
連載【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】RACE27
鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開催された第3戦日本GPを皮切りに、バーレーン、サウジアラビアと続いた3連戦で存在感を示したマクラーレンのオスカー・ピアストリ選手。中東のバーレーンとサウジアラビアで連勝を飾り、ドライバーズ・チャンピオン争いでトップに踊り出た。
日本GPからトップチームのレッドブルに移籍した角田裕毅(つのだ・ゆうき)は、レースを重ねるごとにマシンに慣れ、バーレーンGPでは9位でフィニッシュ。レッドブルに加入して2戦目にしてポイントを獲得しており、今後のさらなる活躍に期待が高まっている。
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■マクラーレンの強さの秘密はタイヤの使い方
日本、バーレーン、サウジアラビアの3連戦ではマクラーレンの強さが印象に残りました。ただF1参戦3シーズン目のオスカー・ピアストリ選手が安定した速さを披露する一方で、ランド・ノリス選手がちょっと苦労しているように見えました。
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ノリス選手は3連戦で2度の表彰台に上がり、ドライバーズ選手権も首位のピアストリ選手と10点差のランキング2位につけています。でもピアストリ選手に比べると、マシンの性能をうまく引き出せていませんし、ミスも目立ちます。それに今年のノリス選手の表情を見ていると、なんか元気がないんですよね。
F1では、2022年からマシン底面を流れる空気を利用してダウンフォースを得るグラウンドエフェクトカーが採用されました。今年でグラウンドエフェクトカーのレギュレーションが導入されて4シーズン目になり、各チームのマシンは熟成されて速くなっていますが、同時にすごく扱いづらくなっているように見えます。
そのためドライバーが自分のドライビングをマシンに合わせ込むことが非常に難しくなっているようで、同じチーム内でもドライバーによって「合う」「合わない」が顕著になっている気がします。マクラーレンではノリス選手、フェラーリではルイス・ハミルトン選手が現在のグラウンドエフェクトカーに苦労している印象があります。
今年、メルセデスからフェラーリに移籍してきたハミルトン選手は、フェラーリのマシンに自分をマッチングさせていく必要がありますが、そもそも彼のドライビングスタイルがグランドエフェクトカーに合っていないのかもしれません。メルセデス時代からグラウンドエフェクトカーの適応に苦労していたと思います。
■意外なところで速さを発揮するフェラーリ
ハミルトン選手のチームメイト、シャルル・ルクレール選手はサウジアラビアGPで3位に入り、フェラーリに今季初の表彰台をもたらしました。でもフェラーリとマクラーレンとのパフォーマンスの差は大きい。サウジアラビアで表彰台に上がれたのは、ナイトレースで路面温度が低くなったからだと思います。その結果、タイヤに負担がかからす、好ペースを保つことができました。
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とはいえフェラーリは、開幕戦からアップデートを重ね、少しずついい方向に開発が進んでいるように見えます。あと今年は、ピット作業がすばらしい! 開幕から5戦連続、最速ピットストップを記録しています。ここ何年もピットで手痛いミスを繰り返していたフェラーリが、ちょっとありえなくないですか(笑)。
僕も日本GPで、フェラーリのタイヤ交換を間近で見る機会がありましたが、ピットクルーは統率のとれた無駄のない動きをしていました。今年のフェラーリはピット作業や戦略で大きなミスはないので、マシンが速くなってくれれば、マクラーレンと勝負ができると思います。今後のアップデートに期待したいですね。
レッドブルはアップダウンの激しいレースが続いています。日本GPではフェルスタッペン選手がポール・トゥ・ウインを達成しましたが、続くバーレーンGPではペースがなく6位が精一杯。でもサウジアラビアGPではフェルスタッペン選手が快心の走りでポールポジションを獲得し、決勝は2位でフィニッシュしています。
レッドブルはもともとマシンが機能するウィンドウがすごく狭いですが、タイヤにも繊細です。レッドブルもフェラーリと同様に、サウジアラビアではナイトレースの恩恵を受けたと思います。路面温度が低くなってタイヤの負荷が減ったことで、パフォーマンスが向上したように見えます。
今、どんなコンディションであろうが、タイヤ性能を最大限に使えることができるのはマクラーレンです。タイヤに関してはアドバンテージを持っていますが、今のF1は接戦です。ほんの小さなミスが勝敗を分けるという、シビアな世界になっています。
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まずチームがファクトリーでシミュレーションした持ち込みのセッティングが外れてしまうと、そこからセットアップをまとめるのは非常に難しい。ましてクラッシュなどで走れないセッションがあると、セットアップの煮詰めやタイヤのデータ収集ができず、厳しい戦いを強いられてしまう。
■角田選手のクラッシュで時が止まった
サウジアラビアGPの角田裕毅選手がまさにそうでした。フリー走行でクラッシュしてリズムを崩したことで、流れを失ってしまったような気がします。8番手からスタートした決勝は1周目にピエール・ガスリー選手とからんでクラッシュ、リタイアに終わります。
サウジアラビアGPの舞台となったジェッタ市街地コースは、レッドブルと相性がいいコースです。過去3年間、レッドブルが制していたので期待が大きかっただけに、角田選手がクラッシュした瞬間、時が止まりましたね。もうテレビを消したろうかと思いました(笑)。
でもレースをあらためて振り返ると、予選順位がもうちょっと上だったらアクシデントを避けられたかもしれません。角田選手のスタート位置は一番混戦のところでリスクがどうしても高くなってしまう。
ここで話がループしますが、結局、フリー走行でちゃんとすべてのミッションを完了し、万全な状況で予選に挑めるようにしなければならないんです。そのためにはチームは適切なセッティングのマシンを持ち込まなければならないということです。
現代のF1は、チームやドライバーは金曜日のフリー走行から日曜日の決勝まで、針の穴に糸を通すような作業を求められ、すべてが噛み合わないと勝てないレースになっています。そんな中で、マクラーレンの2台が現状では飛び抜けています。
上位勢ではメルセデスが開幕前の予想よりも速くて、フェラーリとレッドブルは予想よりも遅い。中団グループではウイリアムズとアルピーヌが予想よりも良くて、アストンマーティンが予想をはるかに下回っています。大ベテランのフェルナンド・アロンソ選手も元気がありません。
ここまでの序盤戦の結果を見て、おそらくアストンマーティンは新たなレギュレーションが導入される2026年シーズンに向けて全力を注ぐと思います。これからアストンマーティンのようにマシン開発のリソースを来年に注力してくるチームが出てくるはずです。
■これから暑くなるとさらにマクラーレンが有利になる!?
チャンピオン争いはマクラーレンのふたりが中心で、それをメルセデスのジョージ・ラッセル選手が追いかけるという展開になるのかなと予想しています。メルセデスのマシンは決勝のペースが安定していますし、ハミルトン選手に変わって新たにリーダーとなったラッセル選手がうまくチームを牽引しています。
ただ、これからだんだん暑くなっていくので、タイヤに関してアドバンテージがあるマクラーレンがさらに飛び抜けてしまう可能性もあり得ます。希望的観点で言えば、ラッセル選手とともにレッドブルにも頑張ってほしい。
レッドブルに関しては、フェルスタッペン選手との契約にはパフォーマンスに基づく条項が存在するといわれています。フェルスタッペン選手とレッドブルは2028年シーズン末までのドライバー契約を結んでいますが、チームの成績が設定された基準を下回った場合、フェルスタッペン選手はドライバー契約を解除できることになっているようです。
レッドブルとしてはフェルスタッペン選手を絶対に手放したくないはずなので、タイトル獲得を狙って全力で戦っていくと思います。それはつまり角田選手にとっては活躍のチャンスは広がっていくということです。
角田選手は、サウジアラビアでミスがあったとはいえ、レッドブルデビュー戦となった日本GPからの3連戦でうまくマシンとチームに適応していっていると思います。本人も自信が高まってきたとコメントしているので、これからのレースを楽しみにしています!
☆取材こぼれ話☆
近年、年明けから春にかけては帝国劇場で行なわれていた『SHOCK』シリーズの稽古と公演などで忙しく過ごしていた光一。今年は久しぶりに『SHOCK』のない春を迎えることになった。
「2024年をもって『SHOCK』シリーズの上演を終了することになったので、今年は春の日本GPに初めて行くことができましたが、不思議な感覚はどうしてもあります。
毎年、桜が咲く頃に初日を迎えるっていうのが恒例だったので、桜が咲いて若葉の緑が鮮やかになってくるのを見ると、『稽古をしなくちゃ』とか『身体を動かさなくて大丈夫かな?』とついつい思ったりしましたね。
『SHOCK』シリーズは生活の一部になっていましたので、いろんな思い出がよぎります。例えば一年前の今日は『SHOCK』単独主演記録2000回達成した日だったとか、この日は二回公演があったなあとか。
次戦のマイアミGP決勝は、日本時間の朝5時にスタートです。さすがにリアルタイムで見たら舞台に影響が出てしまうので、昨年は録画で見たなあとか、そういうことも覚えています。でも時間が経つのは恐ろしく速い。一緒に舞台に立っていたメンバーがいろんなところで活躍しているのを見ていると、 時は流れているなあと、しみじみ感じますね」
スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/AKM ヘア&メイク/大平真輝
構成/川原田 剛 撮影/樋口 涼(堂本氏) 写真/桜井淳雄