1958年に東京都立墨田産院(88年に閉院)で新生児の時に取り違えられた江蔵(えぐら)智さん(67)が、都に生みの親の調査を求めた訴訟の判決で、東京地裁は21日、都に調査を命じた。平井直也裁判長は「出自に関する情報を知ることは、憲法13条が保障する法的利益だ」と指摘した。江蔵さんの弁護団によると、出自を知る権利を憲法の保障対象とした司法判断は初めて。
判決によると、江蔵さんは46歳だった2004年、DNA型鑑定で育ての両親と生物学上の親子関係がないことが判明した。同年10月に都に賠償を求める訴訟を起こし、都に2000万円の賠償を命じた2審判決が06年に確定した。判決で取り違えが認定されたものの、都は生みの親の調査に協力せず、江蔵さんが21年11月に再び提訴した。
21日の判決は、出自を知る権利と個人の尊厳の保障を定めた憲法13条との関係を検討。子どもが生物学上の親とのつながりや絆を確認・構築することは「人格的生存にとって重要だ」とし、13条が保障する法的利益に位置付けた。
さらに、出自を知る権利は日本では法制化されていないが、日本も批准する「子どもの権利条約」などの国際法規では保障されているとも言及。「自己の出自を知る権利は日本国民にも直接保障されていると考えるのが相当」とした。
その上で、医療機関が新生児を生物学上の親に引き渡すことは親子の関係性の根幹に関わる問題だと指摘。取り違えを発生させてしまった場合は、できる限りの対応をする義務があるとした。
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都には、江蔵さんと同時期に墨田産院で生まれた可能性がある男児を調べ、江蔵さんが生みの親との連絡を希望していることを伝える▽取り違えられた可能性がある男児が分かった場合、DNA型鑑定への協力を依頼する――ことなどを具体的に求めた。
江蔵さんは判決後、「都は一日も早く調査してほしい」と求めた。都は「判決内容の詳細を把握しておらず、内容を踏まえて対応を検討する」とのコメントを出した。【安元久美子】
憲法などの観点から根拠付け意義大きい
棚村政行・早稲田大名誉教授(家族法)の話
出自を知る権利が子どもの人格的生存にとって不可欠だと、憲法や国際人権条約の観点から根拠付けたことの意義は非常に大きい。権利を実現するために調査や確認の義務を負わせ、調査方法を詳細に示した点でも画期的だ。大人側への配慮に基づく制度設計をするのではなく、子の根源的な権利を基本とし、その上で周囲との利益を調整すべきだという意味合いが判決にはある。
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今国会に提出されている第三者提供の精子や卵子を使った特定生殖補助医療法案は、提供者の個人が特定される情報が、提供者の同意がなければ子に開示されない点が批判されている。法案見直しの議論も促進されるのではないか。
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