「色素には意味がある」 ワインディレクター・田邉公一さんが教えるワインと料理の“ペアリング術”

0

2025年04月27日 22:00  クックパッドニュース

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

クックパッドニュース

写真

クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。今回は、ワインディレクター/ソムリエの田邉公一さんがゲストの後編です。

“ブドウ”のエネルギーでワインの値段は変わる

小竹:同じ生産者の方が、コンビニで700円台のワインと高いワインを出されているような場合、どういったところで値段の違いが出てくるのですか?

田邉さん(以下、敬称略):簡単に言うと、ブドウが違います。ブドウの取れる場所、ブドウの採れる位置が思っている以上に大きい。同じ人が造ってもブドウの畑の場所が違えばうまく造れない。

小竹:土とかですか?

田邉:土もですし、日照量とか水はけとか、どの立地条件にブドウがあるかによって全然違うんです。やはりワインはブドウありきなので、ブドウがどこにあるかの違いが、そのままワインの風味や余韻や奥行きなどにつながっていきます。

小竹:醸造よりも土地のほうが重要なのですね。

田邉:まずは土地です。そこをさらに醸造の力で最大限に表現していけば、すごい違いになってくる。

小竹:逆だと思っていました。醸造のほうが変数が大きいのかなって。

田邉:日本酒は技術の酒だと感じる部分もあるので、もしかしたらそうかもしれません。でも、ワインはブドウの違いがまずありきです。醸造の新樽の比率を上げたり、樽熟成の時間を長くしたりする調整は、ブドウが決めているところだと思います。このブドウならエネルギーがあるから、樽で長期熟成してから出そうとかね。

小竹:うんうん。

田邉:ブドウが弱かったらそういったことはできない。すぐ発酵させて出して瓶詰めするという風にリーズナブルに出す路線でいくことはできるでしょうけど、そこは全然違いますね。飲み比べていただくとわかるかもしれないです。

小竹:でも、日本のワインはギャップを感じるほどの違いはあまりない印象です。

田邉:日本ワインはそうですね。それこそブルゴーニュみたいな特別に優れた区画などはないのではないかと思います。ただ、山梨県とか長野県とか北海道とか、ブドウに向いているところもあるので、そこの全体的なレベルは非常に高いと思いますし、いろいろなところにいいワイン産地が実は日本にもあるんですよね。

小竹:何年ものがいいみたいなこともよく言いますが、あれもよくわからないです…。

田邉:ヴィンテージは、特にボルドーが長期熟成できるのと、あとはブルゴーニュですね。特にボルドーのほうが気候の影響を受けやすいのと、タンニンによって長期熟成していく中ですごくバリエーションができます。

小竹:はいはい。

田邉:気候変動によっても変わってきます。ボルドーのワインは同じ造り手が造っても、2009年と2013年では値段も全然違います。結局、気候によってブドウのエネルギーが違ってくるので、その差で値段も驚くほど変わってきます。

小竹:古ければいいというものではないということですね。

田邉:はい。ただ、通常買うものはあまり気にしなくていいと思います。安い値段でちょっと古いヴィンテージのものがあったときなどはいいですけどね。ファミリーマートに2011年のヴィンテージの赤ワインがあって、それを2023年に発信したら今までで最もバズりました。

小竹:バズるときは、ワイン好きな方が多く見られているのですか?

田邉:コンビニワインを中心に飲んでいらっしゃる方からレストランで飲んでいらっしゃる方まで、すごく幅広い方にヒットしました。そのワインは、今は売れすぎてなくなっちゃったんです。僕はファミリーマートのワインアドバイザーもやっていて、もう2年目になりますけど、そのツイートきっかけだったと思います。

ワインは“ボトル”のほうを回して開ける

小竹:調理のほうですが、パスタ茹であがりましたので温めたフライパンに乗せます。そして、卵黄と生クリームとチーズを入れたソースと余熱で絡めていきます。

田邉:卵白がちょっと残っているので、これで目玉焼きというか、トッピングを作ります。最後にチーズをたくさんかけて完成です。


小竹:今日は田邉さんに6種類のワインをセレクトしていただいているのですが、全てコンビニで買えるワインだそうです。今日の料理にはどういうものが合うのでしょうか?

田邉:クレソンのサラダには、イタリアのランブルスコというスパークリングの赤を選びました。結構有名だと思います。コンビニにもスーパーにも置いてあります。

小竹:名前もラベルも可愛くて、値段も998円なんですよね。

田邉:お安いです。このワインは、いちご風味のチョコレートに合わせるといった提案などもさせていただいています。フルーティーでありながら、赤なので少しタンニンがあってお肉の味わいにも合うし、いちごの風味にも合うし、程よい甘みもあるので相性がいいと思います。

小竹:では、カルボナーラに合わせたワインは?

田邉:クリーミーさとベーコンの香ばしさということで考えて、オーク樽のニュアンスがあるカリフォルニアニアのシャルドネです。果実味が豊かでちょっとトロピカルなフルーツっぽく、さらに酸味が柔らかくて滑らかでクリーミーでなおかつ香ばしい。ナッツとかトーストっぽい香りです。これも非常に相性がいいと思います。


小竹:これはどちらで購入できるものですか?

田邉:たまたま2つともファミリーマートです(笑)。おそらくほとんどの店舗にあるのではないかなと思います。

小竹:では、料理とワインが揃ったので、開けてもらってもいいでしょうか?

田邉:はい。スパークリングなのですが、このキャップの金属部分をミュズレというのですが、これを取っちゃう人がいるんですけど、そのまま開けます。

小竹:え?私いつも取っています。

田邉:取った瞬間にボンッて開いちゃう可能性もあるので、このまま開けたほうが安全です。ただ、取らずに握ると痛いという方もいるんです。なぜかというと、ミュズレを回しているからで、実はボトルのほうを回すんです。

小竹:私は全く違うことをやっていました。

田邉:栓を持つと小さいし痛いですけど、ボトルは大きいから回しやすい。回していくと勝手に栓が上がってくるので、最後に空気を横に逃がせば終わりです。上がってきたときにボンッてなってしまうので横に押すんです。だから、栓を持っているほうの手は実は全く動かしていません。

小竹:では、いただこうかと思いますが、食べる飲むがいいのか、飲む食べるがいいのか…。

田邉:ペアリングのときは、最初はワインを飲むほうがいいと思います。お店でペアリングコースもやっていたのですが、ワインを先に出して、料理が出てくるタイミングに合うように測っていました。料理が出てきて、料理が食べ終わってしまって、そこからワインが出てくるとまずいので、先にワインを出して、ワインを飲んでいる間に料理が出てくるのが理想的です。まずはワインで、そして食べる。それでまた飲むというくり返しですね。

ワインと食材の“色”を合わせるのもポイント

小竹:おいしいですね。クレソンとイチゴと牛肉にも合います。おいしいしか出てこないのですが、こういうときはどう表現するのですか?

田邉:いちごのフレーバーがワインと似ていますね。少しシナモンのようなスパイスの香りとすみれみたいな花の香りがあって、飲んだときは爽やかさがありながら甘みとのバランスも良くて、余韻に酸味があるので、甘味、酸味、苦味などの5つの味がワインで組み合わせることによって出来上がり、より風味の広がりや奥行きが出ています。単体で飲んだり食べたりするよりは、新しい風味が出てきて、それが別に喧嘩はしていなくて一体感がある。ペアリングの理想なのかなと思います。

小竹:料理を組み合わせるときの延長線上にワインもあって、トータルで合わせて一品みたいな感じですかね?

田邉:そうですね。一つの新しい味を造るみたいなところはあると思います。もちろん料理だけでも完成しているとも思いますけどね。

小竹:次にカルボナーラとシャルドネをいただきます。

田邉:これはスクリューキャップなので開栓は簡単です。確実に開けられて確実に返品もないというのは、コンビニには向いているとは思いますね。あと、コルクは乾燥すると収縮するので空気が入っちゃう可能性があるのですが、スクリューキャップは買って冷蔵庫に入れていても酸化が促されないですね。


小竹:私は料理の表現はできるのですが、ワインを飲んだ後のバリエーションが少なすぎるんです。

田邉:合わせるときは似ていることが前提になるので、香ばしさとかクリーミーさ、飲んだときの舌触りとかが似ているので、まずは似たものを結び付けてあげる。似ている要素を持っていることによって一体化しやすいけど、違うものだから別フレーバーが広がってより立体感が出てくるみたいな感じですね。

小竹:はいはい。

田邉:あと、余韻が長く感じるものがより高級なものに多いのは、食べたときの心地よさにつながって、よりおいしく感じるからはないかなとも思います。

小竹:家で料理をするときに、ワインの組み合わせ方のポイントなどはありますか?

田邉:似たもの同士というのがわかればいいのですが、なかなかそうもいかないですよね。だから、僕とか発信者の真似をしちゃうといいと思います。真似して1回やってみて、真似が重なって経験が増えると、だんだん感覚が養われてきます。最初から理論から入ってしまうと、いきなりつまずいちゃうと思うので、真似をして自分で分析してみたりするといいと思います。

小竹:肉だと赤で魚だと白みたいな感じがありますが、レストランで食べると違う組み合わせが面白かったりもしますよね。

田邉:そうですね。色は非常に重要だと僕は思っています。今日もお皿の色とかワインの色とか何かしら似ていたと思うんです。色素は意味があると思っているので、色合わせがまずは簡単なやり方の1つかもしれないです。

小竹:うんうん。

田邉:肉は赤身もあるし白身もあるしロゼっぽい色もある。ロゼ色だったらロゼで、牛とかラムだったら赤で、チキンとかだったら白で合わせてみるといいです。魚でもマグロだったら赤で、白身だったら白でいくというのはある種鉄則なのですが、理論的にも合うことが多いです。

小竹:そうなんですね。

田邉:あと、心理的にも似たものが並んでいると、似ているから合うんじゃないかと感じる部分がある。だから、それも含めて色は合わせるようにしています。

小竹:田邉さんにとって“おいしい”とは?

田邉:「美味」と書いておいしいですよね。だから、美しいものを見ると心も豊かになるとか、味わいが美しいとかもありますよね。美しく感じる、綺麗に感じるものはおいしいものなんじゃないかなと思うんです。

小竹:うんうん。

田邉:反対においしくないというのは、自分の味覚が美しいと思っていないというか、綺麗だという風に反応していない状態だと思うので、おいしいというのは食べたときに心地よい美しさを目ではなくて口の中で体感して、全身で反応していくものかなと思います。

小竹:なるほど。

田邉:それには視覚や嗅覚も大事だし、いろいろな感覚の全てが揃ったらよりおいしいと感じられるのだとも思います。

小竹:今後やってみたいことはありますか?

田邉:ソムリエという仕事をずっとやっていたのですが、やっていくうちに結構いろいろなことができるなと思って。中でも今面白いなと感じているのは執筆業なので、本をたくさん書いていきたいとは思っています。

小竹:はいはい。

田邉:いろいろな自分の経験やワインの知識などはたくさんありますが、そこだけではなくて、もう少し自分のオリジナルの視点や言葉の使い方、レストランのソムリならではの言語化的な話とか、そういった感じに広げて、いろいろな本が出せたらいいなと思っています。

小竹:大事な役で映画も出ていましたよね。

田邉:出たというほど出ているわけではないのですが…。自分的にもちろんベストは尽くしたのですが、やはり初めてのビギナーだったので、もしチャンスがあればまたちょっと出てみたいなとは思っています。ただ、それは自分ではどうにもできないので、監督の目に留まればね。思えば叶うかもしれないですしね(笑)。

小竹:俳優デビュー、楽しみにしています!

(TEXT:山田周平)

ご視聴はこちらから


🎵Spotify
https://hubs.li/Q02qmsmm0
🎵Amazon Music
https://hubs.li/Q02qmslg0
🎵Apple Podcast
http://hubs.li/Q02qmztw0

【ゲスト】

第27回・第28回(4月4日・18日配信) 田邉公一さん


株式会社WS代表取締役・ワインディレクター/ソムリエ歴23年、講師歴16年を越える。レストランやワインショップ、スクールを中心に、都内外の複数の企業のワイン、日本酒をはじめとする飲料の監修やセミナー講師を務める。また、国内外の様々なワイナリーや酒蔵を巡りながら、SNSや各種メディア、イベント等での情報発信も積極的に行っている。ワインスクール「レコール・デュ・ヴァン」講師。第6回 キュヴェ・ルイーズ ポメリーソムリエコンテスト 優勝。近著「ワインを楽しむ〜人気ソムリエが教えるワインセレクト法〜」。オリジナル日本酒「几鏡 by Koichi Tanabe」を2024年よりリリース。

X: @tanabe_duvin
Instagram: @koichi_wine

【パーソナリティ】 

クックパッド株式会社 小竹 貴子


クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。 趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。

X: @takakodeli
Instagram: @takakodeli

もっと大きな画像が見たい・画像が表示されない 場合はこちら

    ランキングライフスタイル

    前日のランキングへ

    ニュース設定