ワークショップという催しは、小中学校では比較的よく行われている。教科以外の必要な知識、例えばSNSのマナーやネットリテラシーといった内容は、外部から講師を呼んできて講演などを行うという方法のほか、ワークショップという格好で生徒参加型にすることもある。生徒がより主体的に取り組めるということで、学校にはワークショップは評判がいい。
【写真を見る】アドビが宮崎で開いたデザインワークショップの様子
その一方で、学校でのワークショップは問題解決というよりは、与えられた課題に対してどのような回答が導き出されるかといった、ある程度成果がコントロールされたケースも往々にしてある。筆者はこういうタイプのワークショップを、「スクール型ワークショップ」として、本来のワークショップとは少し違ったものとして位置付けている。
本来ワークショップには、「工房」という意味がある。課題解決のために複数の人がコラボレーションして、共同で知恵を出し合い、何かを生み出す作業である。
これは日本に限ったことではないが、多くの地域では、その地域固有の問題を抱えているものである。例えば人口流出とか子供が少ないとか、商店街がガラガラだとかいった問題だ。こうした課題を解決するために、プロの手によるワークショップが開催される。
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良くデザインされたワークショップには、4つの枠組みがある。
・導入:イントロダクションとアイスブレーク
・知る活動:講義や資料から新しい情報を収集し、知識化する
・創る活動:集団または個人で、新しいものを創り出す
・まとめ:作品の発表とリフレクションによる経験の意味づけ
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新しいアイデアは、既成概念、思い込みを壊すところから始まる。問題を「問題化」しているのは、既成概念にとらわれて動けなくなっているからだ。そこを揺さぶることで、突破口を見いだそうというわけである。そして参加者が納得いく形で「協創」が行われるのも、ワークショップの特徴である。
4月16日、アドビは宮崎市内の会場にて、広報のためのデザインワークショップ「まちの広作室 in みやざき」を開催した。宮崎市内でぎょうざの普及と販売促進を目的とする「宮崎市ぎょうざ協議会」との共同開催である。筆者はたまたま宮崎市在住ということで、このワークショップの模様を取材することができた。
およそ2時間半という長さは、ワークショップとしては短いほうだろう。従来型ワークショップとスクール型ワークショップをハイブリッドさせた格好になっているからだ。
●「Adobe Express」でポスターを作る
「Adobe Express」は、無料でも使えるWebツールだ。多くのデザインテンプレートが用意されており、写真やフォントも豊富、AIによる画像生成機能も備えている。何もかもを自分でゼロから作れる人には不要なツールだが、そうでない人にはさまざまな要素を選んでカスタマイズしていくだけで、なんとなくイイ感じのものが作れてしまうところがポイントである。
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今回のワークショップでは、宮崎市ぎょうざ協議会の会員をはじめ、宮崎市観光協会、宮崎空港の職員が参加し、ぎょうざ日本一奪還を目指す広報活動の一環として、このAdobe Expressを使って広報用ポスターを自分たちで作成する。そしてそれぞれが作ったものを1つにまとめて、店舗や商業施設などに掲示するというところがゴールだ。
講師は、Adobe MAXなどのセミナーでもおなじみ、キャラクターデザイナー/イラストレーターでAdobeコミュニティーエバンジェリストでもある北沢 直樹さんと、宮崎県在住のWebデザイナー/アートディレクターの黒葛原 道(つづらはら とおる)さんのお二人。
まずは北沢さんからAdobe Expressの基本的な機能のレクチャーが行われたあと、参加者が各自のPCやスマートフォンを使って自分のポスター制作に取り組みつつ、分からないところを北沢さんと黒葛原さん、Adobeのスタッフや広報代理店であるオズマピーアールのスタッフ総勢8人がサポートするという格好で進められた。その後黒葛原さんからは、スマートフォンのカメラでもできる「SNS・Web制作でも生かせる写真のポイント」についての講義が行われた。
出来上がったポスターは、1つずつ北沢さんと黒葛原さんから講評をいただいたあと、北沢さんの手で1つのポスターにまとめられた。
この成果について、宮崎市ぎょうざ協議会の会長である渡辺愛香さんは、こう評価する。
「宮崎市ぎょうざ協議会も発足から5年たって、だんだん活動も見慣れた感もあると思うんですね。役員だけで相談したりも多いんですけど、今回応援してくださってる観光協会さんとか、宮崎空港さんとかそういった方々も来ていただいて、売り手とか作りたい私たちだけじゃなくて、みんなで作り上げていくものができたらなと思って。参加していただいた皆さんが作ったものがまた1個になるっていう、ポスターとして製作物ができるっていうのはすごいメリットがあるなと思いました」
● 「Creativity for All」という発想
アドビがこうして日本全国でワークショップを開くのも、今回で8回目となる。最初は北沢さんが地元の下北沢で始めたものが、次第に全国どこでも呼ばれれば行く、という格好になっていった。アドビとしては、この活動はCSR(社会貢献活動)ではなく、「Adobe Express」の広報の一環という位置付けになっている。こうすることでアドビの広報メンバーが自由に動ける体制を作った。
アドビ広報部長の鈴木正義さんは、この活動についてこう総括する。
「もともとAdobeというと、プロクリエイター向けツールを提供してるっていうところから始まってるんですけれども、最近はそうではない一般のビジネスをなさってる方たちにもクリエイティブの力を発揮していただける機会が増えています。こうしたクリエイティブ力によって、それぞれが抱えている課題、例えば地方創生であるとか、商店街の活性化であるとか、地元の名物の情報発信であるとか、色んなことが解決できるのではないかと。
それを2022年に東京の下北沢の商店街の皆さんたちと始めましたところ、非常に好評でした。その後福島の大熊町、原発の被害に遭われたところですけども、あちらにもっと人が戻ってきてもらいたいということで情報発信をされるとか、あるいは山形市がラーメン日本一目指すということで情報発信されるというようなところで、いろんな地方の方たちにご協力させていただいているところです。
私たちAdobeの広報も、情報を発信するという立場でその難しさは分かりますので、その中で本当に、文字とか活字だけではない、映像やデザインなども人にものを伝えるという非常に大きな力になります。そのことを皆さんに少しでもお伝えできたらなと思います」
こうした活動は、アドビの発案であり、日本でしか行われていない。だが本社をはじめ世界中のAdobe支社から非常に注目されているという。
今回の宮崎のワークショップでは、成果物を公共空間に広く掲示するという取り組みも初めてのことだ。また地元のクリエイターが講師として参加するのも、初めての試みである。
地域の抱える問題は、その地域の人が自力で解決できるようにならなければ意味がない。その点において、こうした協議会や観光協会の人たちが地元のクリエイターとつながるということにも、大きな意味がある。
今後の目標は日本全国制覇、とは言うが、都道府県ごとに1回ということでもなく、呼ばれれば同じ場所でも何度でも足を運ぶのだという。
デザインの力で地域の問題を解決するという活動は、本来のワークショップでもよく行われる。そのとっかかりをAdobeとその道のプロが作ってくれるというチャンスは、クリエイターではない普通の人にとって、かなり魅力的なはずだ。
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