事務所初の“試み”に批判も大成功…タイプロにあってASAYANになかった“5つの魅力”と“3人の人間力”

0

2025年04月27日 20:00  週刊女性PRIME

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

週刊女性PRIME

timelesz公式HPより

 4月20日からスタートしたバラエティー番組『タイムレスマン』(フジテレビ系)。“新生タイムレス”が8人揃って初めて冠番組を務め、話題になっている。そこで、高視聴率を獲得してタイムレスの名をファン以外に広く認知させたオーディション番組『timelesz project AUDITION』(以下タイプロ)がなぜそれほど人気を得ることができたのか、ライターの仁科友里さんに振り返ってもらった。

『timelesz版プロフェッショナル 仕事の流儀』

 ジュニアとして活動し、そこから頭角を表した人がデビューというスタイルが一般的だったことから考えると、この番組のオーディションは異例ですし、掟破りと言えないこともない。3人が築き上げたtimeleszというブランドにひょっこり新参者が入ってくることに抵抗感を覚えた人も当初はいたのではないでしょうか。

 にもかかわらず、高視聴率だったのは、この番組の見どころが「新メンバーの選考」だけではなかったからだと思うのです。実はこの番組で浮かび上がったのは、timeleszのメンバー三人の“人間力”ではないでしょうか。

「新メンバーなんて認めない!」と思っていた人も、それほどアイドルに興味がない人も引き込まれていったのは、timeleszメンバーの仕事に向かう姿勢、気配り、ファンへの思いに心打たれたからだと思います。私にはこの番組は『timelesz版プロフェッショナル 仕事の流儀』に見えたのでした。

 テレビでのオーディション番組というと、昭和の時代には山口百恵さんらを輩出した『スター誕生』(日本テレビ系)、平成ではモーニング娘を生んだ『ASAYAN』(テレビ東京)が思い浮かびます。これらの番組と『タイプロ』が明らかに違う点は、『タイプロ』では主な審査員がメンバー三人だったこと。

『スタ誕』や『ASAYAN』では有名作曲家や、小室哲哉さん、つんく♂さんら有名プロデューサーが審査していました。『タイプロ』もプロにまかせるという手はあったかもしれませんが、それをしなかったのは今回のオーディションの目的のひとつが“仲間さがし”だったからだと思います。

 ニューカマーは三人のメンバーに比べればダンスや歌ではかなうはずもありません。それなのに、あえて“仲間"というフラットな目線で表現するあたりが今風の気遣いと言えるかもしれません。この番組には明らかに、昭和や平成のオーディション番組とは違う気配りを感じました。

タイプロは「本人たちに決めさせる」

 オーディション番組の見どころのひとつは、審査員の厳しい批評です。シロウトの中ではうまいことと、プロとしてやっていけるかはまた別の問題ですから、審査が厳しいのは仕方ないことでしょう。

『スタ誕』では、山口百恵さんが昭和を代表する作詞家のひとりである審査員の阿久悠さんに「あなたは青春ドラマの妹役ならいいけど、歌手はあきらめたほうがいい」と辛らつなことを言われていましたし、中森明菜さんは審査員の松田トシさんに「顔が子どもっぽいから無理ね。童謡でも歌っていたほうがいいんじゃない?」と身も蓋もないことを言われていました。

 ここでフツウの人ならしょげてしまいそうですが、明菜さんは「スタ誕は童謡は受け付けてないじゃないですか」と言い返し、不合格になったものの、翌年は番組史上最高得点を叩きだし、本選を通過。決戦大会では11社からスカウトされることになります。こういう審査員の酷評や無理難題とも思える課題に食らいついて、成長していく姿が見どころであると言えるでしょう。

 しかし、令和という今の時代にこれをやると、モラハラっぽくなって、timelesz3人のイメージダウンにつながってしまう。かといって、いいよいいよと言うだけでは候補生は伸びず、結果的にいい人材を確保できなくなってしまいます。自分たちのイメージを保ちつつ、どうやって候補者を導いていったのか。以下、私がすごいなと思った点を挙げていきたいと思います。

1 審査が進むにつれて厳しくしていく

 timelesz三人は審査員という立場ですから、候補生よりは“上”のはず。しかし、三人は決して候補者に威圧感を出さず、同じ目線で接しています。そのため、終始オーディションは和やかな雰囲気で進んでいきますが、3次選考以降は口調がぐっと厳しくなっていきます。

 1次審査や2次審査ではエントリーシートが空欄だったり、timeleszをよく知らないと平気で言ってしまう人がいましたが、こういう準備不足、もしくは相手の求めるものが見えていない人は、残念ながらプロにはなれないでしょう。センスのない人に強く言っても、自分が損です。しかし、3次審査ともなれば、そういう人は淘汰されて、見込みのある人が残っているわけですから、ある程度の厳しさは許されるはず。そのあたりの絶妙なさじ加減がうまいなと思いました。

2 本人たちに決めさせる

 グループでのダンス審査の際、ダンス未経験者が重要なパートについてしまい、その結果、グループとしてのクオリティが下がることが予想される場面がありました。菊池風磨さんはそれをグループに率直に指摘しますが、メンバーチェンジをせよと言わずに、判断は彼らにまかせます。このときにすぐにメンバーチェンジを受け入れたのが、新メンバーに輝いた篠塚大輝さんでした。グループが輝かなければ、自分も死ぬ(落ちる)ことになるという賢明な判断からでしょう。

3 令和的なフォローを忘れない

 SMAPの『SHAKE』を課題曲として披露したグループに対し、佐藤勝利さんは「こんな曇っているようなSHAKEは見たことがない」、菊池風磨さんは「話にならない」とキツいコメント。しかし、それはゲームオーバーの宣告ではなく、菊池さんはチームをひっぱれないリーダーを呼び出してアドバイスをするなど、見捨てることはしません。こういう話をするときに人のいないところを選ぶ(他のメンバーに聞かれないようにする)のも令和的な気遣いを感じます。

 佐藤さんがソロパートを歌う人をチェンジするように指示するシーンもありました。昭和・平成なら「できないんだから、しょうがないだろ」で済まされて終わったと思いますが、佐藤さんはチェンジされてしまった人の話を聞いて、気持ちを受け止めてあげる。それはチェンジされたことでモチベーションが下がると、本人はもちろん、グループにも悪影響があると思っての行動ではないでしょうか。

4 キツいことは自分たちも一緒にやる

 4次審査では、体力づくりとして1000メートルダッシュや腕立て伏せといった体力作りをします。“しごき”に見えないこともありませんが、1000メートルレースには佐藤勝利さんも参加し、2位になります。佐藤さんが走る必要はないと言えばない。しかし、「論より証拠」で、トップアイドルには体力が不可欠なこと、日ごろの鍛錬をうかがわせることになりました。

5 自分で考えられる人になってもらう

 松島聡さんは、候補生たちに自分からアドバイスをすることをせず、彼らが自分から質問してくるのを待ちます。実はこの指導方法、青山学院大学の陸上部を箱根駅伝常連校に育て上げた原晋監督と同じなのです。原監督の『「挫折」というチカラ』(マガジンハウス)によると、就任時の青山学院は、箱根駅伝は夢のまた夢というレベルで、原監督も選手にこれをやれ、あれをやれという昭和スタイルの指導法を取っていたそうです。

 しかし、この方法では選手のやる気が出ないことに気づいた原監督は、箱根駅伝から逆算して細かいスケジュールを立て、その目標が達成できないとしても叱ることはせず、「それで、おまえはどうしたい?」と本人の意志を確かめるところから始めたそうです。自分の目標を自分で決めて、それを達成するためにどうしたらいいかを一緒に考えてあげることで、自分で考えられる選手に育て上げたということでしょう。

 timeleszの3人は27〜30歳と、会社員にたとえるならまだまだ若手のはず。その3人がここまでの指導力と広い視野を持っていることに私は驚きました。彼らの指導力のおかげでしょうか、候補生たちは見違えるようにうまくなっていったのでした。

 また、この番組を見て“事務所の伝統”のようなものも感じました。

 SUPER EIGHTの大倉忠義さんがふらりと遊びにきたり、山下智久さんやHey! Say! JUMPは候補生に快く衣装を貸してあげます。堂本光一さんと木村拓哉さんはわざわざレッスンを見て声をかけ、木村さんに至っては、全員分の高級弁当まで差し入れていました。タレントたちに責任があるわけではありませんが、性加害報道後、タレントたちは“事務所のいい話”をしづらくなっているのではと思いますが、今回の番組で、先輩が後輩の面倒を見るという、昭和から続く“事務所の伝統”を見た気がしたのでした。

 加えて、オーディションの参加者に元ジュニアの候補生がいたのですが、彼らは歌やダンスがうまいことに加え、お行儀がとてもいい。上述した1000メートルダッシュの際、元ジュニアの候補生が「ジュニアはもっと長い距離を走って踊る」とさらっと明かしていましたが、仕込みが違うというか、下積みの重要性も思い知らされました。

 いやぁ、アイドルってすごい。それがタイプロをすべて見終えた率直な感想です。timeleszファンはもちろん、部下やお子さんとのコミュニケーションに悩むお父さんお母さんにも必見の番組として、おすすめしたいと思います。

仁科友里(にしな・ゆり)


1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」

    前日のランキングへ

    ニュース設定