絶対王者「かつや」を脅かす強敵! 店舗数で逆転した「松のや」に勝つためのポイント

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2025年04月28日 11:31  ITmedia ビジネスオンライン

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コロナ禍でも急成長してきたかつや

 とんかつ・かつ丼チェーンの雄「かつや」の顧客離れが止まらない。


【衝撃画像】「かつや」の隣に「松のや」が!? 「かつや」を脅かす「松のや」のライスおかわり無料、ロースカツ定食、カツ丼、990円定食(計6枚)


 4月3日、アークランズが発表した「売上高前年同月比推移に関するお知らせ」によれば、かつや直営店における3月の既存店客数は97.9%と前年を下回った。2024年9月以来、7カ月連続の客数減となっている。


 一方、既存店売上高はその間、2月に99.9%とわずかに前年を下回ったのを除くと、全て前年を上回っている。既存店客単価も全ての月で前年を上回っており、客数減を客単価の増加で補って、売上増をキープしていることがうかがえる。


 客数減の要因として考えられるのは、たび重なる値上げである。2024年10月に主力商品を30〜40円程度値上げして以来、客数減が定着してしまった。昨今の米価急騰があるため値上げは必要だが、そろそろ顧客が付いていけなくなってきたわけだ。


 3月7日にも一部商品の値上げを行っている。この値上げでヒレカツ定食はついに1000円を超えた。一方で最もベーシックなカツ丼(梅)は、ソースカツ丼(梅)とともに649円で据え置き。そのため、ある程度値上げの影響は緩和されたと推測される。


 アークランズの外食部門、アークランドサービスホールディングスによれば、値上げの理由は「原材料価格の高騰やエネルギーコスト、物流費、人件費等の上昇の影響」だという。


●崩れた「ワンコインの壁」


 かつやは2022年7月以降、5回の値上げを行っている。2022年7月以前の主なメニュー価格と、現状の価格は次の通りだ。


カツ丼(梅)539円→649円


特カツ丼715円→869円


ヒレカツ丼759円→968円


カツカレー(梅)715円→858円


ロースカツ定食759円→869円


とん汁定食(ロース)715円→869円


ヒレカツ定食869円→1012円


 カツ丼(梅)は会計時にもらう100円割引券を使うと、ワンコインで食べられるのが魅力だった。今でも十分に安いが、牛丼と同様にやはりワンコインの壁が崩れてしまった。ロースカツ定食は100円割引券を使うと、まだ700円を切る。昨今の物価高を考慮すると、頑張っている方だ。


 それに対して、ヒレカツを使った丼や定食は思い切って値上げしている印象を受ける。かつやに限らず和食の飲食店を悩ませているのは、米価の上昇が止まらないことだ。備蓄米が放出されているにもかかわらず、過去最高値を更新し続けている。


 農林水産省の調べでは、4月7〜13日のスーパーでの米の販売価格は、5キロ当たり4217円。前週より3円上がり、前年同期比で約2倍になっている。この状況では、さらなる値上げを余儀なくされるのではないだろうか。


●かつやを脅かす「ライバル」が台頭してきた


 かつやはコロナ禍の逆風にもめげず、成長を続けてきた。コロナ直前の2019年から2022年の売上高推移は232億円→241億円→252億円→279億円である。店舗数も406店→420店→435店→450店と着実に伸ばしてきた。2023年以降はアークランズの完全子会社となって上場廃止したので詳細を追えなくなったが、ずっと右肩上がりで伸びてきた。


 そんなかつやでもコスト高による値上げは大きな課題であり、客数減が顕在化している。


 かつやの客離れには、もう一つの要因が考えられる。それは、ライバルの台頭である。同様に低価格のとんかつ、かつ丼チェーン「松のや」の存在だ。


 松のやは松屋フーズホールディングスの「松屋」に次ぐ第2のブランドとして、松屋や「マイカリー食堂」との併設店がコロナ禍から急増。併設店を含めると現在は500店を超えている。もともとは2001年に「チキン亭」としてオープンしたが、試行錯誤を経て2015年頃より松のやの屋号が定着し、成長軌道に乗った。


 先行するかつやをはるか後方から追撃していた松のやだが、今では店舗数でかつやを上回る。このインパクトは大きく、松のやの勢いに押されて、かつやの顧客が移っている可能性がある。


 松のやの特徴は、一部の店舗で定食メニューのご飯おかわり自由を行っていることだ。たくさん食べたい人にとっては、今時とてもありがたいお店となっている。かつや同様に値上げをしているが、コストパフォーマンスは高い。午前11時までは朝メニューがあり、さらにコスパが高まる。例えば小鉢も付く「得朝ロースカツ定食」は550円である。


●期間限定メニューも人気、店舗数はまだまだ増えそう


 期間限定のメニューが充実しているのも松のやの特徴だ。「ラムかつ定食」やタイ風の豚バラから揚げである「ムートート定食」といったユニークなメニューも提供してきた。これらは1000円前後とやや高価だが、コロナ禍以降に外食の頻度を減らしてプチ贅沢(ぜいたく)を求める傾向に、よくマッチしている。


 松のや単体の売り上げは公表していないが、店舗数の推移は2019年から2025年で大きく増えているわけではない。あくまで併設店として増えているようだ。松屋フーズホールディングスの店舗は駅前立地が多く、ステイホームが奨励されたコロナ禍ではマイナスの影響が大きかった。アークランドサービスの店舗が郊外ロードサイドを主戦場としていたため、有利に働いたのとは対照的だ。


 実際、松屋フーズホールディングスの売上高は2020年→2021年で10%強減少している。そこで1店舗当たりの喫食機会を増やすため、店舗を改装して松屋と松のや、マイカリー食堂の複合業態を大量に増やしたわけだ。


 松のやの店舗数は、2025年3月時点で195店。しかし、松屋との複合店は松屋としてカウントされており、実質的には松のや店舗はさらに300店以上も存在する。これらを合算すると、前述の通り500店規模である。今後さらに複合店を増やせる余地があるため、かつやとの店舗数は、ますます開いていくだろう。


●かつやが逆襲するためのポイントとは


 このような松のやの攻勢に対して、かつやはコスト高対策も踏まえてどう対抗していくのか。


 4月1日から店舗・ネット注文で常時100円引きクーポンが使える「かつやアプリ」を全国展開した。かつやでは、会計時に配布している100円引きクーポンの利用率が約65%と非常に高い。一方で「かつやで食事したいが手元にない」「有効期限が切れたため来店をためらう」といった声も多かった。そうした不満を解消するため、スマホアプリを開発した。初週で70万ダウンロードと、好調なスタートを切っている。


 店舗開発でも、4月18日にオープンした千葉県の幕張西店は、初の「前払いセルフ式」を導入した。注文時に会計を済ませ、商品提供口で受け取る形式で、松屋フーズホールディングスの店舗でも採用されている。これにより、従来よりも従業員数を減らせる。低価格も維持しやすくなるはずだ。


 商品面では、かつやとしては高額だが、ボリュームたっぷりで好評な、期間限定の「全力飯」シリーズの継続とさらなるパワーアップが期待される。筆者の記憶ではコロナ禍にテークアウト用として開発されたラインアップだが、昨今はイートインでも人気が高い。ビジュアルに迫力があって、毎回のように話題になっている。


 例えば3月28日から販売した「ホルモン焼きうどんとチキンカツの合い盛り」は、ご飯の上に焼きうどんが乗る“炭水化物2階建て”。健康志向を全否定したようなある意味潔い企画で、強烈な印象を残した。


 そして、4月25日に発売した「かつやの中華ざんまい丼」も、エビチリに回鍋肉、油淋鶏を、1つの丼で一度に食べられる新発想のインパクトがある丼だ。中華は他にも麻婆豆腐、天津飯など組み合わせられそうな料理があり、今回成功すればシリーズ化も可能だろう。


 このような、かつやしかやらないような全力飯の商品を今後も続けていければ、コアなファンはずっと支持していくのではないだろうか。


 ここまで述べてきた改革によるかつやの逆襲に期待したい。


(長浜淳之介)



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