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2025年3月26日、創業120年の老舗企業「よーじや」(京都市)が60年ぶりにロゴマークを刷新すると発表。SNS上で賛否を巻き起こした。
「よーじやは生まれ変わります」と記して、リブランディングを発表した同社のXの投稿には、4月下旬時点で6.9万件の「いいね」と1500件以上のリポストが。投稿直後は、「戻してほしい」「広く認知されている企業の顔を手放すのはもったいない」「残念」といったロゴ変更への批判コメントがあふれた。
しかし、実際は旧ロゴを手放すわけではない。同社の國枝昂社長のnoteによると、「旧ロゴと新ロゴを使い分けていく」という。さらに、旧ロゴの手鏡に映る女性像「よじこ」をベースにした新たなコーポレートキャラクター、新「よじこ」も誕生した。
新旧のロゴを使い分けるという認識が広がったことで、現在は一定の理解が得られているようだ。「ロゴ刷新の舞台裏」と、発表から約1ヵ月が経過した「現在の思い」を國枝昂社長が語った。
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●「固定ファンがいない」危機感
國枝氏は、先代である父の急病を機に2019年8月によーじやに入社。2020年4月、30歳で5代目社長に就任した。入社後は、「脱観光依存」の方針を掲げた矢先にコロナ禍が到来、売り上げが落ちていった。「この時に脱観光依存が必須だと確信した」と國枝社長は当時を振り返る。
「就任時から最も課題だと感じていたのは、リピーターが少ないこと。コロナ禍以前のインバウンド比率は約4割で、国内のお客様を含めて9割近くを観光客が占めていました。いわゆる一見さんが多く、ファンに支えられているブランドではない。いずれ淘汰されるのではないかという危機感があり、脱観光依存の施策を積極的に進めることにしました」
よーじやといえば、「あぶらとり紙」が広く知られている。さかのぼると、1990年に起こった「あぶらとり紙ブーム」を機に売り上げを伸ばし、観光地に出店を重ねていった。1990年までは2店舗だった直営店が、2000年代半ばには27店舗まで拡大。多くの人がイメージする「あぶらとり紙のよーじや」ができあがった。
しかし、その後はあぶらとり紙のブームが縮小し、需要が低迷していく。
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「当然当社の売り上げも下がっていきましたが、社員が危機感を持つほどではありませんでした。だから、会社が成熟期・衰退期に差しかかっているのに、私が就任した2019年まで全く変化してこなかった。世間の当社へのイメージは変わらず、売り上げが伸び悩む状態でした」
リブランディングを発表したのは2025年3月だが、それより5年も前からよーじやの改革は始まっていたわけだ。現在は、スキンケア製品などを扱う「よーじや」を19店舗、スイーツなどを提供する「よーじやカフェ」を2店舗運営しており、あぶらとり紙以外の日常使いできる製品を増やしているという。
ピーク時と比較すると、あぶらとり紙の売上額は4分の1以下に減少している。一方で、「ハンドクリーム」や「リップクリーム」など、その他のスキンケア商品の売り上げが伸長しているそうだ。同社の売上構成比は、カフェも含めた「よーじやブランド事業」が95%以上を占める。
残りの5%未満は「その他の飲食事業」だ。2022年6月には新事業として、十割蕎麦専門店「10そば 京都 御幸町店」を京都市にオープン。2023年11月には、2号店の「大阪 本町店」も構えた。500円〜の低価格帯で提供することで、日常使いを促したい狙いがある。
●新ロゴ、新「よじこ」に込めた思い
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そうした脱観光依存戦略を進めるなかで、2024年初頭からロゴ変更にも着手。試行錯誤を経て、2025年3月にリブランディングを発表した。「京都発のライフスタイルブランドとして生まれ変わる」という意思を込めて、以下のようにロゴを変更した。
「これまでは、旧ロゴが『コーポレートロゴ』『ブランドロゴ』『商品ロゴ』を全て担っていました。野球で言うなら1から9番までを担うぐらい、全部があのロゴでした。広く認知されていて褒められる一方で、『生首だと思っていた』『怖い』という声も少なからずあったんです。何より、旧ロゴは『あぶらとり紙』を想起させるのが課題でした」
企業として長く存続していくには、あぶらとり紙屋から脱却すべき、そのためにロゴの刷新が必要だと判断した。そして、頭をひねって生まれたのが新ロゴであり、新よじこだった。
「ひと目で認識してもらえる旧ロゴのメリットは残したい一方で、『旧ロゴ=あぶらとり紙、お土産』というイメージは払拭したい。このジレンマに苦労しました。当初は手鏡に映る女性の姿は残しながら抽象化していく段階も踏みましたが、残しすぎるとイメージが変わらない。抽象化しすぎるともとのロゴの女性とは別人に感じてしまう、といった試行錯誤がありました。
最終的に、ブランドロゴは手鏡のシルエットのみを残して『よーじや』という名前をより認知していただく方向に。手鏡に映る女性は、コーポレートキャラクター・新『よじこ』としてリニューアルしました」
●発表後は賛否が巻き起こった
3月26日にプレスリリースやSNSでリブランディングを発表すると、SNS上で批判を含むさまざまな反応があった。上述したとおり、リブランディングの背景はやや複雑で、ロゴも単純に置き換わるわけではない。そうした点が伝わりきらなかったこともあり、「なぜ親しまれたロゴを変えるのか」と当初は批判が集中したようだ。
その後、リブランディングの意図を丁寧に説明した國枝社長のnoteも広く読まれたことで、一定の理解は得られているという。
「批判的な声もいただいていますが、新よじこがかわいいという声もあります。リブランディング記念で発売した新よじこのグッズも売れ行きが良く、通常の購買層である40〜50代よりも若年層の方に多く購入されています。よーじやに関心を持っていただける若年層が増えたのではないかなと」
社内でも新よじこの評判が良く、消費者の反響も踏まえ、「愛されるキャラクターになっていくだろうと手応えを感じている」と國枝社長。
「今回のリブランディングを通じて、さまざまな声をいただき、非常にありがたいです。今までは当社に無関心だった方が、『好き』『嫌い』と意見を持つ状態になったわけなので。結局のところは、ロゴデザインが称賛されるか否かではなく、当社が目指す『京都発のライフスタイルブランド』を形にできるか、それをみなさまに受け入れていただけるかが大事だと考えます」
●どうやって「みんなが喜ぶ京都」にするのか
リブランディングにあたり、新たにコーポレートスローガン「みんなが喜ぶ京都にする」を掲げた。「みんなが喜ぶ京都」とは、どういうことなのか。まず、國枝社長が感じている現状の京都の課題を聞いた。
「京都と聞くと、『オーバーツーリズム』『財政難である』『観光客が多くてバスに乗れない』など、漠然とした住みにくいイメージがある状態に危機感があります。実際、京都市の人口減少は深刻化しており、住人が住みづらい街になってきています。その原因の一つと考えられるのは、京都観光が京都市に集中している点だと思います」
京都市の観光総合調査によると、2023年の同市の観光客数は5028万1千人でコロナ禍前の水準に戻ってきている。外国人宿泊客数は535万7千人で過去最高だった。また、京都市の住民基本台帳に基づく日本人の人口減少数は、2020年5846人、2021年8870人、2022年1万1317人と3年連続で全国ワースト1位に。2023年は1万801人で神戸市に次いで2位だった。
そうした課題感が小売業にどう結びつくかというと、「外国人向けに商売をしていて、地元の人たちに目を向けていないブランドだと認識されてしまうこと」だという。
「120年にわたり京都で事業を営んできた企業として、京都に貢献したい思いがあります。本業では、京都土産としての需要を引き続き担いつつ、地元の方も含めてみなさまに愛される『おなじみの店』へのイメージ転換を目指し、カフェ・小売り事業で日常使いしていただける新商品開発や販路拡大を図ります。さらに、地域貢献活動や京都の魅力を発信する事業にも取り組んでいきます」
おなじみの店へのイメージ転換の一貫として、「ジェイアール京都伊勢丹」や「北千住マルイ」など観光地以外への出店も進めている。地域貢献活動では、「京都サンガF.C.」など地元のスポーツチームのスポンサーを務める。また、京都でモノづくりをしている人と手を組み、その魅力を発信していく新事業も予定しているという。
「ビジョンに忠実に事業を展開し、京都に欠かせない企業として、みなさまに存在意義を感じていただけるように成長したい」と國枝社長は意欲を示した。一定数の批判も想定のうえで、リブランディングに舵を切ったよーじや。老舗企業の命運をかけた挑戦に、多くの消費者が関心を寄せている。
(小林香織)
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