
『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載(52)
東レアローズ静岡 山口拓海
「できることなら、スパイクで点を決めたいですよ。リベロは『身長が低いからやっている』みたいなところもあります(笑)。性には合っていると思いますが」
山口拓海(27歳)は少し皮肉っぽく、守備専門リベロというポジションについて語っている。謙虚で真面目、研究者然とした雰囲気もある彼なりの自己分析か。
「リベロにはリベロのよさがありますよ。コツコツやる、黙々とやるというのは自分が好きなタイプですし、レシーブは性に合っていると思います。練習で、何本も何本も受けるのは苦にならないんで」
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山口は真っ直ぐな目で言った。
小学校に入学し、夏にはバレーを始めていた。学童時代のふたつ上の上級生に誘われ、見学した後にチームに入った。父親が中学3年間バレーをやっていたが、動機は「やってみようかな」くらいではっきりとは覚えていないという。
「最初は『バレーをやろう、バレーで勝とう』という感じではなくて。"バレー漬け"ってわけではなかったです」
山口は言う。基本はスパイカーだったが、セッターをやったこともある。高校1、2年はリベロだが、高3では人が足りず、守備型のサイドとしてプレーした。一方で、進学校の高崎高校で勉学にも励み、一般入試で筑波大学に進んだ。
「大学生の時も、卒業後にバレーをやるとは思っていませんでした。大学2年で就活を始めたんですが、そこで東レから声かけてもらって......3年生になって『行けるなら』って決めました」
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非凡なレシーブ力は、賢い頭脳で考え尽くされたもので、本人が思っていた以上に評価を受けていた。東レでも、1年目からリベロとしてコートに立った。
「でも、1年目にパナソニック(現在の大阪ブルテオン)戦でけっこうやられて......」
山口は悔しさを思い出すように言った。
「当時はチームで、リベロが自分ひとりだったんです。3年間、それが続いて、僕自身は試合に出られるからよかったんですが。やられた試合の後はきつかった。悪くても出る状況が続くのはしんどくて......。でも、ある試合後、藤井(直伸、東レの栄光を支えた元日本代表セッター。31歳で死去)さんが寄り添ってくれて。何をしゃべったかは覚えていないんですけど、気持ちの面で助かりました」
感謝の念を浮かべて懐かしむ山口は、彼なりのペースでリベロと向き合ってきた。
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「『自分に打って来い』っていうのはあまりなくて。冷静に、客観的な感じでプレーしています。『この状況だったら、どうすべきか』をすぐ計算しちゃう。例えば、サーブレシーブを3人で守るとして、あえてライン際は捨てる。全部を守れるわけではない。規格外の高さでやられた時は、しょうがない......といったように意思統一できないと守備が崩壊していく。"盛り上げ役"じゃない分、冷静に声をかけてます」
レシーブにはこだわっている。ひとりだけ違う色のユニフォームを着て、拾うことが求められるポジションの流儀だ。
「リベロが記録に残るのはサーブレシーブ率で、5シーズンやってきましたが、1位を目指してきました。今シーズンは右手のケガで出場規定数が足りませんでしたが、数字的には8位くらい。個人記録ですけど、1番を狙いたいですね」
今年2月、山口は右手を手術した。スパイクをレシーブしようと片手を出した時の負傷だった。デリケートな箇所だけに、微かに引退も頭をよぎったが、体は動いて、むしろ「まだまだできる」という自分を発見した。来シーズンに向けては、ケガからの復帰もあって不安がないわけではないが、「やってみるしかない」と腹を括っている。
「僕は正直、目立つのが好きじゃない。"陰の立役者"が性に合っているんです。だから派手なディグよりも、味方への声かけだったり、チームが落ちているときに支えたり、ということをやっていきたい。観客のみなさんにはわかりにくいかもしれませんけど」
そう言って明るく笑う顔に、リベロの頼もしさが浮かんでいた。
【山口拓海が語る『ハイキュー‼』の魅力】
――『ハイキュー‼』、作品の魅力とは?
「胸が熱くなりますよね。いろんなシーンがあって、負けた後もしっかりと描かれている。負けて泣きながら飯を食う場面は、何度も繰り返し読んでいて印象に残っていますね。僕も今までのバレー人生、日本一になったことはないので、負けた時の気持ちを思い出します」
――共感、学んだことは?
「烏野の武田(一鉄)先生が、特に負けたあと、いいこと言うんですよ。言葉が心に入ってきますね。物語の最初のほうで、鳥養(繋心)さんにしつこくコーチになってくれるよう頼むシーンがあるじゃないですか? バレーを知らなくても、一生懸命にチームのために動けるところは尊敬できるなって」
――印象に残った名言は?
「それも武田先生です。春高の鴎台戦、烏野の日向(翔陽)が熱を出した時、武田先生の『君は 君こそは いつも万全で チャンスの最前列に居なさい』という言葉ですね。
ほかにも、試合前の奮い立つ言葉も好きなものが多いです。武田先生はバレーをやっていないからこそ言えるというか......。バレーを経験していると、逆に言えないこともあるので」
――好きなキャラクター、ベスト3は?
「武田先生は3位と思っていたんですが、これは1位ですね(笑)。2位は烏野の田中(龍之介)。『下を向いている暇はあるのか』とか、いいですよね。個人的に好きなのは、入学してマネージャーの清水(潔子)さんに一目ぼれし、一途に思い続けて結婚する真っ直ぐさ。そうはなれないからこそ、憧れます(笑)。3位は稲荷崎の北(信介)さん。『ちゃんとやんねん』って感じが好きですね」
――ベストゲームは?
「月島(蛍)がウシワカ(牛島若利)を止めるところが好きなので、やっぱり春高予選の烏野vs白鳥沢学園戦ですかね。リベロとして組むなら、ミドルは月島で。天童(覚)とかと組むと、『わけわかんねぇ』ってなると思います(笑)」
【プロフィール】
山口拓海(やまぐち・たくみ)
所属:東レアローズ静岡
1997年8月30日生まれ、群馬県出身。170cm・リベロ。ふたつ上の上級生に誘われ、小学1年の夏にバレーを始める。高崎高校ではバレー、学業ともに励み、一般入試で筑波大学に入学。バレー部でリベロのレギュラーを掴み、2020年に東レアローズ静岡に入団した。