ラグビー「リーグワン」1部クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(東京ベイ)のSO岸岡智樹(27)が新たな一手を打つ。
選手、社業と並行し、向き合ってきたのが「ラグビー界の地域格差」。全国各地で行ってきたラグビー教室は35道府県で実施済みとなり、5年目となる今オフ(6〜9月)で47都道府県達成も視野に入れる。
2026年からの新たなステップも念頭に、2025年夏にラグビー教室とともに取り組むのが小学4年生〜中学1年生対象のアカデミー(都内、6〜9月に計17回実施予定)だ。目標の「地域格差の是正」に対し、新たな挑戦がどうつながるのかを聞いた。【取材・構成=松本航】
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−アカデミーという発想のきっかけを教えてください
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最初は「ラグビー教室で47都道府県を回ろう」とは考えていませんでした。2021年からやり始めて、次第に見えてきました。2023年ぐらいから「全国を回った後にどうするか」と、次の道を模索し始めていました。地域格差はさまざまな視点がありますが、僕たちの着目は「機会」。自分1人がどこかにチームを作ると、選手寿命もある中で、アプローチができる人数を狭めてしまいます。全国を巡ったラグビー教室は、できるだけ「1人1回、1秒でも接点を…」と思っていました。次は1人に割く時間をどんどん増やしたい。その発想からアカデミーに行き着きました。僕1人だと1チームですが、2026年からは知見を元に、各地域にチームをつくっていければ…と考えています。
−その第1歩となる、2025年のアカデミーの詳細を教えてください
当初は4月から都内(最寄り駅は原宿、渋谷)で週1回、9月まで半年間の開催を予定していました。ただ、自分自身が3月の練習試合で負傷し、手術を受ける決断をしたため、1度は中止とさせてもらいました。経過を見た上で、2025年に関しては6月から9月の毎週水曜日に実施。計17回(基本月4回、7月のみ5回)の開催となりました。5月28日に体験会も予定していて、入会を5月15日から募集していきます。またこのほど大阪でも、6月の計4回に限られますが同様のアカデミーを開くことを決めました。
−「地域格差」という点では、なぜ大都会の原宿、渋谷近辺からスタートするのでしょうか
第一にジュニア世代における、平日放課後のラグビー時間の確保を考えました。そこでアカデミーの設置が求められるリーグワンの各チームのホストエリアから、競合に当たらないところを都内で調べました。競技のレベルを上げ、機会を広げるのはリーグワンも同じ構想で、競合になってはいけないと思っています。原宿や渋谷は人はいるけれど、ラグビー人口が多いかというと、そうではない。まずは今年やってみないと、来年やっていいのかの判断ができない。これからの道を開いていくための期間として始めます。
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−「平日放課後」にこだわる理由を教えてください
ラグビー教室を運営するインターンの学生が、中学校にラグビー部がある都道府県をマッピングしてくれました。部活動としてやっているのは大阪、京都、東京、福岡あたりで、他はラグビースクールが軸。ラグビースクールは基本的に週末が活動日で、子どもたちの父親が中心となってコーチとして指導しています。そのため活動がない平日に機会をつくりたい。この活動はラグビースクールと共存すべきと考えています。
−2025年に東京や大阪でスタートし、以降のビジョンは見えていますか
僕が最初に「地域格差」を感じたのは、競技レベルでした。全国高校ラグビー大会で100点ゲームがあります。その格差によって、ラグビーの競技レベルが高くない地域の優秀な人材は、進学や就職で地元に残る可能性が閉ざされます。そうして人が流出してしまいます。そこで地元に進学する、地元でラグビーができる機会をつくっていくことを考えました。競技レベルをフラットにしたいというより、競技の機会を保っていきたい。それが人の流出を防ぎ、その先で競技レベルが均等になります。100人1チームより、30人ぐらいのチームが3つできたほうがいい。自分の校区の近くにラグビーをする機会がある状況を、10〜15年かけて作っていきたいと思います。
−全国に展開するイメージはできていますか
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ビジネス的にいうと(チェーン店の)フランチャイズのようなイメージです。ラグビーであれば現場ありきですし、指導者も熱量の高い人を募集しないといけません。地域ごとの課題も出てきます。自分たちの強みは47都道府県に行く経験をすることで、どこにでも知り合いがいる。誰かしらに連絡ができる人脈を持っています。自分と同じ熱量、思いでやってもらう人を探さないといけないのは、一番の難しいポイントであり懸念事項ですが、他の人にはできないことだと思います。
−今回の対象を小学4年生〜中学1年生とした狙いを教えてください
小学4〜6年生をメインと設定しました。中学生も考えましたが、アカデミーという形で指導の回数増えるほど、対象は狭めるべきと思っています。時にはコンタクトも入ってきます。小4と中3ではコンタクトできません。小4〜小6が最大値と思っていた中で、中学生も入れてあげたい気持ちがありました。小6から中1にあがるタイミングで、ラグビーしようか悩みます。中1もターゲットとすることで、進学後に数カ月でもラグビーに触れてもらいたい思いがあります。
−対象の学年であれば、誰でも参加可能でしょうか
誰でも大丈夫です。ただ、こちらはスクールに入っている前提では考えています。“ラグビーお試し体験会”ではないので「(未経験で)やってみたい」というよりは、ある程度どこかでやっている想定です。ただ「ラグビーから1年離れている」などは問題ありません。ラグビーをやっていて、今後もラグビーを続けるか迷っている、小学5〜6年生だとうれしいです。
−ラグビーを続けるかどうかを決断する機会としては、小学生→中学生もありますが、中学生→高校生や高校生→大学生もあります
2019年のW杯日本大会を考えました。そのタイミングで幼稚園や、小学校低学年で始めた子どもたちが、ラグビーを続けるサポートをしたい。自分たちの心で始めたものを、さらに続けてもらいたいと思っています。その層が“1世”だとすれば、親もラグビーを知りません。競技のことはもちろん、進路を含めて、きちんと伴走する必要があると思います。その点は個人の強みです。社員選手として社業もやっていますし、プロ化に進む波の中にいます。現場のこと、保護者のことを、双方考えられる立場にあると思います。
−この世代をアカデミーで指導するにあたり、大切にすることはありますか
「うまくなりたい」と思わせないことです。平日の放課後に、楽しんでやりたい人を募集する。何が楽しいのか、何が楽しくないのかは突き詰めてやっていきます。「このスキルを教えます」ではなく、目標は「楽しむ」ことで、目的は「続けたい」と思えることです。
−今季、故障前はシーズン序盤にFBで先発するなど、ご自身のプレータイムも積み上げていました。自らがリーグワンの試合に出場することは、ピッチ外の活動に影響を及ぼしますか
プレーヤーとして頑張ることで(子どもたちに)きっかけを与えることはできると思います。ラグビー教室の集客への影響に関しては(プレーを)見たことがあるのか、ないのかも大きいです。「何を言うか」よりも「誰が言うか」というのも大きい。自分もリーグワンで指導される立場にあり続けることで、指導される側の気持ちを分かり続けることができます。「こう言われるとうれしいな」「組織の中で、こうやって自分の立場を見つけていくんだな」と学べる。日本最高峰で教わりながら、教える立場としても自分がアカデミーでやれれば、他との違いを生み出せます。
−具体的にリーグワンに在籍し、そこで学ぶことのメリットを教えてください
分かりやすく言えば「みんな違って、みんないい」というところです。同じポジションでも、違うキャラクターがいる。言葉が違う、肌の色が違う、文化も違うとなると、理解の仕方の訓練ができます。子どもたちとは年齢も違いますし、小学生の親御さんが35〜40歳だと仮定すると、僕(27歳)は間になります。どっちも分からないのは、懸念点ともいえますが、両方を理解しようとして聞く耳、姿勢…。そうして理解してもらうように工夫する。その点はラグビーを通して、普段から養われています。
◆岸岡智樹(きしおか・ともき)1997年(平9)9月22日、大阪府生まれ。小5でラグビーを始める。東海大仰星高(現東海大大阪仰星)、早稲田大、20年に入団したクボタ(現東京ベイ)で日本一を経験。U20(20歳以下)日本代表歴あり。178センチ、85キロ。
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