
チャンピオンズリーグ(CL)準決勝のうち、4月29日(現地時間)に行なわれたアーセナル対パリ・サンジェルマン(PSG)戦は、「両者互角」という下馬評のもと、キックオフの笛が吹かれた。
だが、開始早々からアウェーのPSGが攻勢に出る。アーセナルサポーターの度肝を抜くような攻撃を立て続けに披露した。アーセナルは開始から前半3分16秒まで、2本しかパスをつなげなかった。左SBのマイルズ・ルイス・スケリー(イングランド代表)がGKダビド・ラヤ(スペイン代表)に戻したパスと、そのラヤからCBヤクブ・キヴィオル(ポーランド代表)に送られたパスのみ。フィールドプレーヤー間ではパス交換ができずじまいだった。PSGに一方的にボールを支配された。
ちょうど3分を回った瞬間だった。PSGの左SBヌーノ・メンデス(ポルトガル代表)がピッチ中央に差し込んだパスを、0トップ気味で構える1トップ、ウスマン・デンベレ(フランス代表)がハーフウェイ手前まで降りて受ける。アーセナルはここで混乱した。デンベレのマークに誰がつくか。
その間隙を縫うように、デンベレは持ち前の推進力を生かし、ピッチのド真ん中を進んだ。真っ二つに切り裂くようにグイグイとドリブルで持ち上がった。
そのダイナミックな動きに目を奪われていると、ボールは左サイドに展開される。受けたのはクヴィチャ・クヴァラツヘリア(ジョージア代表)。いま欧州で最も強烈な動きをする左ウイングは、対峙するアーセナルの右SBユリエン・ティンバー(オランダ代表)を威圧するようなステップで後ずさりさせると、狙いすましたように右足のアウトで折り返した。
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そこに現れたのはデンベレ。ゴール正面やや左から、左足で引っかけるようなシュートを放つと、ボールは逆サイド(右)のポストに当たりながら、アーセナルゴールに吸い込まれていった。
このデンベレの先制弾がファーストレグ唯一の得点となり、PSGが1点リードでセカンドレグに進むことになった。形勢もそのままPSG若干有利と見る。
【余力を感じさせるPSG】
アーセナルにもチャンスはあった。惜しいと言いたくなるシーンはブカヨ・サカ(イングランド代表)の左からの折り返しをガブリエウ・マルティネッリ(ブラジル代表)がファーポストで合わせ損ねた前半40分のシーンである。
それ以上に決定的と言いたくなるシーンも2度あった。45分にルイス・スケリーのパスを受けたマルティネッリが放った右足シュートと、後半11分、デクラン・ライス(イングランド代表)のパスを受けたレアンドロ・トロサール(ベルギー代表)の左足シュートだ。
いずれも立ちはだかったのはGKジャンルイジ・ドンナルンマ(イタリア代表)。マルティネッリのシュートは身体を張ったセーブで、トロサールのシュートは左手の指先で枠外に弾き出した。
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この2本が入っていれば試合はひっくり返っていた可能性がある。マン・オブ・ザ・マッチを選ぶならドンナルンマとなるだろう。
アーセナルはミケル・メリーノ(スペイン代表)が、ライスのFKを頭で決めながら、VARでオフサイドとされる不運もあった。0−1の敗戦は言うならば惜敗に該当する。だが、セカンドレグに向け余力を感じるのは、やはりPSGのほうになる。
アーセナルのミケル・アルテタ監督はこの試合で、選手交代をふたりしかしていない。PSGのルイス・エンリケ監督も3人なので、一見、大差ないように見える。だがアーセナルは負けている展開だった。手を打たなければならない立場にあった。にもかかわらず打てなかった。最初の交代は後半38分(ティンバー→ベン・ホワイト/イングランド代表)。2人目(マルティン・ウーデゴール/ノルウェー代表→イーサン・ヌワネリ/元U−17イングランド代表)に至っては、後半のアディショナルタイムという遅さだった。策がなかったからだと考えられる。ここに弱みを感じる。
PSGと比較するとわかりやすい。その3トップはこの日、左からクヴァラツヘリア、デンベレ、デジレ・ドゥエ(フランス代表)が並んだ。そこに交代でゴンサロ・ラモス(ポルトガル代表)、ブラッドリー・バルコラ(フランス代表)が入った。フル出場したのはクヴァラツヘリアだけだ。デンベレがケガをしたこともあるが、予定どおりの交代だ。イ・ガンイン(韓国代表)まで加えれば、使える攻撃の駒は6人を数える。しかもデンベレは左右、中央の3ポジション、バルコラとクヴァラツヘリアは左右の2ポジション、ドゥエは左右に加えて中盤までできる。
一方、アーセナルはマルティネッリ、トロサール、サカの3FWが揃ってフル出場した。彼らに代わる有力な選手がいないことが白日の下に晒される形となった。
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5月7日にパルク・デ・プランスで行なわれるセカンドレグには、この日、累積警告で出場できなかったMFトーマス・パルティ(ガーナ代表)が復帰する。1トップにはトロサールではなく、MFのメリーノがインサイドハーフから0トップにポジションを上げてプレーするものと思われる。変化をつけられるとすればその程度だ。
PSGは多彩、変幻自在だ。クヴァラツヘリア、ドゥエといった、今が旬な選手のウインガーの存在が、チームに勢いをもたらしている。交代選手を含めて、サイド攻撃でマルティネッリとサカしか使える選手が見当たらないアーセナルを上回る。
そして注目すべきは、試合の終わり方だ。終盤、立て続けにチャンスをつかんだのはPSGだった。PSGが先行しても、アーセナルが盛り返してそのまま試合が終わっていれば、セカンドレグに向けての流れはアーセナルにあっただろう。その意味で後半33分ジョアン・ネヴェス(ポルトガル代表)、後半39分バルコラ、後半41分ラモスと決定機をつかんだことは、決まらなかったとはいえ、PSGにとっていい終わり方だったと言える。
心配な点はこの日、故障でベンチに下がったデンベレの症状である。セカンドレグの行方を左右する一番の要素となるだろう。
とはいえ試合はわずか1点差。結果はいかに。楽しみだ。