写真 2020年に発売された書籍『おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方』(KADOKAWA)。出版と同時に瞬く間に話題となった本書は、おうち性教育シリーズとしてシリーズ化され、累計部数30万部を記録しています。
そして、今年3月にシリーズ第3弾となる『こどもせいきょういくはじめます』が刊行。子どもが自分で手にとって学べるようにしたという第3弾は、より子ども目線で生きることや性について踏み込んで学ぶ内容になっています。著者のフクチマミさんに、この作品に込めた思いを聞きました。
◆自分を守り他者を尊重し、違いを受け入れる土台が性教育
──『こどもせいきょういくはじめます』では、生理時に使うナプキンの枚数を目安として提示するなど、かなり踏み込んだ内容になっています。性教育については「寝た子を起こすな、必要以上に教えるな」という考えを持っている人もいるかもしれません。
フクチマミさん(以下、フクチ)「東京都にある和光小学校では、小学1年生から包括的な性教育が行われています。『こどもせいきょういくはじめます』を執筆するにあたり、和光小学校の授業を何度も見にいかせていただきました。
そこで、小さいときからしっかりと性教育を受けてきた子どもたちは、自分を守ることや他者を尊重すること、違いを受け入れることなどの土台がしっかりとできるのだなと実感しました」
◆交通ルールと同じで、一家庭だけで教えても意味がない
──性教育は大きくなってから突然教えるより、小さい頃から積み重ねた方が良いということですね。
フクチ「和光小学校のような性教育をしている学校は少ないですし、ご家庭でも性教育を教える家もあれば、まったく教えないという家もあると思います。でも、交通ルールと同じで、一つの家庭だけで性教育をしていても意味がないと思っています。自分は交通ルールを知っていても、交通ルールを全く知らない人が道路を運転していたら、事故に巻き込まれる可能性が高くなりますよね」
──子どもたち全体が学べるように、学校でも家庭でも大人たちの取り組みが大切になってきますね。
◆正しい知識を得ることで、安全性やSOSの出し方が変わる
──子ども同士でも性加害は起きていますし、子どもが巻き込まれる事件をニュースでよく目にします。
フクチ「小学生になると、1人で学校に行き、1人で帰ってきます。保育園や幼稚園の時は親が見守れますが、小学生になると子どもの世界や交友関係、行動範囲がどんどん広がります。その中で、学校でも家庭でも性教育が意識されている状態と、どちらからも教えられていない状態とでは、やはり子どもの安全性は変わってくると思います。
『プライベートパーツ』や『同意』を知ることは、自分の体を守ることに繋がります。また、万が一トラブルや事件に巻き込まれた場合でも、性教育をしっかり受けてきた子どもは、大人へのSOSの出し方など対処のスピードが全然違うと思います。ですから、小さいうちから学校でも家庭でも性教育を進めていってほしいなと思い、描いてきました」
◆「性教育=性交の学習」という思い込み
性教育に関しては、寝た子を起こすな! という言葉を聞いたこともあるほど、性教育=性交の学習という意識が強く、性交はもとより性器の名称など基礎的な内容すらじゅうぶんに教えないというのが、教育現場における暗黙のルールであったように思います。
でも、知らないまま大人になっても突然正しい性の知識が身につくわけではありません。実際に、ネットや友人のウワサなど、間違った情報を信じている大人も多いですよね。自分を守る「知識」という武器や防具もないまま、危険にあふれた社会を生きていくのはリスキーです。子どもが巻き込まれる日々の事件を見ていると、寝た子は起こすな! という発想は危険だとすら思わされます。
小さいうちから段階を踏んで、自分の心と体を守ること、同時に相手のことも尊重することを学んでいく必要があることを改めて感じます。
【フクチマミ】
1980年生まれ。マンガイラストレーター。「わかりにくいものを、わかりやすく」をモットーに、日常生活で感じる難しいことを取材し紐解いて伝えるコミックエッセイを多数刊行。『マンガで読む 妊娠・出産の予習BOOK』(大和書房)、『マンガで読む 育児のお悩み解決BOOK』(主婦の友社)、『おうち性教育はじめます』、『おうち性教育はじめます 思春期と家族編』(ともにKADOKAWA、村瀬 幸浩 共著)、『こどもせいきょういくはじめます』(KADOKAWA、村瀬 幸浩 北山 ひと美 共著)など著書多数。
<取材・文/瀧戸詠未 漫画/フクチマミ>
【瀧戸詠未】
大手教育系会社、出版社勤務を経てフリーランスライターに。教育系・エンタメ系の記事を中心に取材記事を執筆。X:@YlujuzJvzsLUwkB