大阪桐蔭の控え外野手はいかにしてドラフト候補へと上り詰めたのか? 国士舘大・山下来球が覚醒

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2025年05月01日 07:10  webスポルティーバ

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「来球(ききゅう)」という変わった名前の由来を尋ねると、山下来球は目を輝かせて説明してくれた。

「父(豊さん)が子どもに野球をさせたくて、『球』の字を使うことは決めていたらしいです。そこへ姉の来望(くるみ)の1字をとって、『来球』になりました。ちなみに、妹は『来々杏』と書いて『ここあ』っていいます」

 そして、山下は目に力を込めて、こう続けた。

「バッターボックスに入る時、いつも自分の名前をしっかりイメージしているんです。『来た球をしっかり打つ......』『来た球をしばくぞ......』って」

【確実性と長打力を兼ね備えたバッティング】

 ドラフト候補を毎年見ていると、「オレを見てくれ!」と訴えかけてくるような強烈な個性と出会うことがある。昨年のドラフト候補でいえば、麦谷祐介(富士大→オリックス1位)がそうだった。

 そして今年、そんな強い野心を感じるのが、国士舘大の強打者・山下である。

 試合前のシートノックの身のこなしから、躍動感がある。身長175センチ、体重80キロの鍛え込まれた体でセンターを縦横無尽に動き回り、左腕から鋭い送球を放ちつつ「よっしゃぁ〜!」と叫ぶ。グラウンドに覇気を持ち込めるプレーヤーなのだ。

 とくに武器にするのは打撃力だ。東都2部リーグながら、大学2年秋に打率.353、3年春には打率.348をマーク。確実性が高く、ツボにはまれば長打もある。吉田正尚(レッドソックス)や近藤健介(ソフトバンク)と重なる打撃スタイルだ。

 山下は自身の打撃について、こう自己分析する。

「自分はポンッと合わせてしまう悪いクセがあるので、しっかりと振る力をつけることを考えています。基本的には外野の間を抜くような打球を意識して、甘く入ってきたら放り込めるようにしていきたいです」

 今でこそプロスカウトも注目する選手になったが、大阪桐蔭に在学した高校時代は控え選手だった。

 当時の大阪桐蔭の外野陣は左翼・野間翔一郎(近畿大)、中堅・池田陵真(オリックス)、右翼・花田旭(東洋大)と人材の宝庫。下級生にも海老根優大(SUBARU)や谷口勇人(青山学院大)など有望選手が続々と入ってくるため、「どこで生き残るかしか考えられなかった」と山下は振り返る。

 とくに山下が「抜けていた」と感じたのは、高卒でプロ入りした池田である。

「同級生ながら、到底及ばない雲の上と感じていました。とにかく一番練習していました。ただでさえすごいヤツがあんなに練習していたら、それはすごいだろうなと」

【高校野球引退後に一念発起】

 山下は大阪桐蔭では背番号2ケタの控え選手だったが、高校野球引退後に「大学1年春から試合に出てやる」と一念発起する。友人から有名なスポーツトレーナーの高島誠さんのジムを紹介され、毎週泊まり込みで東広島へと通った。野球の動きにつながるトレーニングを積むなかで、山下は自身のパフォーマンスが力強くなっていくことを実感したという。

「トレーニングのおかげで肩もめちゃくちゃ強くなりましたし、足も速くなっていきました。大学1年から試合に出られたのは、この準備のおかげと言っていいと思います。2部リーグといっても、東都はプロに行くピッチャーがゴロゴロいます。いつも『えぐいな』と思うんですけど、自分も勝負できるなと感じました」

 昨年は東洋大が2部リーグにいたため、1学年上で幼馴染みの岩崎峻典(現ソフトバンク)との対決に執念を燃やした。昨春の対戦後、山下は岩崎に「先にプロに行って待っとってね」とおどけるように伝えている。

 あれから1年が経ち、山下のなかで「プロで勝負したい」という思いは大きくふくらんでいる。

「(岩崎が)プロで投げているところをちょこちょこ見てるんですけど、ああいう世界に入ってやっぱりすごいなと感じます。自分も絶対に行きたいなと思いました」

 すると、山下は表情を引き締めて、こう続けた。

「でも、このままじゃ厳しいと思います。もっともっと突き抜けないと。チームのなかでもリーグのなかでも、どんな場面でもすべてにおいて突き抜けないと。そこは一番考えていますね」

 かつては「雲の上の存在」だった池田に対しても、今は「勝負できるかな」と思えるくらい肉薄している実感がある。あとはひたすら実績を積み、プロスカウトを振り向かせるしかない。

 開幕2節を終えた段階で、国士舘大は勝ち点0と苦境が続いている。それでも、山下は5試合で打率.381と好調をキープしている。山下は「リーグ戦が初めてという選手も試合に慣れきていますし、チームの雰囲気は悪くないです」と気丈に語った。

 来た球を打つ──。山下来球は、その先で道が拓けることを信じている。

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