メジャーの目玉になる「退場劇」。 ヤンキース・ブーン監督の「仕事」【山本萩子の6−4−3を待ちわびて】第163回

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2025年04月25日 13:10  週プレNEWS

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ヤンキースのブーン監督について語った山本キャスター

先日、メジャーリーグに関するイベントに参加した際、会場にいたファンの方から「アーロン・ブーン監督をとりあげてほしい」というオーダーがありました。多くのメジャーファンから愛されるブーン監督は、どんな監督なのか。絶好の機会だと思い、今回記事にさせていただきました。

【写真】山本キャスターのフォトギャラリー

私がメジャーを好きになり、最初に衝撃を受けたのがブーン監督の存在でした。2018年から名門・ヤンキースの指揮を執るブーン監督。祖父と父、そして兄もメジャーリーガーで、親子三代でメジャーでプレーした最初のファミリーです。ちなみにブーン家は、4人全員がオールスターに出場しています。

ブーン監督はそんな名家の出身ですが、ヤンキースで彼が話題になるのは主にプレー以外の面です。ご存知の方も多いと思いますが、彼についたニックネームは「退場王」。現地時間4月20日の試合でも、アーロン・ジャッジ選手の打球がファールと判定されたことに激怒し、見事、通算40回目の退場を宣告されました。

選手以上に熱くなる監督として知られていて、少しでも納得がいかないことがあるとすぐにベンチを飛び出して猛抗議をします。審判にとっては、おそらく"愛すべき相手"ではありませんよね。審判も人間ですから、感情的にクレームを入れる監督に対してはいい印象を抱かないでしょう。

昨年は、ファンのヤジをブーン監督のヤジと勘違いした審判によって、試合開始2分で退場になるという珍事もありました。もちろん、それに対しても猛抗議をしたのですが、球審には「誰が言ったかは関係ない」と一蹴されたそうです。イメージはよくなかったかもしれませんが、少し同情したくもなります。

そんなブーン監督ですが、今年の2月には2年間の契約延長が発表され、2027年シーズンまでヤンキースの指揮を執ることが決まっています。その大きな理由は、MLB史で初の、監督就任後の2シーズンでいずれも100勝以上を記録した監督であることと、派手なパフォーマンス(退場)でファンから絶大な人気を得ていることも大きいと思います。

監督がベンチを飛び出すのは、選手を守るという目的があります。先ほどのケースですと、ジャッジ選手が判定に納得がいかずに抗議を続けたら退場になってしまうかもしれません。そうなるとチームの戦力ダウンは避けられませんから、スケープゴートとして監督自らが身を捧げにいきます。

実際にブーン監督は退場になってジャッジ選手の身は守りましたが、審判の判定に納得がいかず、試合後には「厚かましい判定だった」とちくり。そういった因縁を残して次の試合を盛り上げるあたりも、ファンの心を掴んで離さない理由のひとつなのです。

先日の阪神vs広島戦では、藤川球児監督が相手の危険球に激昂してベンチを飛び出しましたね。危険球はわざとではなくても選手生命を奪いかねませんから、選手にとっては一大事です。だから打者は怒りを露(あらわ)にしますし、ベンチもざわついて乱闘騒ぎになることもあります。

その時に真っ先に駆け出していくのが監督の役目です。ただ、この時の藤川監督は怒りが収まらず、逆に危険球を当てられた坂本誠志郎選手がなだめようとしていたほど。なんとも不思議な光景でしたが、熱い気持ちは伝わりました。

昔は熱くなる監督がたくさんいました。代表格は星野仙一監督でしょうが、すべての選手が入り乱れる乱闘シーンは、当時はお馴染みの光景でした。ただ、子供に夢を与えるプロ選手が暴力を振るうことは教育に悪い、という理由からか、最近では乱闘シーンを見かけることは少なくなりました。ちょっと寂しい気もします。

先日、ヤクルトの木澤尚文投手が巨人の岡本和真選手にデッドボールを与えたのですが、球が当たった瞬間に目にもとまらぬ速さで帽子をとり、深く謝罪の意を示すシーンが印象的でした。

メジャーでは、謝罪は故意に当てた証であるとして報復の対象となるので、木澤投手の件は日本的というか、木澤投手の人のよさを感じた一幕でした。同時に、あれが正しい乱闘の収め方なんだとも思いました。乱闘になったら、調子を乱されるのは投手自身ですから。

ブーン監督を見ていると、熱い監督の下でプレーできるのは幸せだろうなと思います。日本のプロ野球でも、もちろん選手たちを守るために監督は立ち上がります。そういうシーンを見るとグッときますし、監督はやはりチームの"顔"ですから、常にチームを鼓舞してほしいです。

ブーン監督の退場は、興行の目玉として成立しています。監督の退場を願うなど不謹慎な話なのは重々承知していますが。いつか現地でそれを見たい。それが、今の私の夢です。

それではまた来週。

構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作

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