春アニメ『ヴィジランテ -僕のヒーローアカデミア ILLEGALS-』キービジュアル (C)古橋秀之・別天荒人・堀越耕平/集英社・ヴィジランテ製作委員会アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 〜彼らの美学はどこにある?」第57弾は、『僕のヒーローアカデミア』のスピンオフ『ヴィジランテ-僕のヒーローアカデミア ILLEGALS』の魅力に迫ります。
『僕のヒーローアカデミア(以下ヒロアカ)』のスピンオフ作品『ヴィジランテ-僕のヒーローアカデミア ILLEGALS(以下ヴィジランテ)』が、この春放送されている。
本作は、『ヒロアカ』で描かれる時代より少し前、ヒーロー資格を持たずにヒーロー活動をする者たちを描く作品だ。いわば非合法ヒーローの活躍を描く内容である。
『ヒロアカ』という作品の大きな特徴は、ヒーローが法的に実力行使できる大義名分として公認制度を敷いていることにある。免許を持たずに公衆でみだりに個性を使用することは禁じられており、その行為は犯罪である。
免許制度で認められたヒーローと免許なしに個性を振るうヴィランとの対立を描く『ヒロアカ』世界において、『ヴィジランテ』はその両者の境界に立つ者たちの物語と言える。それゆえに、正義と悪の恣意性について考えさせられる内容になっているのだ。
■自警団(ヴィジランテ)とは
本作のタイトルにある「ヴィジランテ」とは自警団のことだ。『ヒロアカ』の世界においては、ヒーローとは自警団から発生したもので、原点なのだとされている。本作原作のプロローグである第0話で、ヴィジランテはオールマイトにこのように説明されている。
「自警団(ヴィジランテ)、それは法に依らず自発的に治安活動を行う者、ヒーローの原点(ルーツ)とも言われているんだ」
しかし、ヒーロー公認制度が確立した今、自警行為は犯罪となっていることが相澤消太によって説明されてもいる。
「だがヒーロー公認制度の確立した社会じゃ、私的な自警行為そのものが犯罪だ。現代においてはせいぜい敵(ヴィラン)の変種といったところだな」
自警団はヒーローの原点だが、今は犯罪者であるという矛盾。『ヴィジランテ』はこの矛盾を鋭く突く作品だ。
原作において、自警団は社会の混乱期に自然発生するものだと語られる(原作12話)。だが、社会が安定期に入るとそれは社会システムに吸収される。自警団がヒーローの原点なのに、ヒーロー公認制度ができて以降は犯罪とされているのは、新たな制度である公認制度に吸収されたからと考えられる。
しかし、その公認制度発足時にどれほどのヴィジランテがヒーローとして公認されたかというと、189名のうちわずか7名で、残りの182名はヴィラン認定されたのだという。人を助けるために自警団として活躍した182名を、ヴィランとして社会の敵性存在だとしてしまったのだ。
ヒーローとヴィランを分け隔てたのは、なんだったのか。原作においてはヒーロー公認制度の真の狙いは「ヒーローの認可ではなくヴィランの定義にあった」という話も出てくるが、その選別には何らかの恣意性があったことが示唆されている。
そんな背景を持つ作品世界において、『ヴィジランテ』は現代に活躍する非合法ヒーローを描くことで、ヒーローとヴィランを分け隔てることは本当にできるのかと問いかける作品だのだ。
■コーイチとナックルダスターによる「先手必勝」のヒーロー活動
本作の主人公は灰廻航一(コーイチ)は、ヒーローに憧れながら、自分の身の丈を知り、町で個性を使ってちょっとした親切を行う「親切マン」として知られている。しかし、そんな親切ですら街中でのみだりな個性使用にあたるので実は犯罪である。そんなコーイチが無資格でヒーロー活動をしているナックルダスターと出会い、非合法ヒーローとして活動していくことになる。
ナックルダスターは、警察と公認ヒーローは事件が起きてからでないと動けない、だが自分は法律に縛られずにその前から予防的に動けるのだと言う。その言葉通りに、人を突発的にヴィランにしてしまう薬「トリガー」の行方を追って、勝手に捜査を進めているのだ。
この2人の行動は、言うなれば犯罪を未然に防ぐための犯罪である。
ナックルダスターは時に問答無用の実力行使に出てしまうのだが、これは立派な犯罪行為である。だが、彼とコーイチの活躍である程度突発性ヴィランの被害をくい止められているのも事実で、その「犯罪行為」で救われている人がいるわけだ。
彼らの想いそのものはヒーローとなんら変わらない。にもかかわらず犯罪にされてしまうという矛盾。ヒーローとヴィランの中間的存在である彼らの存在は、『ヒロアカ』のテーマをより深くするものと言える。作品の世界もテーマも深く掘り下げる、スピンオフとして理想的な作品だ。
(C)古橋秀之・別天荒人・堀越耕平/集英社・ヴィジランテ製作委員会