自宅を秘宝館に改造した異空間「八潮秘宝館」。飛田新地を思わせる“玄関だった部分”だけでも、訪れる価値は十分すぎるほど

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2025年04月25日 16:10  日刊SPA!

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1階の入口入ってすぐの部屋と兵頭さん。「大日本ラブドール党総裁」として八潮の市議会選挙に出馬したり、『HYODO 八潮秘宝館ラブドール戦記』というドキュメンタリー映画が製作されたこともある
 廃墟、巨大工場、珍スポット、戦争遺跡、赤線跡などこれまで旅行ガイドが見向きもしなかったようなリアル異界を積極的に取り上げる日本で唯一の異空間旅行マガジン『ワンダーJAPON』(前身は『ワンダーJAPAN』)。当連載は、編集長である私、関口 勇がこれまで誌面で取り上げたなかでも、「特にインパクトが強かったスポット」をピックアップしたうえ、順次紹介していくものだ。
◆八潮駅徒歩20分ほどの住宅街にある「八潮秘宝館」

 埼玉県八潮市の「八潮秘宝館」は、『ワンダーJAPON(9)』の表紙にも採用した。以前取り上げた愛知県の「パブレスト百万ドル」同様、あまりにも衝撃的な、まさに《異空間》と感じたからだ。

 八潮市といえば、今年はじめに起きた道路陥没事故で一躍名前が日本中に知れ渡ったが(転落したトラックの運転手はいまだに行方不明という……)、八潮秘宝館はつくばエクスプレスの八潮駅から南へ約1.5km、徒歩20分ほどの住宅街にある。

◆いまや数少なくなった「秘宝館」

 ふと思ったが、「秘宝館」という言葉、もしかしたら「何それ?」という人もいるかもしれない。1970年〜80年代に歓楽温泉街を中心に全国各地に建てられた「アダルト・ミュージアム」とでもいったシロモノだ。性をテーマにした古今東西のさまざまな民芸品・性具・春画・オブジェ・彫刻・映像などが展示・上映されていた。特に秘宝館を特徴づけていたのが、大量のエロい等身大人形。ムード音楽や女性の喘ぎ声をBGMに展示され、なかには電動モーターで回転したり、腰を振る人形などもあった。

 下から風を送りスカートがめくれ上がるマリリン・モンロー(映画『七年目の浮気』)とか、複数の裸の女と3P、4Pを楽しもうとする男など、男性のエッチな妄想を等身大人形で再現したさまざまな展示(アートでは「インスタレーション」と呼んでいる)は秘宝館の醍醐味で、最盛期には観光バスが団体客を次々運ぶほどだったという。

 それが平成になって社員旅行が激減し、展示内容が時代のニーズに合わなくなると、2000年に元祖国際秘宝館 鳥羽館(SF未来館・1981年オープン)が閉館したのを皮切りに、元祖国際秘宝館 伊勢館(1972〜2007)、北海道秘宝館(1980〜2010)、別府秘宝館(1976〜2011年)、嬉野観光秘宝館(1983〜2014)、鬼怒川秘宝殿(1981〜2014)が次々と閉館。ついに熱海秘宝館(1980〜 ※2024年リニューアル)が唯一現存する秘宝館となってしまった。だから、「秘宝館って何?」という人がいても当然だろう。

 そんな状況を嘆き、一肌脱いでやろう……というわけではないけれど、ひとりの男が自宅を秘宝館に改造し、2015年秋に一般公開を始めてしまった。それが八潮秘宝館だ。私は、『ワンダーJAPON(9)』〜茨城・埼玉特集号の取材のため、2024年にオープン以来じつに9年ぶりに再訪。2015年の訪問時も、とてもリアルで精緻なつくりのオリエント工業製ラブドールがいくつも展示されていて驚いたが、その後も八潮秘宝館は進化し続けていたのだ。

◆飛田新地を思わせる“玄関だった部分”

 元は店舗だったという中古2階建て一軒家は、いつの間にか玄関が改造されてショーウインドーになり、夜は妖しいピンクの光に包まれ、骸骨やイケメンを従えた美少女が椅子に腰掛けている。まるで大阪の風俗街・飛田新地のようで、これだけでも訪れるだけの価値は十分すぎるほど。

 建物の1階道路側部分はかつて車庫だったが、そこに部屋が増築された。壁には女性下着のポスターが貼られ、レトロな看護制服を着たマネキンやミリタリールックのラブドール、どこで入手したのか下着売り場で見かけるような光るマネキンボディまでもが並んでいる。

 隣の部屋はさながら人造人間実験室だ。チェーンで吊り下げられた女性に車椅子の男性(別府秘宝館から引き取ったものだとか。北海道秘宝館や嬉野秘宝館からのものもある)、大量の首、大脳が露出し開腹状態で内部の電子部品が光る人形、そしてここにもリアルな数体のラブドールに、顔が壊れていたり花嫁衣装のマネキンが……。

 兵頭さんの脳内妄想はストーリー化されているのだが、特に説明があるわけではないので、見る者はさまざまな《物語》を勝手に脳内で構築して楽しむことになる。

◆配置、光の使い方にこだわり、妄想を具現化

 2階はフィギュアだらけの館長・兵頭喜貴(ひょうどう よしたか)さんのプライベートルームをのぞき、他の3部屋はぶち抜きの展示スペースとなっている。階段を上がってすぐの部屋は、竹槍や銃を持った女性たちが立てこもった秘密のアジトのよう。なぜか虹色のライトで輝く女性の下着が天井から大量にぶら下がり、下着泥棒が狂喜しそうな不思議な美しさをに包まれていた。

 その隣の部屋は一糸まとわぬ美少女がふたり横たわるメルヘン&エロスな世界。美少女の足にはエビがいたり、片足のない女の子が吊り下げられているなど凝りようがすごい。

さらに奥の部屋には双子の少女が謎めいた感じで並び、美しい母親?らしき女性がセクシーな網タイツ姿で座っているのだが、全身から色気が漏れている。衣装選びも見事だ。人体模型、色とりどりのガラス瓶、赤ちゃん人形、クマのぬいぐるみなど、小物類がまた異様に数が多い。

「おそらく30体ぐらいは人形がいる」と兵頭さんは言う。自身も正確な数がわからないほど大量に、この一軒家には妖しい等身大人形で溢れているが、そうした人形や小道具の配置、光の使い方などとことんこだわり、頭の中のエロい妄想を見事に具現化している。小学生の頃からカメラをいじり写真が趣味で、大学では特撮研(特殊撮影技術研究会)に入り、さらに日芸の大学院で映像芸術を学んだ成果の表れでもあるかもしれない。

 既に閉館している秘宝館のいくつかも東宝が関わっていた。八潮秘宝館は、それらに引けを取らない。「個人でつくった秘宝館なんてたかが知れてる」と思って訪れると、後頭部を鈍器で殴らたぐらいの衝撃を受けるだろう。

◆訪れる際はブログ経由で予約メールを

 こんな見ごたえのある八潮秘宝館だが、見学料(1時間:1000円、半日2000円、1日3000円)だけでは生活できないため、兵頭さんは清掃のバイトを続けている。そのため公開日は限られているので、兵頭さんのブログで確認し、予約メールを送る必要がある。

 なお、兵頭さんは毎年、八潮秘宝館にある人形や小道具を岩手の酒蔵・喜久盛酒造に運び込んで、写真集など作品作りと短期間の八潮秘宝館出張展示も行っている。「タクシードライバー」や「死後さばきにあう」など個性的なブランドで地元の米を使って純米酒だけを造り続ける気鋭の酒蔵だが、2011年の東日本大震災で被災し、旧酒蔵は完全に廃墟となっている。兵頭さんは「廃墟と人形の組み合わせは最高の被写体」と考えている。

 喜久盛酒造の藤村卓也社長は兵頭さんの創作活動に感銘を受け、撮影場所や寝床を無償で提供し全面協力。毎秋の蔵開きには八潮秘宝館出張展示(&新酒の飲み会もある)が岩手で開催されるので、機会があればぜひ見てほしい。わざわざ足を運ぶ甲斐は十分ある。

<TEXT/関口勇>

※ここで紹介している写真は2024年4月撮影のもの。展示内容は日々変わり、2025年4月時点で6体の人形が岩手に置かれたままだそう

【関口勇】
『ワンダーJAPON』編集長(フリーランス・発行元はスタンダーズ)。廃墟、B級スポット、巨大構造物、赤線跡などフツーじゃない場所ばかり紹介。武蔵野美術大学非常勤講師。X(旧Twitter):@isamu_WJ

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