
幸福の科学学園・ドミニカ人留学生バッテリー物語(後編)
投手のエミール・プレンサ(3年)が表情豊かに語るのに対し、捕手のユニオール・ヌニエス(3年)は表情を変えずに淡々とした語り口が印象的だった。
「ドミニカにいた時から、日本にはめっちゃいいイメージがありました。でも、家族と離れて怖かったです。最初は日本の食べ物が全然合わなくて、体重が90キロから76キロまで減りました。納豆、味噌汁は今もダメ。焼肉、カレー、チリトマトは好きです」
日本語を指導する茨田大智コーチによると、ユニオールの日本語習得スピードは速く、「1〜2カ月もすると日常会話には困らなくなりました」という。
天真爛漫なエミールに対し、思考力の高いユニオール。キャラクターが異なるだけに、衝突することも多いという。
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【来日当初は日本文化に戸惑い】
最初のケンカは、来日時に乗り継いだイスタンブールの空港で起きた。ふたりはその日が初対面だった。ユニオールが振り返る。
「英語がわからなくて、どこに行けばいいのかわからなくて、ふたりで迷っているとき、エミールが『おなかがすいた』って何回も言って。今は行くべきところに行こうと言って、ケンカになりました」
隣で話を聞いていたエミールは苦笑いしながら、「だっておなかがすきすぎて、我慢できない!」と口を挟んだ。
エミールのコントロールがバラつき、ショートバウンド投球が続くと、捕手のユニオールがスペイン語で叱りつけるシーンがよく見られたという。
ケンカの原因は、どちらにあることが多いのか。ふたりに尋ねると、エミールは愛嬌たっぷりに「おれ!」と即答した。
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ただし、ケンカが多いといっても、彼らにはラテンの血が流れている。ユニオールは「音楽を聞くと忘れて、すぐ仲直りします」と語った。
ユニオールは食事以外にも、日本文化で戸惑うことが多かったと振り返る。
「ドミニカでは、わたしたちはシャワーしか浴びなかった。日本ではみんなでお風呂に入ります。あと、遅刻してはいけないこと、箸を使って食事すること、(戸惑うことは)たくさんあります。ドミニカではスプーンで食べます。箸の使い方は、日本に来てから覚えました」
生活面に戸惑い、技術面で伸び悩んだ時期もあった。だが、昨年12月にドミニカ共和国に里帰りしたことが、ユニオールの転機になったという。
「家族とたくさん話して、なんで日本に来たか理由を思い出しました。私には夢がある。チームの戦力になって、結果を出す手伝いをして、甲子園を目指してます。だからもっと頑張ろうと思いました」
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【ホーライスイングで打撃開花】
今年に入って、ユニオールは急成長を遂げている。体重は90キロに戻り、持ち前のパワーが生きるようになった。さらに、技術的に大きく進化する要因があったという。
「ホーライスイング、めっちゃ感動しました。(スイング軌道の)後ろを使うことで、めっちゃ飛ぶようになりました。ドミニカではこんな打ち方、知らなかったです」
ユニオールの言う「ホーライスイング」とは、幸福の科学学園の特別コーチを務める蓬莱昭彦の提唱するスイングのこと。蓬莱特別コーチは西武、中日でプレーした元プロ野球選手で、東京の中学硬式クラブの名門・世田谷西リトルシニアの総監督として知られる。
ユニオールは蓬莱特別コーチから打撃技術を学び、確かな手応えを得たという。練習試合では2打席連続弾が飛び出し、取材後に行なわれた春季栃木大会では高校通算5号となる本塁打も放っている。
日本の生活を通して学んだことは何か。そう尋ねると、ユニオールは「ふたつあります」と前置きして、こう続けた。
「ひとつはこの学校の生活で、日本人の生き方を学びました。仲間はみんなやさしくて、日本の文化を教えてくれました。もうひとつは、エル・カンターレの教えを勉強して、考え方が変わりました。心の掃除をするようになって、人として成長しました」
その言葉を受けて、エミールもこう続いた。
「わたしもです。ドミニカにも神様あります。日本に来て、初めて茨田さんにエル・カンターレの本を読んでもらって、おれの考え方が変わって、性格が変わって、野球がうまくなりました」
彼らの言う「エル・カンターレ」とは、幸福の科学の本尊を指す。
幸福の科学学園に限らず、日本にはさまざまな宗教団体が母体となる学校が存在する。それぞれの学校に信じるものがあり、救われる生徒がいる。エミールとユニオールもまた、そのひとりなのだろう。
なお、幸福の科学学園の外国人留学生は彼らだけではない。今月21日には1年生としてリカルド・ペレスが来日。父は2015年から2年間、中日でプレーしたリカルド・ナニータである。また、台湾から林軍成も加入予定。後藤克彦部長は「すごく意識が高い子で、いずれ投手として台頭するはずです」と評価する。
ただし、学校をあげて特別に野球部を強化しているわけではない。高校野球部の部員数は3学年合わせても20人に満たず、練習は18時30分には切り上げる。学校として学業最優先の方針であり、毎年のように東京大など名門大学への合格者を輩出している。野球部にも東大志望者がいるという。
エミールとユニオールのドミニカンバッテリーはNPBでのプレーを希望し、今秋のドラフト会議での指名を目指している。
「この春は(栃木大会)ベスト4まで行きたい。夏は甲子園まで行きたいです。わたしのパワーでチームを手伝います」(エミール)
「チームを勝たせて、甲子園に行って、日本のプロ野球でプレーしたいです」(ユニオール)
ふたりでケンカしながら、ドミニカから50時間もかけて来日した経緯がある。胸に秘めた強い覚悟と、日本で学んだ精神を武器に、彼らは高校最後のシーズンを戦っている。