからのパスを右で受けると、中途半端なダブルチームを見透かし、セルジ・カルドナを置き去りに。右足のクロスは、必死のクリアでビジャレアルがCKに逃れた。

 たとえチームが不振でも、プレーの仕組みが主体的、能動的だったら、久保は輝くことができた。

 ところが後半に入り、ラ・レアルのイマノル・アルグアシル監督はセンターバックをひとり増やし、5−4−1のような編成に変えた。主力不在を埋めるため、「守りありき」で"弱者の兵法"に逃げたのである。後半開始直後に相手GKの不注意からオヤルサバルが逆転弾を決めて、それは功を奏したようにも思えたが......。

 その後、ラ・レアルは押し込まれ続け、必然的に同点に追いつかれる。エリア内でアクシデントが起こる可能性は急上昇。それ以上、失点しなかったのは僥倖と言える。

 その構造は森保一監督の日本代表に近い。

 カタールW杯の森保ジャパンは、あくまで"たまたま"相手の波状攻撃が失点に結びつかず、勝利を手にすることができた。その幸運は次もあるかもしれない。しかし、それは切り株に足を取られた兎を運よく獲物にして持ち帰り、以来、運に頼った哀れな猟師の昔話に似ている。

「ボールを持つ時間を長くする」

 森保監督はカタールW杯後に語っていたにもかかわらず、今やカタールW杯時代に回帰しつつある。だが5−4−1で受け身に回るサッカーに未来はない(少なくとも、W杯優勝など噴飯ものだ)。

 なにも、すべての5−4−1が悪いわけではない。適性のある選手もいるだろう。守備ブロックを鍛え上げ、カウンターの速さや高さで勝負すべき場合もあるはずだ。

 しかし、久保のようにゴールに向かってプレーできる選手がいるチームで、そのやり方は機能しない。それどころか、「宝の持ち腐れ」を生む。日本代表でも起きている現象だ(三笘薫、堂安律、中村敬斗などをウイングバックで起用することが、どれだけ奇妙なことか!)。

 ラ・レアルが前半同様に戦っていたら、結果はより悪かった可能性も十分にあるだろう。撃ち合いの末に敗れて、勝ち点はゼロだったかもしれない。しかし、ポイントを得ても、自分たちが信じてきたものを裏切った感覚が焦げとなって心にこびりつくとしたら......。

 後半の久保はほとんど何もできなかった。彼に罪はない。チームが45分間もサッカーを捨て、攻撃的な能力を生かせる仕組みを放棄したのだ。

「前半、久保はラ・レアルで一番危険な選手だった。自らスーパーゴールにあと一歩だったし、(ルカ・)スチッチへのパスもゴールを意味していた。しかしハーフタイム後、後半になってチームの重心が下がったことは、彼には恩恵をもたらさなかった」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』の久保に対する寸評は、正鵠を射ていた。

 久保はピッチで、ウナイ・エメリのビジャレアル、ホセ・ボルダラスのヘタフェ、ハビエル・アギーレのマジョルカを、あるいは森保ジャパンを、思い出したかもしれない。守りのウェイトが高いチームで、彼のプレーは曇る。ラ・レアルで目覚ましい結果を叩き出せたのは、攻撃主体の仕組みと、適性のあるチームメイトのおかげである。

 ビジャレアル戦は、日本代表も含めた久保の現在と未来を暗示していた。

    ランキングスポーツ

    前日のランキングへ

    ニュース設定