マルゼンスキーの血を内包しているサトノレーヴ(撮影:高橋正和)【栗山求(血統評論家)=コラム『今日から使える簡単血統塾』】
◆知っておきたい! 血統表でよく見る名馬
【マルゼンスキー】
1973年秋、橋本牧場代表の橋本善吉氏(橋本聖子参議院議員の父)が米ケンタッキー州キーンランドのセリで母シルを購買。同馬は英三冠馬ニジンスキーの仔を腹に宿しており、翌春誕生したのがマルゼンスキーでした。
当時の規定でクラシックに出ることは叶わず、朝日杯3歳S(現朝日杯FS)を大差でレコード勝ちするなど8戦全勝の成績を残して引退しました。いまなお史上最強馬に推すオールドファンもいます。
サクラチヨノオー(日本ダービー、朝日杯3歳S)、ホリスキー(菊花賞)、レオダーバン(菊花賞)、スズカコバン(宝塚記念)など多くの活躍馬を出して成功し、総合種牡馬ランキングのパーソナルベストは1988年の第2位。母の父としてもスペシャルウィーク、ライスシャワー、ウイニングチケット、メジロブライトなどを出しました。
競走馬時代のマルゼンスキーは、前肢の外向に起因する脚部不安に苦しみ、産駒にも脚もとの弱さを伝えました。それが唯一のウィークポイントです。ただ、血の質としては素晴らしく、同時代の欧米の名血と比較しても劣るところはありません。スピードもスタミナもあり、芝もダートもこなし、大レース向きの底力にも恵まれています。
マルゼンスキーを母の父に持つスペシャルウィークは、シーザリオ、ライツェント、スペシャルグルーヴといった名繁殖牝馬の父となり、シーザリオはエピファネイア、リオンディーズ、サートゥルナーリアの母となりました。スペシャルウィークがブルードメアサイアーとして非凡な成績を収めたのは、マルゼンスキーの血の威力が少なからず影響したと思われます。マルゼンスキーの血を内包したGI勝ち馬は、今年に入ってからもサトノレーヴ、ミュージアムマイルが仲間入りしています。
◆血統に関する疑問にズバリ回答!
「アメリカには日本のサンデーサイレンス系のような強力な父系はありますか?」
現在、イントゥミスチーフが6年連続チャンピオンサイアーとなっています。今年も首位の座をキープしており、このまま順調に行けば、20世紀以降の北米最長政権だったボールドルーラーの7年連続(1963〜69)に並びます。昨年のランキングの7、8位には息子のゴールデンセンツ、プラクティカルジョークが入っています。前者は昨年のケンタッキーダービー馬ミスティックダンの父です。
昨年の10位以内の種牡馬を系統別に分類すると、ストームキャット系が4頭、ミスタープロスペクター系が4頭、エーピーインディ系が1頭、アンクルモー系が1頭と多彩。
イントゥミスチーフ系の勢いが加速すれば、サンデー系のような存在になる可能性はありますが、2位ガンランナーは強力なライバルで、その他にも有能な他系統の若手種牡馬は少なくありません。また、フライトラインのような大物も産駒デビューを控えています。
イントゥミスチーフがやがて王座を譲ったあと、子の代、孫の代まで繁栄できるかどうかは未知数で、サンデー系のように長期にわたって支配的な父系を築くのはハードルが高いのではないか、という気がします。