ロボットの導入が進むのは、建屋の中身の作業だけにとどまりません。その店舗の外身、つまり「建物」自体もロボットが作る、そんな時代も実現しそうです。
3Dプリンターによって、従来の建築では考えられない店舗が生まれるのも時間の問題かもしれません。正確に言えば、すでに生まれ始めています。それでは、建設業界におけるロボット技術の導入について詳しく見ていきましょう。
建設業界は、過去数十年にわたり、他の産業と比較して生産性向上のスピードが遅れていました。特に自動化やデジタル化の導入が進まず、日本では人手不足や高齢化が深刻な問題となっていたのです。
これにより、労働生産性が全産業平均を大きく下回り、長時間労働が常態化。一方、世界では都市化と人口増加に伴い、建設需要が高まっているなかで、労働人口の減少に加えて、生産性の低さが大きな課題となっていました。
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とはいえ、建設分野におけるロボット技術の活用は、意外と古くから始まっています。その第一歩は、1991年に雲仙普賢岳が噴火した後の復旧作業でした。遠隔操作のロボットが危険な現場での作業を担当し、その有効性が実証されました。それ以来、危険な作業現場を無人にするという切り口で建設現場でのロボット技術の活用が進んできました。
一方で、最近のロボット技術の進展により、遠隔からの作業ではなく、自動化を進めようという動きもさまざまな切り口で活発に進んできています。
まず、建設の現場でのロボット活用です。建材の搬送はもちろん、鉄筋工事における単純作業である結束作業、溶接、パテ塗り、内装組み立てなどの作業ではすでにロボットが活用されています。
また、最近では、四足歩行をする犬型ロボットやドローンを使って、現場の点検や記録が自動的におこなわれる場合も増えています。足元が悪い現場もなんのその、現場を動き回れるロボットにより現場の状態をそのまま記録できるようになるのです。
このような活用により、危険な作業や高度な技術が要求される作業も、効率よく安全におこなうことができるようになっています。大手ゼネコン各社もタッグを組み、「建設RXコンソーシアム」という業界団体を設立し、現場作業をいかに効率化できるのか知恵を出し合い、オールジャパンでの取り組みもますます加速していきそうです。
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そして、建材メーカーやハウスメーカーは、建材・部材製造の自動化を進めています。とりわけ興味深いのは、3Dプリンターとロボットを組み合わせ、コンクリート建材の製造をおこなう取り組みです。
3Dプリンターといえば、小さい部品を樹脂でつくるイメージが一般的ですが、それを大型化し、樹脂の代わりにコンクリートを吐出するというものになります。これにより、無駄な材料費や時間を削減できるだけでなく、これまでにはできなかった複雑な形状の部材も迅速かつ正確に製造することが可能となり、デザインの幅を広げることになっています。
このようなオンリーワンの形状を求める取り組みがある一方、標準的なかたちの建物に対しては、モジュラー構造の取り組みもあります。例えば、日照時間が短く作業時間が限られる北欧や都市への人口集中を進めようとする中国などでは規格化されたモジュールを自動的に製造し、組み上げていくこともできるようになってきています。これにより現場での作業が大幅に減り、工期短縮やコスト削減が実現しているのです。
このようなロボットの活躍を支えるキーシステムがあります。それは「BIM(Building Information Modeling)」と呼ばれる、デジタル化された現場の図面のようなものです。このBIMがあることで、建物のさまざまなデータを管理し、設計から施工、運用まで考えることができるようになります。もちろん、ロボットがどのように動けばよいのかについてのシミュレーションもしやすくなるのです。
建設業界はこれまで「きつい・汚い・危険」の「3K」だと言われてきました。しかし、ロボットなどの導入により、このイメージを変えていこうという流れがあります。国土交通省も後押ししながら目指すのは、「給与・休暇・希望」の「新3K」です。いま生産性向上、コスト削減、安全性確保を実現させ、さらにはよりポジティブなステージへと、建設業界は進化しようとしているのです。
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※この記事は『ロボットビジネス』(安藤健/クロスメディア・パブリッシング)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです。
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