ハロルド作石の新作『THE BAND(ザ・バンド)』(講談社)の単行本第1巻が売れているようだ(発売後1週間で3刷が決定)。
『THE BAND』は、『BECK』のハロルド作石が、16年ぶりに挑むバンド漫画(ロック漫画)であり、「月刊少年マガジン」創刊50周年の目玉企画の1つとして連載開始した作品。
参考:【画像】『BECK』ハロルド作石の新作『THE BAND(ザ・バンド)』の内容は?
※以下、『THE BAND』第1巻の内容について触れています。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)
主人公の名は、新木友平(中学3年生)。小学生時代から理不尽なイジメを受けている彼には、これまでたった1人だけ親友と呼べる存在がいた。井畑眞太朗(マタロー)という名の彼とは、小学5年生の頃、音楽好きな母親に連れられて行ったライブの興奮を共有した仲だったが、その話のわかる友はわずか1年半で転校。それ以来、友平は再び孤独で辛い日々を送っているのだった。
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が、そんなある時、友平は叔父の“マコちゃん”から1本のギターを譲り受ける。そして、ひょんなことからマタローとの数年ぶりの再会も果たし、すでにギターの基礎をマスターしている彼から楽器の奏法を教わることに。それまで、「俺がいなくても回り続けている」と思い込んでいた友平の「世界」が、大きく変わろうとしていた――。
これが、『THE BAND』の導入部分の展開だが、物語はこのあと、友平とマタローが即席バンドを組んでストリート・ライブに出演、さらに、彼らが高校に進学後、バンドマンとして少しだけ成長した姿が描かれていく(友平とマタローは、現段階では別々のバンドに所属している)。
◼︎ハロルド作石はなぜ、今回も同じようなテーマを選んだのか
ところで、あなたが『BECK』の読者ならすでにお気づきだろうが、実はこの『THE BAND』、序盤の展開は、ほとんど『BECK』のそれの焼き直しである。
つまり、「孤独な少年がギターと出会い、自らを解放することで、世界と対峙し、仲間を得ていく」という物語の基底構造は、両作に共通するものであり、誤解を恐れずにいわせていただければ、そこにもはや“新しさ”はない。
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しかし、新しいか古いかでいえば、そもそもこの種のストーリー展開は、水野英子『ファイヤー!』からはまじあき『ぼっち・ざ・ろっく!』にいたるまで、日本のバンド漫画(ロック漫画)の定型ともいえ、だとすれば、ハロルド作石は、今回もあえて最初はパターン化された物語のフォーマットを用いて、そこから“新しいバンド漫画”を描こうとしているのだ、といえなくもない(定まった「型」を壊していくというのも、“ロックなやり方”の1つだ)。
あるいは、『BECK』の主人公・コユキの成長とは別の形の、ギター少年の成長のヴィジョンが、作者の頭の中にはすでにあるのかもしれない。そうでなければ、同じ「バンド物」を再開させるにしても、『BECK 2』を描いた方が楽だろうし、実際、それを望んでいるファンも多いはずだ。
◼︎主人公が使うギターのコンセプトは「宇宙」
ちなみに、友平が叔父から譲り受けたギターは、カワイの「ムーンサルト」という国産のギターである(現在は製造中止)。三日月型のボディと星型のヘッドを持つその独創的なデザインのギター(作中の言葉を使えば、「ヘンな形のギター」)は、かつて、「宇宙」をコンセプトにして開発された楽器なのだという。
そう、この「ヘンな形のギター」こそ、これからロックの世界で友平が起こすであろう、“ビッグバン”を予感させるにふさわしい楽器なのだ。
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いずれにせよ、「少年がギターを手にした瞬間の無敵感」を描かせたら、もはやハロルド作石の右に出る者はいないといっていいだろう。「ギターってのは、たった6本の弦を伝わって出てくる人間性なんだ」というのは、『BECK』の登場人物のひとり、エディ・リーのセリフだが、これから三日月型のギターを通して世界に解き放たれる新たな主人公の「人間性」にも注目したい。
(文=島田一志)
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