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日本ハムが手掛けるウインナーブランド「シャウエッセン」が好調だ。2024年3月期には売上高760億円を達成。2030年3月期までに1000億円達成を目指している。
2025年2月に発売40周年を迎えたロングセラーブランドだが、なぜ現在も売り上げを伸ばし続けられているのか。約40年の間に生まれた課題や顧客層拡大のために近年強化してきた取り組み、同社が分析する人気の理由について、マーケティング担当の岡村香里さんと広報担当の長田昌之さんに話を聞いた。
●本格的なウインナーを日本に普及させるため、約10年かけて開発
シャウエッセンの誕生は1985年2月。それ以前は日本でウインナーといえば皮を赤く着色したものか、皮なしタイプが主流で、どちらかといえば大人が本格的な食事で食べるというよりは、“子ども向けの食品”とされていた。
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日本ハムの創業者・大社義規氏は1970年代にソーセージの本場・ドイツに何度か視察に行っており、現地で食べたような「本格的なウインナーを日本に普及させたい」という思いがあったという。
当時は高度経済成長期を経て、1978年には成田空港(当時:新東京国際空港)が開港した時期だった。これから海外の文化がどんどん日本に入ってくることも見越して、約10年かけて誕生したのがシャウエッセンだった。
シャウエッセンの最大の特徴は、パッケージにも記載がある「パリッとしたおいしさ」だ。こだわりの天然羊腸(羊や豚の小腸を加工して薄い膜にしたもの)を使用し、皮にしっかりとした張りがあることで、独自の魅力である味と音を実現している。
さらに粗挽きポークを100%使用していること、スモークの香りが付いていること、独自配合したスパイスの旨味とコクが感じられることも特徴。「社内ではこれらを満たすものがシャウエッセンブランドを名乗れると定義している」(岡村さん)
「食前にパリッとした音を、食間にはスモークの香りを、食後には旨味とコクを楽しめる。五感にかかわるこの3つを楽しめるのがシャウエッセンの特徴だ」(長田さん)
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●約40年間で起きた課題
これらの特徴やこだわりは、基本的に約40年間変えていない。一方で変わったのが、メインの顧客層の年齢だ。
当時、一般的なウインナーと比較して高価格帯だった粗挽きウインナーのシャウエッセンは、店頭の試食販売を強化することで世の中に浸透していった歴史がある。その際、ファンになった顧客層がそのまま40年経ち、高齢化して現在は60〜70代となった。同社としても「次の世代を取り込まないとシャウエッセンのファンがいなくなってしまう危機感が長年あった」という。
そこで発売35年目あたりからシャウエッセンブランドとして改革に着手した。長年、公式としては禁止していた電子レンジ調理を解禁したほか、若年層を取り込むための商品開発や取り組みを強化した。ちなみに、同社が定める若年層とは、シャウエッセンの主な販売場所であるスーパーの顧客における若年層で、30〜40代を示す。
●味や形、プロモーションを変えた新商品を発売
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2019年には、発売35年目にして初の新テイスト「禁断の旨辛 シャウエッセンホットチリ」やチーズ味の「シャウエッセンチェダー&カマンベール」を期間限定で発売。その後もハムのような形状の「クイックパック シャウスライス」や、常温で保存できるサラミ風の「ドライシャウ」など、味や形に変化をつけたさまざまな新商品を投入した。
さらに大きな変化のひとつとして、2022年には包装を旧来の巾着型パッケージから長方形へ変更した。巾着型の袋の上部を力士のちょんまげに見立てた「断髪式」のプロモーション動画は、SNSなどで話題になった。
直近では、2024年10月に濃厚スパイスな味わいを特徴とした、シャウエッセン初の“夕食”向け商品「シャウエッセン 夜味」を発売。味だけでなく、食シーンの提案にも力を入れた新たな試みの商品となっている。
これまで推奨してきたボイル調理に代えて、初めて「焼き調理」を推奨したほか、プロモーションも既存の広告宣伝手法とは異なる、顧客との双方向コミュニケーションを意識して展開したという。
「近年は必要な情報、興味のある情報だけを取り入れたい『タイパ』思考の若年層が多い。テレビCMなどを活用した一方向のコミュニケーションは従来の顧客向けに引き続き展開しながら、双方向で参加できるコミュニケーションも取り込むことで次世代ユーザーを取り込むことにも力を入れている」
●発売40年目に新プロジェクトも始動
発売40年目を迎えた2024年には、新しいシャウエッセンに生まれ変わることを宣言した「#ちゃうエッセン」プロジェクトも始動。2030年に売り上げ1000億円を目指す流れの中で、日本の食卓を笑顔にし、そのおいしさを届けるため従来のシャウエッセンとは違う「ちゃうエッセン」を合言葉に、あえて枠組みを超えたチャレンジを展開している。
プロジェクト第1弾では、シャウエッセンが実は食卓だけでなく、さまざまな飲食店でも愛用されていた事実に注目。「食卓だけちゃう名店の味」をコンセプトに、全国に眠る「シャウ名店」を募集し、採用された人には「シャウエッセン約1年分」や「リアルすぎるシャウペン」をプレゼントする企画を実施した。
同じく発売40年目の2024年5月には、無料で会員登録が可能なシャウエッセンのファンサイト「シャウエッセンファンサイト(SCHAU ESSEN FANSITE)」を開設。サイト内では会員になったファンを「シャウ員」と呼び、シャウエッセンを食べた感想やおすすめのレシピなどについて、シャウ員同士や日本ハム社員と交流ができるようになっている。
会員数は2025年4月時点で1100人以上、性別では女性が多い。「近年の広告宣伝のあり方としても、顧客自らの発話によって話題が広がる流れがある。ファンとの双方向のコミュニケーションを通じて、今後の商品開発にも生かしていきたい。
●「変わる」ことへの社内の反発は?
さまざまな変化や挑戦を続ける中で、社内からの反発はなかったのだろうか。実は同社では、シャウエッセンが巨大ブランドで発売当時から非常に大事にされてきたがゆえに「掟(おきて)のようなもの」があったという。
「味を変えてはいけない。切ってはいけない。焼いてはいけない。そういうものが暗黙の掟になっていて、シャウエッセンの定義から一切外れてはいけない。外れるとブランド毀損(きそん)になるという極度の恐れがあり、改革を行うまでの約35年間変えられなかった」
巨大ブランドであるがゆえに、顧客の期待を裏切るような味を出したり、ブランドに傷がつくような変更をしてはいけない、といった長い歴史があったようだ。
一方で「顧客の高齢化」といった大きな課題もあるため、発売35年目を境にさまざまなチャレンジを開始。特に長年掟に沿っておいしいシャウエッセンをつくり続けてきた工場側からは懸念の声が挙がったが、丁寧に説明を重ねることで納得してもらったという。
●日本ハムが考えるシャウエッセン人気の理由
こうしてロングセラー商品であり続けているシャウエッセンブランドだが、同社が考える人気の理由は何だろうか。
岡村さんは「発売以来こだわりの味やパリッとした食感を守り続けている一方で、古いブランドイメージにならないように絶えず新たなチャレンジを続けている点」を挙げた。
近年は味の面でも顧客の期待に応え続けるだけでなく、SNSでも話題になるような新商品や取り組みを立て続けに発表している。「守るべきところは守り、変えるべきところ、挑戦すべきところは積極的に実行していく。それによって長年飽きられずに支持してもらえているのでは」(岡村さん)
今後は、2030年度に売上高1000億円を達成する目標の中で、海外比率を10%に引き上げる目標も掲げている。
2024年には、旭川工場がシンガポールへの輸出認可を取得。北海道で製造されたシャウエッセンが、シンガポールへの輸出が可能となった。岡村さんは「アジア圏を中心に販路を拡大し、シャウエッセン自体を世界的なブランドにしたい」と話す。海外での反響も含め、今後の展開にも注目したい。
(熊谷ショウコ)
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