楽天モバイルは、楽天グループが出資してる米AST SpaceMobile(以下、AST)と低軌道衛星を使って宇宙から送信するモバイルブロードバンドネットワークを構築し、地球上におけるモバイル通信サービスの提供エリアを拡大する「スペースモバイル」プロジェクトに取り組んでる。
4月23日、そのプロジェクトがさらに前進した。楽天モバイルは「Rakuten最強衛星サービス」と銘打ち、2026年第4四半期(10〜12月)をめどに開始する。同日の会見場には、楽天モバイル 代表取締役会長の三木谷浩史氏と、代表取締役 共同CEO シャラッド・スリオアストーア氏が登壇した。
携帯電話ネットワークは日本全土をカバーできておらず、三木谷氏は「70%はエリア化された一方で、残りの30%はまだだ」という。人々が居住・往来する場所では問題なく通信が使えても、山岳地帯や無人島など、地上に携帯電話の基地局を建てにくい地域をエリア化するのは難しいのが現状だ。
●スペースモバイルプロジェクトは、地上設備の土地探しから始まる
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スペースモバイルプロジェクトでは、宇宙空間に打ち上げた低軌道衛星から地上に向けて直接電波を発射することで、山岳地帯や離島などのエリア化や、災害時に被災地の基地局が損壊しても、通信サービスを継続して提供することを目指してる。
スペースモバイル最大の特徴は、市販されているスマートフォンや携帯電話でも通信サービスを利用できる点だ。サービス提供を開始した際には、衛星通信用の専用端末を用意する必要がなく、普段、使い慣れてる携帯電話で、日本国内で広く通信サービスを利用できるようになるだろう。
衛星と楽天モバイルのネットワークをつなげるためには、ゲートウェイと呼ばれる地上設備が必要になる。スペースモバイルプロジェクトでは、まずゲートウェイを設置する土地を探すことから始めた。低軌道衛星を利用するため、ゲートウェイの設置場所は見通しが開けている必要がある。
次の工程として、候補地で電波環境調査を行い、衛星とゲートウェイ間の通信(フィーダーリンク)に使う周波数に干渉するような電波がないか確認した。
●軌道衛星とスマホの直接通信によるビデオ通話に成功
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楽天モバイルは2020年3月にASTに出資。ASTは2022年9月に低軌道試験衛星「BlueWalker 3」打ち上げに成功し、2023年4月には英Vodafoneや米AT&Tと共同でスマートフォン同士の音声通話試験を成功させた。楽天モバイルは日本での試験実施に向け、2022年11月に実験試験局免許の予備免許を取得している。
その後、ASTではAT&T、Verizon(ベライゾン)、Google、Vodafone(ボーダフォン)など7社とも戦略的パートナーシップを結んでおり、既に数は40社になっているという。楽天モバイルは「この中核にいて、戦略的パートナーのリーダーシップを果たしている」(三木谷氏)という。
ASTは2024年9月に商用衛星「BlueBird Block 1」を5機打ち上げており、10月には全てのアンテナ展開に成功した。サービスが始まると、「50機の衛星が、1時間あたり地球を約2周するイメージになる」(三木谷氏)という。
そして楽天モバイルとASTは2025年4月に、日本国内で初めて、低軌道衛星と市販スマートフォン同士の直接通信によるビデオ通話に成功したと発表した。福島県内に設置した楽天モバイルのゲートウェイ地球局から電波をBlueBird Block 1に向けて発信し、衛星を介してスマートフォンが受信した。
●特殊な通信方式を使わず、「ほとんどのLTEスマホ」で使える
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スペースモバイルは、通常の携帯電話と通信するため、特殊な通信方式は使わない。スペースモバイルのサービス開始当初に日本で提供するサービスでは4Gの通信方式を予定してる。具体的な対応機種は明らかにしなかったものの、数としては期待できるようだ。
三木谷氏は、楽天モバイルの優位性について、衛星のアンテナが他社と比べて約36倍に匹敵することを紹介する。他社の衛星アンテナは約6.2平方メートルなのに対し、次に打ち上げられる衛星アンテナは約223平方メートルと巨大だ。三木谷氏は、「アンテナが大きいからつながりやすい」との表現を繰り返しアピールした。
楽天モバイルのシャラッド・スリオアストーア氏は、「どのバンドを使うかは具体的には決まっていない」との考えを示し、「Band3かプラチナバンドなのかは2026年に決める」とした。
料金について、三木谷氏は「まだ悩んでいるのが正直なところ」と、本音をもらした。さらに、「災害時は楽天モバイルの契約者以外もつながるようにできたらいいなと思っている。サービスは単純にSMSだけできる、いろいろなサービスの利用を保証できるなど、さまざまなサービスの形があると思う」とした。
スペースモバイルが使えるようになると、日本のどこでも通信サービスが使えるようになるだろう。例えば、人が住んでいないような山間部などはいまだに圏外のエリアが多いが、そのような環境で働いている林業関係者やインフラ工事従事者、登山者にも通信サービスが届くようになる。災害時に連絡手段を確保できるメリットもある。
三木谷氏は、今後の展望について、「サービス開始後にO-RANを通じて、世界のキャリアに衛星とスマートフォンの直接通信サービスを展開していきたい」とした。
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