
『億までの人 億からの人 ゴールドマン・サックス勤続17年の投資家が明かす「兆人」のマインド』(田中渓著/徳間書店)では、元ゴールドマン・サックス マネージング・ディレクターの田中渓氏が熟知する「富裕層マインド」を余すところなくお伝えしています。
今回は本書から一部を抜粋し、豊かに生きるヒントが詰まった「億を超える人」の運をつかむための思考を紹介します。
富裕層は本当に「運がいい」のか
「大金持ちになるには、やっぱり運がよくないとダメなんですか?」とときどき聞かれます。富裕層と運についての僕なりの考察はこうです。まず、運やアイデアというのはいきなり降ってくるものではありません。目指しているものがクリアになっている人が文字どおり寝ても覚めても、そのことを考え抜いて、死ぬほど努力して試行錯誤した後、最後の最後に舞い降りてくるものだと思っています。これが1つ目の条件です。たまたま最後の「舞い降りた」瞬間だけが切り取られて、「運がよかった」と解釈されているに過ぎないものだと思います。
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機会を逃さずつかむ条件
これはどこのポジションにいる人も同じで、誰よりも努力をしてしっかりアンテナを張っている人だけにその権利があります。金融やコンサル業界の人ならマーケットを日常的によく見ていて、あらかじめ「このパターンが来たら、それは多分当たりだよね」ということを山ほど経験しています。日頃からシミュレーションしているからこそ、機会を逃さずつかみ取ることができるのです。最後の条件は、運が巡ってきて、それが当たりのパターンだと気づけたときに、的確かつ迅速なアクションをとれることです。
タイミングよくアクションを起こせるか
ビジネスシーンで考えるなら、転職の機会を逃さず行動を起こすとか。日系企業にいるなら、MBA取得の募集枠のチャンスがあったら手を挙げるとか。知人が起業して誘われた際、飛び込んでみるとか。そういった目の前の大きな変化にもタイミングよくアクションを起こせることが、運のとらえ方であり富をつかむきっかけになっていくものだと思います。チャンスが訪れるのは決して偶然ではなく、誰にでも平等に起こることです。挑戦をする機会というのは、もっと誰にでも平等です。自分の目標や目指すべきことを明確に持ち、そこに向かって歩いているときに「時が満ちた」「機が熟した」と感じたタイミングでとりにいかれるかどうか。準備ができていて、行動に移せることが運をものにするために必要なのではないでしょうか。
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ベンチャー経営者が運をつかむ必然
とくに、前述したベンチャー経営者系の出身で富裕層になった人たちの運をつかんで富を得ていく過程の話は学ぶべきところが多いと感じています。上記の流れになぞらえると、ベンチャー経営者系の出身の人たちの多くは、自身が人生を懸け、リスクを背負ってはじめたビジネスなので、いつでもそのことについて死ぬほど考えています(条件1)。
また、富裕層になるまでは人並み以上に苦労を積み重ねる時代があったり、失敗を繰り返していたりする「下積み時代」が背景にあったりしますが、それでも彼らは、とりあえず行動します。それがたとえうまくいかなくても、何度も方向転換しながらあれこれ挑戦することをやめません(条件3)。
行き詰まっても正直に発信
さらに、自分たちの経営理念や目指しているゴール、行き詰まっている現状を正直に発信することも怠りません。「自分はこうなりたいんです」「こんな失敗をしました」といった自分の目標に向かっている過程で起こるリアルな状態を発信していると、やがて助けてくれる人が現れたり、思わぬピボットの機会が訪れます。それらの機会を見落とさず、勇気をもってつかみ取り新たなビジネスチャンスを得るのです(条件2)。
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金融エリート系の人たちが大きな失敗をすることを恐れる一方で、ベンチャー経営者系の人たちはすでに大きい失敗も小さい失敗も数え切れないほど経験しています。だから、失敗すること自体は何の問題にもしません。失敗から成功に向けて行動をはじめたプロセスのなかで人の縁をつかみ、お金の縁につなげていく。
つまり、自分の力で運を切り拓いていっているのです。
田中渓 プロフィール
1982年横浜出身。上智大学理工学部物理学科卒業。同大学院中退後53回の面接を経て、ゴールドマン・サックス証券株式会社に2007年に新卒入社。同社でマネージング・ディレクターに就任し、投資部門の日本共同統括を務め、2024年に同社を退社。在籍17年間で20カ国以上の社内外300人を超える「億円」資産家、「兆円」資産家、産油国の王族など超富豪などと協業・交流をする中で、富裕層の哲学や思考、習慣などに触れ、その生態系を学ぶ。(文:田中 渓)