お一人様外食には慣れている私(今回のフードコートの写真ではありません) 2010年にTBSに入社し、『朝ズバッ!』『報道特集』などを担当したのち、2016年に退社したアンヌ遙香さん(39歳・以前は小林悠として活動)。
TBS退社から8年経った今年、紆余曲折を経て20年生活した東京を後にして活動拠点を故郷北海道に戻したアンヌさん。アラフォーにして再スタートを切った「出戻り先」でのシングルライフの様子や心境をつづる連載です。
第32回となる本記事では、アンヌさんがアウトレットのフードコートでふと沸き起こった“ある想い”について綴ります(以下、アンヌさんの寄稿)。
◆アウトレットで一人“爆買い”
先日、初めて有名なアウトレットモールに足を運んできました。
もともと普段からそこまでブランド物が好きなわけでもないのですが、今年度から大学院の博士課程に所属することになり、ノートPCを持ち歩く機会が増えたので、良いサイズ感のリュックが欲しいなぁとずっと考えていました。
せっかくなら春物もチェックしたいということで、バスを使って札幌市内から一人乗り込んで参りました。まぁ今さらながらですが、アウトレットって凄いですね。楽しいですね。
もともと30%オフなのに、それを10個買えばさらに半額……といった誘惑の嵐。平日の午後でしたが、海外からの観光客のみならず家族連れやご夫婦、お子さん連れなどでかなり賑わっていました。
私の目標はアディダスの黒いリュックサック一つだったわけですが、黒が想定より安かったので、普段遣い用にベージュのリュックサックもついでにゲット。
いやいやなんだかこのリュックに合うトップスもかわいいじゃないの? ワンピースもかわいいじゃないの! ということで、熱量高めに一人、黙々と爆買いにいそしんだわけでしたが、そんな高いエネルギーをも一瞬で吹き飛ばしたのが、アウトレットモールのフードコートです。
しこたま買い込み、帰りはまたバスで札幌駅前まで、と思っていましたが、中途半端に時間があいたので、せっかくだしとフードコートでおいしいラーメンを食べて帰ろうと思い立ちました。
◆お一人様には慣れている私
私は学生の頃からお一人様には慣れている部類。旅行だって焼肉だってラーメン屋さんだってどこでも一人で行けちゃうし、TBSアナウンサー時代はカウンターのお寿司屋さんに一人で入っているところを週刊誌の記者に目撃されて謎に心配されたということすらありました。
だからいつもと変わらない感覚で、フードコートの一角に席を取り、おいしい味噌ラーメンを注文。ついでにビールまで追加して楽しんでいた……と言いたいところですが、なんだかおかしい。いつもと様子が違う。心からおいしいとも思えないし、ビールも進まない。第一……楽しい気持ちがどこかに行ってしまったのです。
そう。私は平日のアウトレットのフードコートで一人、ラーメンを食べている現実を、異常に異常に寂しく感じてしまったのです。こんなこと普段感じたことないのに……。
私は時おり飲食店で、一人であることの気楽さをしっかりと噛み締める日があります。誰にも気を使うことなく、自分のタイミングで、自分のお金で好きなものを食べて、そしてすっきり帰るという手軽さ。
◆アウトレットのフードコートで周囲を見渡すと
1分1秒を自分の責任のみで決められる気ままさ。フリーランスとして自分で稼ぎ、そして自分の生活を自分で律するこのスタイルに関しては、そういう生き方は楽しそうだと思う人もいれば、とんでもなく無責任で末恐ろしく、絶対にそんな生き方はしたくないという方ももちろんいらっしゃるでしょう。
ここしばらくとにかくがむしゃらに、人生の1分1秒たりとも無駄にするものかと過ごしてきた私でしたが、久々にのんびりと買い物をし、お金を使い、そして自分のタイミングでラーメンを食べるという開放感に満たされていても良い瞬間であるにもかかわらず、私の胸の中によぎったのは、なんだか寂しい、切ないという感情。
なんてわがままなんでしょう。
誰からも怒られず、誰にも気兼ねすることのない現実は、裏を返せば誰からも心配されない自分であるということ。
アウトレットのフードコートを見渡せば、ご夫婦とおぼしきカップルが向かい合ってカレーを食べていたり。一人が料理をとりに行けば、もう一人はその場に留まり荷物を見張り、席取りをする。あたり前の行為ですが、そこはかとない一体感や、絶妙なバディ感が二人の周りには漂っているわけです。
私は一人だから誰も荷物を見ていてくれない!!
おちおちお手洗いにも行けないわけです。
◆ふと胸をよぎった“寂しさ”
人間は、あるものよりも、ないものを数えてしまいがちですが、自由気ままなおひとり様の日常がある一方で、バディがいない自分ってちょっと寂しいかもと、これまで感じなかった想いが胸をよぎったのでした。
この話を仲良しにしたところ、
「あのね、アウトレットって8割の人が家族や友達や恋人と行くところだから?! アウトレットのフードコートはアラフォー、お一人様にはかなりハードル高いよ?!」と普通に厳重注意を受けました。
あ。そう? やっぱり?
とにかく。
誰にも何にも気兼ねしない人生を気に入ってはいるけど、時折誰かに何かを心配されたり口出しされたくなるというジレンマ。
本当人間って(私って)勝手ね。
<文/アンヌ遙香>
【アンヌ遙香】
元TBSアナウンサー(小林悠名義)1985年、北海道札幌出身、在住。現在はフリーアナウンサーとしてSTV「どさんこWEEKEND」メインMCや、情報番組コメンテーターして活動中。北海道大学大学院博士後期課程在籍中。文筆家。ポッドキャスト『アンヌ遙香の喫茶ナタリー』を配信中。Instagram: @aromatherapyanne