50歳以上の65%が発症するといわれる痛〜い帯状疱疹。その予防策として国はワクチン接種を推奨しているが、その意外な副次的効果が世界レベルで注目を集めている――。
「今年4月から、帯状疱疹ワクチンが定期接種となりました。今年度に65歳、70歳など65歳以上で5歳おきの年齢の人などを対象に、ワクチン接種費用の一部が公費補助されています。じつはこの帯状疱疹ワクチンは、これまでも“認知症予防に効果があるのではないか”と研究が進められていました。なかでも4月2日に科学誌『ネイチャー』に掲載された、スタンフォード大学のレポートが、大きな話題になっています」(医療ジャーナリスト)
帯状疱疹は、水疱瘡のウイルス(水痘帯状疱疹ウイルス)が原因で引き起こされる。米国ボストン在住の内科医・大西睦子さんが語る。
「水痘ウイルスは一度感染すると、体内の神経細胞に入り込み、休眠状態で潜んでいます。しかし高齢となり免疫力が落ちたり、疲労やストレスがたまると再びウイルスが暴れ出し、激しい痛みを伴う帯状疱疹を引き起こすのです」
2018年10月に罹患したタレントのハイヒール・モモコは、バラエティ番組で「トラックにひかれたような痛さ」と告白するほど痛みは強く、四谷怪談のお岩さんも帯状疱疹だと伝えられている。
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しかも、80歳になるまでに3人に1人が発症するといわれているほど、身近な病気。発症を予防するためにはワクチンが有効だが、そのワクチンがなんと認知症のリスクを下げるのだという。
■最も強力な予防効果だとオックスフォード大学教授も絶賛
「スタンフォード大学の研究は、ウェールズで行われた帯状疱疹ワクチン接種に関する追跡調査がベースになっています。調査対象となったのは、71歳から88歳までの、認知症を有しない28万人で、7年分の健康データを分析しました。
なかでもウェールズは帯状疱疹ワクチン接種に関して“80歳未満まで接種可能、80歳以上は接種不可”という厳格な年齢制限を設けていました。結果的に、80歳を境に、接種層と未接種層を比較しやすい状況となったのです」(大西さん・以下同)
研究で特に重視されたのは、接種せずに80歳になった人、同時期に接種してすぐに80歳になった人のデータだ。
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両者の医療記録も考慮された。頻繁に医療機関にかかる人は、認知症と診断される機会が増えてしまったり、認知症のリスクを高める薬を処方されたりする可能性が高いからだ。
「こうした統計上の分析をした結果、帯状疱疹ワクチンを接種した人は、接種していない人に比べて、その後の7年間で認知症を発症する可能性が20%も低いことがわかったのです。
今回の研究に直接携わってはいませんが、同様の研究をしているオックスフォード大学教授のポール・ハリソン氏はニューヨークタイムズの取材に対し『認知症を遅らせる方法がほとんどないなかで、そのリスクを20%減らせるのは画期的。私たちが知る限り最も強力な予防効果の一つだ』と絶賛。ハーバード大学医学部の医療経済学者で医師のアヌパム・ジェナ氏も、ニューヨークタイムズで『これはかなり強力な証拠だ』と発信しています」
■認知症が始まる更年期の対応がカギ
このように、本来の用途とは別に、認知症予防効果という副次的な効果をもたらす可能性がある薬はほかにもある。
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ナビタスクリニック川崎院長の谷本哲也さんが解説する。
「3月31日に『ネイチャーメディシン』に掲載されたレポートでは、更年期障害のホルモン治療と認知症に関して論じられています」
認知症の7割近くを占めるアルツハイマー病は、3分の2が女性。その要因は女性が長生きだからと考えられているが、平均寿命が6歳長いだけでは説明がつかないと、始められた研究なのだという。
「体の消費エネルギーの20%を占めるのが脳。女性ホルモンのエストロゲンは脳へのエネルギー源の供給をサポートしますが、閉経して分泌量が急減すると、脳はエネルギー不足に。それを補うために脳の脂肪成分を燃焼させますが、結果的に神経伝達の効率が落ち、アルツハイマー病のリスクを高めると考察される。つまり、ホルモンバランスが崩れる閉経期は、認知症の始まりと捉えられています」(谷本さん・以下同)
そこで、閉経後に更年期障害の一般的な治療として使われるホルモン補充療法(HRT)が、減少したエストロゲンの脳内の効果をどのように補完するのか複数の研究が進められている。
「ある研究では、HRTをおこなった女性は、アルツハイマー病の発症リスクが1〜3年で40%、3〜6年で60%、6年以上で最大80%下がったという結果でした」
もちろん、認知症予防目的でHRTを受けることはできない。
「また閉経から10年以上たってからのHRTは逆に認知症リスクを高めるとも報告されています。更年期障害と適切に向き合い、医師とよく相談してHRT治療を選択肢に入れることが望まれます」
認知症リスクを少しでも下げるため、帯状疱疹の予防、更年期障害の適切な治療を検討してみよう。
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