「おかえり」が言いたい　知床事故追悼式に参加しなかった家族の思い

　北海道・知床半島沖で観光船「KAZU　Ⅰ（カズワン）」が沈没した事故から3年を迎えた23日、船が出港したウトロ漁港がある斜里町では、全国から集まった乗客家族らが事故で失った大切な人を思い、それぞれの時間を過ごした。

　早く2人に「おかえり」が言いたい――。カズワンに乗船した長男（当時7歳）と元妻（同42歳）は3年前、行方不明になった。「あの日から時間は止まったまま」。2人の帰りを待つ道内の男性（52）は、ウトロ漁港の奥に広がるオホーツク海をじっと見つめた。

　午後1時、まだ肌寒い漁港には、波音と海鳥の声だけが響いた。

　男性は今年も追悼式に参加しなかった。「2人が帰ってくるのは厳しいと分かっていても、待ち続けていたい」。だから「追悼」はできない。3年間、一度も2人の写真に手を合わせたことはない。

　2人が乗船した港に立つと、たわいもない会話を思い出し、涙がこみ上げた。「もし息子がそばにいたら、もう小学5年か」。事故当時、2年になったばかりだった小柄な息子の姿を思い浮かべると、3年という月日の長さを実感させられた。

　「知床のきれいな自然を見て、楽しい思い出を作りたかっただけなのに。どんどん天候が悪くなって船体が傾きながら沈んで……」。2人の恐怖と苦痛を想像する度、胸が潰れそうになる。男性の願いはずっと変わらない。「早く帰ってきてほしい」。海に向かいながら、思いを強くした。

　乗客家族以外にも、事故に心を痛め、寄り添い続ける人は多い。追悼式には、地元住民だけでなく道外からの参列者の姿もあった。

　仕事を休んで訪れた東京都の公務員男性（44）は「事故を防ぐことはできなかったのかと思うと悔しい。二度と起こさないために、風化させてはいけない」と花束を手向けた。【後藤佳怜、本多竹志】

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