『こどもせいきょういくはじめます』©フクチマミ、村瀬幸浩、北山ひと美/KADOKAWA 自分の子どもに突然「生理ってなに?」「赤ちゃんはどこから来るの?」と聞かれたら、どう答えるか。明確な答えをすぐに返せる親は、多くないのではないでしょうか。
性教育をいつ・どのように・どこまで子どもに伝えるかは、多くの親にとって悩ましい問題です。そんな「家庭での性教育ってどうすればいいの?」という疑問に応える本として、2020年に『おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方』(KADOKAWA)が出版されました。かわいらしいマンガと包括的に性教育を捉えた内容が人気を集め、2022年には第2弾『おうち性教育はじめます―思春期と家族編―』も発売。シリーズ累計30万部を突破する大ヒット書籍となりました。
そんな話題のシリーズが、今年3月に第3弾『こどもせいきょういくはじめます』(KADOKAWA)を発売。著者のフクチマミさんに、第3弾の作品に込めた思いを聞きました。
◆性教育「本当に伝えていいんだろうか」という恥ずかしさ
──おうち性教育はじめますシリーズの第3弾として、『こどもせいきょういくはじめます』を出された経緯を教えてください。
フクチマミさん(以下、フクチ)「第1弾の『おうち性教育はじめます』は、3〜10歳の幼児期から学童期のお子さんを持つ親向けに作りました。第2弾は思春期と家族編として、10〜18歳の思春期のお子さんを持つ親向けに。それぞれ、お子さんの年齢や成長段階に合わせて、どのように性教育を伝えていくかをテーマにしてきました。
ありがたいことに、多くの反響をいただき、『とてもためになった』『子どもと性について話すうえで、参考になった』という感想がたくさん届きました。一方で、読者の声を聞く中で、まだまだ抵抗感を持っている親世代が少なくないことも実感しました」
──どのような声で、そのように感じたのでしょうか。
フクチ「『1冊目も2冊目も読んで、今まで知らなかったことが知れて勉強になった。けれども、いざ自分の子どもに性教育を伝えようとすると、どうすればいいのかわからない』『本当に伝えていいんだろうかという恥ずかしさや気負いがあって戸惑っている』といった声です。自分ではうまく伝えられないから、子どもに本を直接渡した、という話も聞きました。中には、直接渡すことすら恥ずかしくて、部屋の隅にこっそり置いて、偶然子どもが読んでくれることを祈っている方もいるだろうなと思ったんです」
◆私たち親世代が、性教育に抵抗感を持つのは当たり前
──性教育が大事だと理解していても、実際に行動するには大きなハードルがありますよね。
フクチ「はい。私自身、このシリーズを描くまでは、『生理』という言葉をネットで検索することすら恥ずかしいと感じるほど、抵抗感が強かったんです。だから、読者の方が気負ってしまう気持ちはとてもよくわかります。特に私たち親世代は、性教育をじゅうぶんに受けてこなかったので、抵抗感を持つのも当たり前だと思うんです。だからこそ、子どもが自分で学べる内容にしようと思い、今回の『こどもせいきょういくはじめます』を作りました」
◆小中学生の意見も取り入れながら完成したマンガ
──子どもが自分で学ぶという点で、こだわったポイントはありますか?
フクチ「子どもが最後まで読みきれる本にしたい、という思いがありました。大人向けの内容を子ども用にかみ砕いて説明するのではなく、子どもが楽しんで、自分ごととして読めるようにしたかったんです。そこで、一方的に大人から教わる形ではなく、友達とやり取りする中で学んでいく形で、ストーリーを展開しています。
実際に小学生と中学生のお子さんに漫画のラフを読んでもらい、意見を聞きながら見せ方も変えていきました。子どもたちの感想を聞くことで、『この言葉がわかりにくい』といった、リアルな反応も知ることができました。どういう言葉を使えばより伝わるのか感覚をつかめましたし、マンガにも反映できたと思います」
◆学校で「妊娠の経過を教えてはいけない」という誤解
──シリーズ第3弾となる今回も、「おうち」での性教育にこだわった理由を教えてください。
フクチ「今回の漫画の舞台は主に学校になるので、厳密にいうとおうちではないのですが、シリーズとしておうちでの性教育に役立つように描きました。
というのも、現在も多くの学校ではじゅうぶんな性教育を行えていないからです。小学校5年生の理科の学習指導要領では『人の受精に至る過程は取り扱わないものとする』(*1)とあります。また中学校1年生の中学校保健体育科の学習指導要領では『妊娠の経過は取り扱わないものとする』(*2)とされているのですが、これを『性交については触れない、触れてはいけない』と捉えている学校も多いんです。いわゆる『はどめ規定』ですね」
(*1)小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編第5学年の内容より
(*2)文部科学省『学校における性に関する指導について』中学校保健体育科(保健分野)<第1学年>学習指導要領及び解説より
──学校現場の「はどめ規定」は度々議論に上がっていますね。本来は最低限指導すべきものを記載したものであって、必要に応じて発展的な内容を教えることを禁止するものではないとか。教えてはいけないわけではないけど、現場で教えるのが難しいという現状もありますよね。
フクチ「近年、徐々にこの状況は変わりつつあって、子どもにとって必要な知識を届けようとする教育現場の動きも出てきています。しかし、すべての学校ではありません。より発展的な内容を教えるためには、学校全体での共通理解や、保護者や地域の理解を得ることなど、現場の先生方が超えなければならない壁が多く、すぐに変化は望めない問題です。
それでも、世の中では性に関わる問題が日々起きています。子どもが被害者に、時には加害者となるニュースを目にするたび、学校が変わるのをただ待つわけにもいかないと感じています。せめて、おうちでできることを伝えたいという思いがあります」
◆現場の先生たちもきっと、性教育に悩んでいる
──学校現場も、性教育をどう教えるべきか悩んでいるように感じます。
フクチ「そうですね。実際に私のところにも、『どうやって性教育をしていいのかわからない』と現場の先生から連絡をいただくことがあります。<保護者会で、『おうち性教育はじめます』のこのページをプリントして、保護者に配りたい>という問い合わせもあるんです。現場の先生たちもきっと悩まれているのではないでしょうか。
学校現場には熱意のある先生もたくさんいらっしゃるので、このシリーズが先生方の参考になればいいなと思っています。学校だからこそできる性教育もあるので、私自身も学校での性教育を盛り立てていきたいという気持ちです」
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親も先生も、試行錯誤しているのが現状です。家庭と学校、それぞれの場で適切な性教育ができるように、できることから少しずつでも始めていくことが、子どもの心と体を守るために必要なのではないでしょうか。親である私たちも、誰かにまかせきりにするのではなく、自ら動き出す必要性を感じます。
【フクチマミ】
1980年生まれ。マンガイラストレーター。「わかりにくいものを、わかりやすく」をモットーに、日常生活で感じる難しいことを取材し紐解いて伝えるコミックエッセイを多数刊行。『マンガで読む 妊娠・出産の予習BOOK』(大和書房)、『マンガで読む 育児のお悩み解決BOOK』(主婦の友社)、『おうち性教育はじめます』、『おうち性教育はじめます 思春期と家族編』(ともにKADOKAWA、村瀬 幸浩 共著)、『こどもせいきょういくはじめます』(KADOKAWA、村瀬 幸浩 北山 ひと美 共著)など著書多数。
<取材・文/瀧戸詠未 漫画/フクチマミ>
【瀧戸詠未】
大手教育系会社、出版社勤務を経てフリーランスライターに。教育系・エンタメ系の記事を中心に取材記事を執筆。X:@YlujuzJvzsLUwkB