社会とともに変容してきた憲法の価値観　少数者の権利に司法が光

　人種、信条、性別、身分、家柄――。「法の下の平等」を定めた戦後憲法の14条は、属性の違いによる差別を禁止した。ただ、人間が生きる現実の社会には何かしらの区別は存在する。どこまでが許される区別で、どこからが許されない差別なのか。この永遠のテーマを巡り、日本社会は変容を繰り返してきた。

「家父長制」が戦争への下地に

　戦前の1890（明治23）年に施行された大日本帝国憲法には、広く国民の平等を保障した条文はなかった。民法は戸主の男性（家長）が家を統率すると定め、相続では嫡出長男が総取りした。選挙権は男性のみに認められた。

　こうした「家父長制」と呼ばれる家制度は、個人の自由や尊厳、男女の平等を抑圧した。一方で、家単位を基本とした社会秩序は確固としたものとなり、太平洋戦争に向かう日本の全体主義の下地となった。

　1945年に日本が敗戦すると、連合国軍総司令部は封建的な家制度の廃止を求めた。47年5月3日に施行した新憲法には、13条で個人の尊厳の尊重、14条で法の下の平等が明記された。さらに24条で両性の本質的平等、26条で教育の機会均等も定められた。

　性別や家柄、身分よりも、基本的人権を尊重する社会に――。新憲法は自由主義下で日本の目指すべき姿を明確にした。しかし、現実社会では家制度の名残や、人々に根付いた差別意識は簡単には消えず、真の平等を求める少数者の権利と度々衝突した。

「親殺し」は死刑か無期懲役→違憲

　73年、父親を殺害した女性の刑罰を巡り、平等とは何かが本格的に争われた。

　当時の刑法は殺人罪とは別に父母らを殺害することを「尊属殺人」と規定していた。殺人の法定刑が「死刑、無期または3年以上の懲役」だったのに対し、尊属殺人は「死刑または無期懲役」とより重く、どんなに情状を酌量しても執行猶予が選択できなかった。

　ただ、女性は父親から長く性的虐待を受けていた。最高裁は、尊属殺人の規定は「あまりにも厳しい差別的取り扱いだ」として憲法14条に反すると判断した。そして、2審で実刑だった女性を執行猶予とした。

　尊属殺人の規定は刑法から削除され、現在は「親殺し」も通常の殺人と同じ基準で裁かれている。

相続で「婚外子」を差別

　相続の分野でも家制度の名残がある規定が違憲・無効とされたケースがある。未婚の男女の間に生まれた子ども（婚外子）は、法律上の夫婦の子どもに比べ相続分が半分になると定めた民法の規定だ。

　最高裁は95年、規定について「法律婚の尊重と婚外子の保護の調整を図ったものだ」と合理性を認め、合憲とした。ところが、その後の社会は晩婚や非婚化が進み、離婚する夫婦も増えた。婚姻や家族の形は急速に多様化していく。

　最高裁は2013年、こうした変化に鑑み「家族の中で個人の尊重がより明確に認識されてきた」と指摘。出生の時点で婚外子に選択不可能な不利益を及ぼす規定は憲法14条に違反するとし、判例を変更した。

旧優生保護法が示した潜在的差別意識

　直近では、障害者らに対し子どもを産めなくする強制不妊手術を認めた旧優生保護法（1948～96年）を巡り、国に賠償を命じる判決が相次いだ。

　終戦後の人口急増に直面していた国は、障害がある人は健常者より劣るという間違った優生思想に基づき強制不妊手術を推奨した。被害者が声を上げることができたのは立法から70年となる18年。最高裁が旧法を憲法13、14条違反と断じたのは24年だった。

　旧優生保護法の問題は、潜在的な社会の差別意識の中で、少数者を早期に救済する難しさを物語っている。

「伝家の宝刀」違憲立法審査権

　戦後の新憲法は81条で最高裁に違憲立法審査権を与えた。立法府が制定する法律や政令が憲法に反していないかを審査する権限で、司法は少数者の声に耳を傾け、この「伝家の宝刀」を抜くことで社会の不平等を是正してきた。

　最高裁が法令違憲としたのは13例。日本人父と外国人母の子について、父の出生後認知だけでなく、両親の婚姻も日本国籍取得の条件とした国籍法（2008年）などだ。

　一方、夫婦別姓を認めない民法の規定は15年と21年に「姓には社会の構成要素である家族の呼称の意義がある」などとして合憲と判断した。【巽賢司】

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