午前3時「真っ赤に染まったベッド、床一面の血だまり」に凍り付く 新人看護師が受けた夜勤の洗礼「おばけより怖いのは人間」

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2025年04月29日 20:40  まいどなニュース

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深夜の病棟で看護師が見たものは… ※画像はイメージです(Lamina/stock.adobe.com)

「病院の夜勤って、おばけ怖くないの?」

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看護師をしている私に、知り合いがこんな質問をしてきました。思わず笑ってしまいました。

「おばけより、人間の方がずっと怖いですよ」

その言葉を口にした瞬間、あの夜のことが鮮明によみがえってきました。

   ◇   ◇

看護師1年目、23歳。夜勤独り立ちしたばかりの私は、ベテランナースと2人で夜を乗り切る毎日でした。

その日も、いつものように深夜1時から勤務開始。3交代制で、日勤を終えた後、仮眠をとってそのまま深夜入り。ナースステーションで翌日の準備をしながら、1時間ごとのラウンドに備えていました。

ナースコールも鳴らず、穏やかな夜。「今日は静かに終わりそう」と安心していました。

午前3時のラウンド。先輩と手分けして病室を回ります。私の担当患者さんは、夜通し点滴をしている方でした。点滴が指示通り投与できているか確認するため、そっとカーテンを開けました。

その瞬間……。

床一面に広がる水たまり。ベッドに横たわる患者さんの胸から腕にかけて、真っ赤に染まったシーツ。

「……え?」

大声を上げそうになるのを必死でこらえました。心臓がドクドクと早鐘を打ちます。

とにかく先輩を!

駆け寄った先輩は冷静そのもの。「アルコール綿、ガーゼ、テープを持ってきて」と的確な指示が飛びます。

必要物品を抱えて病室に戻ると、先輩は患者さんに声をかけ、出血箇所を確認していました。私は言われるままに物品を渡すだけ。

先輩は素早くガーゼで圧迫し、止血開始。最初は寝ぼけていた患者さんも、真っ赤に染まった自分の腕を見て驚きの表情に。

寝ている間に点滴のテープ部分がかゆくなり、無意識に剥がしてしまったらしいのです。患者さんは肌が弱く、テープでかぶれた部分が赤くなっていました。

さらに、血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)を服用していたため、出血が止まりにくい状態。じわじわと血が流れ続けていたのです。

「あら…私、点滴抜いちゃったんですね…」

申し訳なさそうにつぶやく患者さん。

「大丈夫ですよ。かゆかったんですね。今度は刺激の少ないテープで固定しましょう」

先輩は優しく声をかけながら、新しい針を別の場所に挿入。

血に染まったパジャマとシーツを交換し、一息ついた頃には次のラウンドの時間。

ステーションに戻ると、先輩が小さなチョコレートを差し出してくれました。

「ちょっと甘いもの食べて落ち着こう。最初はびっくりするよね」

「すみません。私、全然役に立たなくて…」

がっくり肩を落とす私に、先輩は微笑みました。

「初めてだもの、仕方ないよ。私も1年目は何もできなかった。こういう時はね、まず患者さんの意識を確認して、どこから出血してるか冷静に見るの。薬を把握してると、次の行動が早くなるわ」

その優しい励ましは、今でも心に残っています。「私もいつか、あんな先輩になりたい」と強く思いました。

あの夜から、トラブルが起きても「なぜこうなった?」と原因を探る癖がつきました。びっくりしてばかりでは仕事にならない。看護師という仕事の本質を、身をもって学んだ瞬間でした。

今では後輩を指導する立場。何が起きても冷静に対応できるようになりました。あの時の先輩に、少しは近づけたかな。

   ◇   ◇

人間の行動は本当に予測不能です。寝ぼけて点滴を抜く人、夜間せん妄で歩き出す人、検査前の絶食を守れない人…。マニュアルでは対応できない「想定外」が、医療現場では次々と起こります。

「人間の方が怖い」というのは、決して人を恐れているわけではありません。人間の予測不能な行動がもたらす状況こそが、看護師にとって最大の試練なのです。

あの血まみれのベッドは、私にとって忘れられない「洗礼」となりました。先輩の優しさと的確な指導があったからこそ、今の私があります。この仕事は、時に厳しく、そして確実に私を成長させてくれています。

おばけは見たことがありません。でも、人間の不思議な行動なら、数え切れないほど見てきました。

だから言えます。「おばけより、人間の方がずっと面白いし、ずっと怖い」と。

◆松井英子(まつい・えいこ)看護師経験をもつライター・編集ディレクター。

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