再び動き出した「地銀再編」で進む「二極化」 SBIも頼れない今、各行は何をすべきか

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2025年04月30日 06:00  ITmedia ビジネスオンライン

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動き始めた「地銀再編」の波を追う(出所:ゲッティイメージズ)

 今にわかに、地方銀行(以下地銀)再編の動きが活発化しています。


【画像】金融庁・金融仲介の改善に向けた会議「地域金融の課題と競争のあり方」


 地銀上位行の群馬銀行と新潟の第四北越フィナンシャルグループ(FG)が経営統合に向け基本合意したとの報道をはじめ、同じく上位行である千葉銀行は同じ千葉県を経営地盤とする千葉興業銀行を傘下に収める検討を発表。また、有力地銀である静岡銀行、山梨中央銀行、長野の八十二銀行が包括業務提携を発表するなど、地銀再編の波が動き出した感があります。地銀経営を巡る環境にどのような変化があったのか、今後の課題はどこにあるのか、探ってみます。


 思い起こせば2000年以降で地銀再編が最初に話題に上がったのは、2014年1月のことでした。地銀の頭取たちが集う地銀協新年例会の場で、金融庁の畑中龍太郎長官(当時)が「業務提携、経緯統合を経営課題として考えていただきたい」と異例の発言をしたことで、その幕が切って落とされたのでした。その後を継いだ森信親長官は、前例のない3期連続となる長官職への留任中に地銀へハッパをかけ、再編推進に努めました。


 森長官の在任中、多くの再編が進みました。2016年に金融庁が「手本づくり」として仕掛けたといわれる横浜銀行による東日本銀行の統合(コンコルディアFG)にはじまり、めぶきFG(常陽+足利)、トモニHD(徳島+香川+大正)、九州FG(肥後+鹿児島)、第四北越銀行(第四+北越)の誕生など、2019年までの3年間で実に9つの地銀経営統合が実現しているのです。


 2016年1月に日本銀行が導入したマイナス金利政策の影響もあったでしょう。従来の銀行のビジネスモデルでは稼げなくなると焦った地銀たちが、取りあえずスケールメリットを求めて統合に動いたとみられます。また、優良地銀からは「統合の流れに乗り遅れて近隣のお荷物地銀を押し付けられたくない」といった思惑も見え隠れしていました。


 このまま全国各地で地銀統合の動きが継続して、大きなうねりになるかと思われた矢先に起きたのが、コロナ禍の非常事態です。


●コロナ禍を経て、金融庁が動き出した


 当面はダメージを被った地元事業者の支援が地銀経営の最優先課題となり、再編はひと休み的な状況を迎えます。それともう一つ、森長官が「地銀経営の優等生」としてほめたたえていたスルガ銀行で、2018年に巨額不正融資が発覚。地銀指導官庁である金融庁の威厳を傷付け、金融庁の指導的トーンが下がってしまい再編機運に水を差しました。


 しかし、金融庁はここにきて突如、全国の地銀や第二地銀を対象として、持続可能な経営プランについての聞き取り調査を始めています。コロナ禍が終息を迎え「金利ある世界」が戻ってきたことも背景にあるでしょう。安堵感が油断につながる地銀も出てくることが懸念され、同時に地元経済の縮小で貸し出しが伸びず預金金利負担が増加して経営が圧迫されることも考えられます。


 地方における今後の人口減少による経営基盤の弱体化は、確かに大きな懸念材料です。金融庁はそのような地域を地盤とする約20行の地銀頭取との対話を通じて、経営計画のブラッシュアップや経営戦略の練り直しを支援するのが当面の狙いであるとしています。このヒアリングは複数年にわたるものとしており、当然そこには「再編促進」も視野に入っているでしょう。2021年に制度化した経営統合費用を国が一部負担する「資金交付制度」の期限が、2026年3月に迫った(期間延長を検討中)ことも念頭にあるはずです。


 金融庁は森長官時代の2018年、有識者による「金融仲介の改善に向けた検討会議」での議論を経てまとめた報告書で、地銀が直面する厳しい経営環境を示しています。その内容は「地銀1行なら存続可能な都道府県は13」「1行単独でも不採算の都道府県は23」というショッキングなものでした。


 一部の地銀トップからは、報告に反論する意見も出ましたが、GDPの過半を東京・大阪・名古屋の3大経済圏が占めているという現実から考えれば、決して大げさな話ではないでしょう。今回面談を実施するという約20行は、恐らくこのレポート結果にのっとったもののはず。金融庁の動きは、コロナ禍でブランクを経つつも、自ら撒いた種の刈り取りに動いたといえそうです。


●なぜ地銀は「ダメ」になったのか


 このように厳しい目が向けられる地銀を巡る経営の課題は、一体どこにあるのでしょう。


 まず何より、地銀は同じ銀行業であるメガバンクと比べて、収益性が低い点が最大のネックです。その主因は、旧来の利ザヤで稼ぐ収益性が低いビジネスモデルにいまだに頼っている地銀が多い点にあります。この状況下で1つの県に複数行が乱立していれば、スケールメリットの欠如という問題も加わります。手っ取り早いのは「1県1行体制」の確立であり、金融庁は再編の後押しを優先課題としているものと思われます。


 とはいえ再編だけでは問題は解決しません。最大の課題は、利ザヤビジネスからの脱皮を、いかに進めていくかです。理想形は、地銀の持ち株会社が傘下に銀行と地域事業会社、公益事業などを持つ「地域創生ホールディングス」の実現でしょう。もちろん一朝一夕に事が進むものではありませんが、まずは依然として残る政策株投資を地元有望企業への投資に転換しての収益拡大などが、その有力な足掛かりとなるはずです。


 同時に、これから勝つためのビジネスモデルには、AIの活用を含めたDXが不可欠です。一方、野村総研による約170の地域金融機関を対象とした調査結果では、9割近くがいまだに決算書を紙ベースで受け取っているという寂しい結果も出ています。金融庁の企業ヒアリングでは、地銀の取引先中小企業へのDX化支援が首都圏のITベンダーの代理店的業務に留まっているとの声も多く聞かれており、道は険しいといえるでしょう。


 冒頭に挙げた最近の経営統合、包括業務提携は基本的に有力行のケースばかりです。このように着々と次なる一手を打つことで一歩先をゆく有力行の姿勢と比べ、依然として動きがない第二地銀を中心とした非有力行からは、手詰まり感さえ感じさせられてしまいます。


 そのような非有力地銀を支援する動きに関しては、SBIホールディングスが2019年の島根銀行への資本注入を皮切りに、経営状況が厳しい「限界地銀」の救済プロジェクトとして注目を集めた「地銀連合構想」が、その後どうなったのかも気になるところです。


●SBIの「地銀連合」がしぼんだワケ


 SBIホールディングスの地銀連合構想は、当初「第4のメガバンク構想である」と北尾吉孝会長がぶち上げていました。島根銀行をはじめ当初の何行かには資本注入もしていましたが、提携行の数を追うごとにその金額が減ったり、徐々に業務支援のみ実施という方向に転換したりと、構想そのものが縮小化しています。結局は9行と業務提携をしたところで、プロジェクト自体が開店休業状態になってしまいました。その理由の一つは、SBIの指南の下、資金運用として買った外債が、軒並み含み損を生んだことがあります。


 そしてもう一つ、SBIは限界地銀支援を打ち出すことで、以前より仕掛けていた新生銀行買収に関する金融庁からのお墨付きを狙っていた、という背景も見逃せません。2021年12月に思惑通り新生銀行を傘下に入れたSBIにとっては、限界地銀支援ビジネスはお役御免になったという感が強いのです。


 限界地銀に関して、SBIグループの「お客さん」として引き続き付き合いを続けてはいるものの「地銀連合構想」などというものは既に有名無実化しているのです。当該地銀からすれば、SBIの収益ビジネスと新生銀行買収に貢献し含み損を増やしただけで、得るものは少なかったといえます。


 今回の金融庁ヒアリングは、このような状況に加えてマイナス金利下で一度は増したはずの危機感が「喉元過ぎれば」でゆるんでいないかと、当局として金利上昇局面を迎えて危機感を募らせたと考えるべきでしょう。その結果として、限界地銀はじめ非有力行に強力なハッパをかけていこうとしている、と筆者の目には映っています。


 対象の地銀は、近隣行との統合や異業種との提携も含めて、まずは何より主体的に動くことが必要絶対条件であることはいうまでもありません。「あなた任せ」で事を進めるならば「地銀連合構想」の二の舞になりかねないからです。


 コロナ終息と金利ある世界復活の中で、再編・提携によって着々と足場固めを進める地銀有力行に対して、無策のまま下降局面を迎えかねない非有力行たち。昨今の再編活発化は、見方を変えれば長期的な経営安定化に向けて危機感を持って動いているか否か、という「地銀二極化」の現われともいえそうです。


 石破政権が掲げる経済活性化の切り札である「地方創生」の実現に向けて、地銀が地元の事業者を支え続けられる体力を備えることは不可欠な要素です。非有力地銀の経営者は、自行の中長期的な経営安定化が国家課題解決に直結しているという自覚をもって、再編を含め主体的改革に取り組んで欲しいと思うところです。


(大関暁夫)



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