"既定路線"or"暴走"の2シナリオで考えるトランプ関税で日本経済はどうなる!?シミュレーション

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2025年04月25日 06:10  週プレNEWS

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スーパーで高くなるものは? 円安はどうなる? 賃上げへの影響は?

関税を引き上げると全世界に発表した数日後に、それを引っ込めるトランプ米大統領。この男に世界経済は翻弄されっぱなしだ。関税が引き上げられれば日本経済はもちろん大打撃を被るが、いかんせん、何をしでかすかマジでわからない。そこで、2シナリオに分けて緊急シミュレーションを実施した!

【写真】トランプ関税で困る輸出企業ほか

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■トランプ大統領は迷っている?

たったひとりの人間に世界中がここまで振り回されるとは。トランプ米大統領が発表した関税措置である。

事の発端は4月2日。トランプは米国向け輸入品のすべてに相互関税を適用すると発表。基本税率10%に加え、日本に対しては24%を課し、最大の標的である中国に対しては発動済みの20%に加え34%を追加するとした。5日には早くも基本税率が発動となり、9日には追加関税も予定どおり開始された。

ここから事態はさらに混迷に向かう。中国の対抗関税発表も意に介さなかったトランプ政権が、9日午後には日本を含む複数の国に対して、90日間の追加関税停止を発表したのだ。1級FP技能士の古田拓也氏によると、この措置にはウラがあるという。

「有力メディアの解説によると、トランプは米国で長期金利が急上昇したことにひるみ、矛を収めたとされています。彼はビジネスマンであり、以前から株価は気にしているとの評判がありましたが、本当の泣きどころは金利であるというのです。

というのも、コロナ禍への対応で莫大な国債発行を行なったため、金利上昇は利払い費の増大となり米国の財政をさらに圧迫するから。加えて、トランプが不動産業界で名を成したことも関係があるとみています」

不動産事業は基本的に物件の購入・建設などの資金を借り入れで調達している。つまり金利上昇は、彼の出身業界に甚大な悪影響を及ぼす。要は、自分の尻に火がついたから腰が引けたという話なのだ。

とはいえ決して楽観できる状況ではないと、経済評論家で未来予測を専門とする鈴木貴博氏は念押しする。

「日本の基幹産業である自動車への25%関税は継続されているほか、同じくお家芸の半導体製造装置への追加関税も検討されています。関税率の引き下げ交渉が始まりましたが、日米関係も安倍首相時代の蜜月関係とは比べるべくもない頼りなさで、交渉失敗の未来も想定しておくべきでしょう」

天然資源と食料生産に向く平地に恵まれず、輸出入が国民生活に極めて大きな影響を及ぼす日本にとって、トランプ関税がどうなるかはいわば死活問題だ。そこで「既定路線」と「暴走」のふたつのシナリオを想定し、今年から来年にかけての日本経済の予測を行なった!

■「既定路線」と「暴走」。それぞれの実現度は?

その中身はこうだ。既定路線シナリオは、日本を含め、米国に友好的な国々への追加関税が取りやめになった未来だ。

つまり中国のみ相互関税が継続となり、ほかの国は10%の基本税率が継続。中国の関税率は10日に125%に引き上げられたが、ひとまず7日に発表された水準である104%と仮定する。また、鉄鋼や自動車への25%関税は続く。

もうひとつの暴走シナリオは、90日間の停止が解除され、当初の税率が各対象国に対して再び課されるというもの。日本の輸出品には24%の関税がかかるほか、EUや東南アジアも大打撃を食らう、悪夢みたいなシナリオだ。

最初に、それぞれの実現可能性について古田氏に聞いた。

「押さえておくべきはトランプ関税の目的で、それは米国製造業の復活です。というのも、これこそが彼の支持基盤である、中西部の寂れた工場地帯で不遇を嘆く白人労働者に訴える政策だからです。そのためには、製造業の分野で世界を制圧しつつある中国を狙い撃ちする必要があります」

当然、中国との覇権争いを制する目的もあるだろう。むしろトランプは中国を名指しして関税をかけたかったが、それではあまりに対立が大きくなりすぎるため、中国が挑発に乗るように誘導したと解説する識者もいる。

「実際に親密国は米国に逆らわず、交渉を求めて殺到しています。これを踏まえると、既定路線に落ち着く可能性が7割、暴走シナリオに発展する可能性を3割とみておくくらいが妥当でしょう」

続いて、それぞれのシナリオが世界経済、ひいては日本経済に及ぼす影響をみていこう。引き続き古田氏に解説してもらった。

「どちらのシナリオに転んでも、歴史の授業で習った『ブロック経済』のように、経済圏が分かれると考えられます。自由貿易体制は傷つき、あらゆるコストの上昇圧力となるでしょう。

とはいえ既定路線の場合、日本に与える影響は比較的軽微です。相互関税10%であれば、輸出入いずれのコストアップも、インフレが定着した今なら価格転嫁が可能。GDPへの影響は大きくはならないと思いますが、それでも0.2〜0.5%程度の下押し圧力にはなると試算しました。

なんとか景気後退は回避できると踏んでいますが、問題は暴走シナリオの場合。年率で1%程度のGDP押し下げとなりそうです」

メカニズムはこうだ。米国への輸出は、日本のGDPの約3.4%を占めている。これに24%の関税がかかって輸出が3割減少すると仮定した場合、直接的なGDP押し下げ効果は0.8%となる計算だ。

「これに米国に輸出するための設備投資や、雇用調整などの波及効果を勘案した数値が、GDP1%減です。さらに厳しいのが、これにはコメの価格高騰や国内消費の低迷といった、進行中の事情は反映されていないこと。相乗効果があれば、日本経済への打撃は計り知れないものになる可能性もあります」(古田氏)

■光熱費やガソリン代は安くなる

続いて賃金と雇用について見ていこう。古田氏は「ふたつのシナリオでかなりの違いが出そうだ」と言う。

まず、今年の春闘で満額回答を連発した国内大企業には、賃上げの余力がまだ十分にある。それに加えて、インバウンドや建設など、関税に関係がない分野も勢いがあるため、既定路線であれば物価上昇分くらいは上がりそうということだ。

「これが暴走シナリオになると、1%程度の賃金下落圧力となるとみています。仮に物価が1%上昇するとして、賃金が1%下がると実質賃金はマイナス2%となる。日本経済を引っ張る製造業の不振は国内の中小零細企業まで波及するので、厳しいですね。

雇用については、既定路線であれば失業率は上がっても0.1%ぐらい。工場で働く人以外はほとんど実感できないでしょう。暴走シナリオの場合は、失業率を0.5%程度押し上げる圧力となる。製造業にとどまらず全国で20万〜40万人規模の失業が想定されます」

最後は物価について。鈴木氏に全体観を解説してもらった。

「国内の物価を動かす大きな要因が、為替と景気です。多くのエコノミストが、為替は短期的には関税とは関係なく、日米の金利差縮小により円高基調で進むと予想しています。つまり輸入物価が下がる効果が期待でき、相互関税による輸入コストアップはおおむね吸収できそうです。

対する景気は、関税のシナリオが大いに関係します。相互関税の負担者は値上げされた商品を買う両国の消費者であり、税率が上がれば上がるほど財布のひもが固くなるからです。こうして景気が悪くなれば、日本は再びデフレ経済に後戻りすることになるでしょう」

古田氏には、物価への影響をシナリオ別に試算してもらった。

「既定路線シナリオでは、消費者物価で0.1%程度の軽微な上昇圧力になりそうです。一方、暴走シナリオの場合は、1%程度の物価上昇圧力は覚悟すべきだと思います。

特に、米国からの輸入が多い小麦や肉、トウモロコシなどはかなり値上がりするでしょう。お米が高いからと主食をパンなどに切り替える人がいますが、パンもパスタも高騰してしまうかもしれません」

一方、鈴木氏は費目によっては値下がりするものもあると語る。

「電気やガスなどの光熱費と、ガソリンなどのエネルギー代は落ち着く可能性があります。先ほどお話しした円高と、世界的な景気減速による原油価格の低下が見込めるからです。

今があまりにも高すぎるので、どちらも10%程度下がってもおかしくないでしょう。両シナリオともあまり差はなさそうで、趣味に関してもインドア・アウトドアを問わず、今年は値下がり傾向でしょう」

既定路線シナリオでも客足減を受けて割引が始まり、5〜10%ぐらいお得になりそうだという。

「また、おそらく外食でも価格競争が始まります。原材料費と光熱費が下がるので、外食企業に価格を下げる余力ができますから。並行して景気悪化に応じて客足が減るので、既定路線なら外食の価格が平均して5%程度は下がりそう。暴走シナリオならその倍、10%下がってもおかしくないでしょう。

洋服や家電、生活雑貨などでは、買い控えが起きそうです。そうなれば販売店は価格を下げますから、待てるものは少し待ってみてもいいかもしれません」

これはもしかして、喜んでいいことなのか?

「短期的には生活感が改善すると思います。ただ中長期的には、不況なのに物価は上がるスタグフレーションになってしまうはず。全体的にはマイナスの側面が大きいことには間違いないでしょう」

国民の生活がどうなるかは、石破政権の今後の交渉にかかっている。

取材・文/日野秀規 写真/共同通信社 時事通信社

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