30.1%――厚生労働省が発表した、2023年度の男性育休取得率(※1)だ。1桁台だった2010年代と比較すれば、着実に取得の機運は高まっている。しかし、パーソル総研の調査によれば、子どもがいない20〜40代男性の「育休取得意向」は約7割。育休取得を諦める人は、依然として多いのが実情といわれる。
【画像】サントリーの子育て支援施策、他にはどんなものがある? 実際に使われている「両立計画書」も(計3枚)
サントリーホールディングス(HD)は2024年、男性社員の育休取得率(※2)100%を達成した。飲料メーカーの酒類営業といえば「多忙」「体育会系」といったイメージが強いが、同社ではこうした職種にも「育休取得を広げていける」という手応えを感じているようだ。育休取得を推進するグローバル・ピープル&カルチャー部 部長/DEI推進室長の高木祐美氏に、詳しい話を聞いた。
※1:2021年10月1日〜2022年9月30日までの1年間に配偶者が出産した男性のうち、2023年10月1日までに育児休業を開始・申し出た者の割合
※2:5日間以上連続して取得した男性社員数÷パートナーが出産した男性社員数として算出(サントリーホールディングス・サントリー食品インターナショナル籍の正社員)
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●“対話の機会”が奏効
サントリーHDの担当者は取得率の向上にあたって、さまざまな世代・役職の社員に意見を聞いて回ったという。しかし「『取りたい』『取らせてあげたい』という意見は一致していました」というものの、残るのはやはり「休む人の仕事をどうするのか」(高木氏)という課題だった。
そこで同社は2024年に「子の誕生予定申請」と「仕事と育児の両立計画書」を導入した。「子の誕生予定申請」は、会社が早期に従業員とコミュニケーションを取り、育休取得を促す制度。「仕事と育児の両立計画書」は、取得の5カ月前から上司と共に作成する計画書で、業務をスムーズに引き継ぐのが目的だ。
「計画書のおかげで『上司に言いづらい』という迷いがなく、スムーズに育休の準備に入れました」――そう話すのは、首都圏外食企業への酒類営業を担当する坂本周造氏だ。
「業務用営業の働き方のロールモデルになれたら」という思いもあったことから、同氏は2024年秋に1カ月間の育休を取得した。取得にあたっては、育休取得の4カ月前から上司との相談を進め、3カ月前には不在中の業務の割り振りを整理。1カ月前からは社内・社外への引き継ぎを行う……という流れで、準備を進めたという。
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「『計画書自体が良かった』というよりは、計画書をきっかけに対話の機会が生まれたことで、早めに準備できたと捉えています。子どもが生まれることになった人には『必ず面談してくださいね』と伝えており、それも効果的だったと思います」(高木氏)
●「業務の見直し」のきっかけに
坂本氏と高木氏は、一連の引き継ぎ作業が「業務の可視化や棚卸しの機会になった」と強調する。
「日々の業務に追われていると、自分の仕事を俯瞰(ふかん)する機会ってなかなかないですよね。計画書は『この業務は本当に必要か』『他の人にも引き継げる形になっているか』を見直すきっかけにもなったようです」(高木氏)
引き継ぎにあたって、坂本氏は100以上の取引先に連絡したそうだが、「サポートの体制は整ってきている」と感じているとのこと。背景にあるのは、近年「チームプレー」に変化しつつあるという、同社の営業手法の変化だ。
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「『洋酒』『ビール』といったカテゴリーごとに、1つのお得意先を複数人で担当する場合も増えてきています。営業職の場合、お得意先との信頼関係は確かに重要です。しかし『この部署だから取りにくい』『この部署だから取りやすい』という見方にも、ある種のバイアスが含まれていると思います」(高木氏)
高木氏は、育休取得を推進することで、別の効果も得られると指摘する。
「社員が病気にかかってしまったり、親の介護が必要になったりといった不測の事態は、どの部署でも起きうる話です。育休の推進は、育児支援だけが目的ではありません。業務の属人化を解消し、変化に強い組織づくりのきっかけにできると考えています」(高木氏)
●“100%達成”の意味とは
サントリーHDは男性育休取得率100%を達成した。しかし、課題となっているのが取得期間の短さだ。2024年に育休を取得した男性社員のうち、約8割は「5日間」「1週間」といった短期取得にとどまっている。それでも、「100%」という数値には意味があると高木氏は考えている。
「100%にすること自体が目的ではありません。ただ、“育休を取るのは当たり前”という空気が、社内に浸透したのは重要だと思います」(高木氏)
「もう少し長く取れば良かった」といった声も多く聞かれるようになっていることから、「1カ月や3カ月といった、より長期間の申請は増えていくと思います」と高木氏は話す。
「育休をいつ取るの?」という会話が当たり前になってきた第1段階を経て、「長期間取得する社員を、どう工夫して支えていくか」という第2段階へ――。そのために、モデルケースの蓄積と社内展開が、より重要な次のステップになると高木氏は考えている。
「他の部署での取得事例を、本人や上司に伝えてフォローアップする取り組みは、しばらく徹底したいと考えています。引き継ぎ作業で可視化された、『無駄な仕事』を簡素化したことで、他の人も休みを取りやすくなったという声もありました。こうした“副次的な効果”は、社内にしっかり共有していきたいです」(高木氏)
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