映画「たべっ子どうぶつ THE MOVIE」が5月1日(木)より劇場公開されている。ギンビス社の同名のお菓子を原作とした本作には、何しろ「原作には物語がない」という映像化における大きな課題がある。キャラクターの特徴も含めて「ほぼイチから作り上げた」劇場アニメというわけだ。
そんな本作がどのように企画され、作られたのか。「たべっ子どうぶつ THE MOVIE」の竹清仁様監督、脚本を手掛けた池田テツヒロ氏、須藤孝太郎プロデューサーの3人に話を聞いた。
●「まさかの映画化」と言われるのはむしろうれしい
ーーまず、「たべっ子どうぶつ THE MOVIE」、すごく面白かったです!
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竹清仁(以下、竹) それは本当に良かったです。このインタビューの直前に完成披露試写会があったばかりで、まだ反応をはっきり見たわけではないですからね。これからのみなさんの感想も楽しみにしています。
ーーいろいろな方がアニメ映画化そのものに驚いています。失礼ですが、宣伝でも打ち出されている「まさかの映画化!」に、これほど同意できる作品はなかなかないと思いますし、私のおいっ子も「たべっ子どうぶつを映画化するってヤベェな……」と言っていたりしました。みなさまはその反応を受けて、またご自身でどう思われていますでしょうか。
池田テツヒロ(以下、池田) 確かに「まさかの映画化」ですよね。この企画はもう須藤プロデューサーの一存で決まったんですよ。
ーー劇場アニメ化の始まりは、「たべっ子どうぶつ」のキャラクターのステッカーが貼られたギンビス社の営業車を見かけた須藤さんが、「アニメにしたら面白いんじゃないかな。それも3DCGで。日本でも『トイ・ストーリー』を作れるはず」と閃いたことだったそうですね。
池田 そうなんですよね。須藤さんが以前企画として参加されたアニメ「ポプテピピック」は僕も、9歳と7歳の娘も大好きなんですけど、あの「クソアニメ」を手掛けた方が、今回はこれほど愛らしいキャラクターたちを主人公にして映画を作るのも意外だし、その試み自体が面白いと思いました。 僕はプロット作りから参加しましたが、原作に物語がないということは、あらゆる可能性を試せるわけで、脚本作りはものすごく難航しました。結果、脚本完成までに3年かかりました。だからこそ、脚本の出来には、手応えを感じています。
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須藤 孝太郎(以下、須藤) 僕は「どうやって映像化するの?」みたいに言われるのがけっこう好きなので、宣伝でこのキャッチコピーをつけてもらったのは、むしろうれしかったですよ。僕はどちらかといえばニッチな作品をプロデュースすることが多かったので、ここまでたくさん人に知られている、お子さんにも見ていただける作品を手掛けることが初めてでしたので、それは挑戦ですね。
●たべっ子どうぶつをアイドルに、そして「感動大作」になった理由は?
ーー「たべっ子どうぶつ」はこれまでたくさんのグッズやパズルゲーム、さまざまなコラボなどの展開はありましたが、劇場アニメはさらに規模の大きいプロジェクトだったと思います。「原作に物語がない」状況でどのように物語やキャラクターを作り上げていったのでしょうか。
池田 たべっ子どうぶつは、ファンの方がたくさんいる、愛されている存在なんですよ。それこそ劇中のような「アイドル」みたいに、イベントを開催したら、本当に多くのファンの方がグッズをたくさん持参して来ています。お菓子が好きな人というよりも、やはり「たべっ子どうぶつのファン」がいて、だからこそ劇中のアイドルの設定にも説得力を持たせられたと思いますね。
ーーなるほど、それほどの人気なのですから、「まさかの映画化」と驚くのは、やはり失礼な話なのかもしれませんね。そのアイドルのたべっ子どうぶつたちが、巨大な陰謀に立ち向かう冒険物語になっていったのはなぜなのでしょうか。
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池田 これはもう、須藤さんがそっちの方向に「持っていこう」とするんですよね。例えば「ハラハラドキドキの大冒険にしよう」「誰かが死ぬかもしれないサスペンスを入れよう」って。こっちは「やりすぎにならないか」「ファンの皆さんに怒られるぞ」ってずっと心配していたんですが、途中から「もう怒られてもいいや」「中途半端はやめよう」と思うようになって、大胆になっていきましたね。須藤さんの手のひらで転がされた、いいように誘導された感もあるんですが、結果としては「感動大作」であると、自信を持っておすすめできる内容になったと思います。
須藤 その時々に「これがいいんじゃないか」と提案をしていました。打ち合わせでの思い付きなので、大変なご迷惑をおかけしてしまいました。
池田 いや、本当ですよ。突然「(ギンビスのお菓子の)アスパラガスって硬いっすよね」「あのアスパラガス、武器にならないかな?」と言ってくるので、こちらもいちいち真に受けて、取り入れるのに必死でした(笑)。
●あの映画やBTSからの影響も
池田 以前から僕と監督はブレインストーミングをずっとやってきたので、好きなものがお互いに分かっていました。いい意味でわれわれの「フェチ」をふんだんに込められたのかなとは思いますね。
ーーそのフェチの部分は、例えばどのようなところなのでしょうか。
池田 例えば「らいおんくん」と、わたあめの「ゴッちゃん」が「くっついちゃって離れない」というアイデアは、われわれが好きな映画「ミッドナイト・ラン」の「手錠につながれた主人公2人の珍道中」から発想したものです。みんなが欠点を持っているのは「ポリスアカデミー」シリーズの影響も強いですね。さらに、われわれは韓国の音楽グループ「BTS」が好きなんですよ。最初にいくつかあげたプロット時点ですでにアイドルと言うアイデアがあって、そこにBTSっぽさを加えていった感じだったと思います。
竹 打ち合わせは「雑談」レベルでも話していたので、誰がどのアイデアを出したのかも、ほとんど覚えてないんですけどね(笑)。
ーーなるほど(笑)。そのBTSらしさも、劇中のたべっ子どうぶつのアイドルという発想につながっていますよね。
池田 もともとのたべっ子どうぶつにも、キャラクターそれぞれに「推し」がいて、「これはもうアイドルじゃん」と思いましたからね。
ーーしかも、実際にらいおんくんの声をTravis Japanの松田元太さんが務められていますものね。
池田 らいおんくんの第一声の「みんな〜!」って呼びかける声は、現役トップアイドルだから出せるリアリティーがあったと、音響監督の横田知加子さんが仰っていたらしいです。ほんと、素晴らしいキャスティングですよね!
●映画オリジナルキャラの「ぺがさすちゃん」はなぜ生まれた?
ーー高石あかりさん演じる、「ぺがさすちゃん」という映画オリジナルキャラクターがいます。ネタバレになるので詳しくは言えませんが、物語を最後まで見れば、このキャラクターの意義が確かに分かります。それ以外で、彼女を創造した理由があれば教えてください。
池田 これも、リモートの打ち合わせの時に須藤さんがぶっ込んできたアイデアで、ネットで見かけた「たべっ子UMA(ユーマ)」というパロディー記事を見せてくれて。学生の方によるもので、未確認生物の「UMA」、例えば「イエティやツチノコみたいなのがたべっ子どうぶつにいれば面白いよね」みたいな内容でした。
そこからヒントを得て、オリジナルキャラクターを作り上げることにしたんです。ほとんどの動物がギンビスさんによってキャラクター化されていますので、UMAに活路をみい出したわけです。しかも飛べるキャラクターがいいなと思い、ぺがさすちゃんを思い付きました。なぜぺがさすちゃんにしたのかは、物語を最後まで見ていただければ、その真の理由も分かると思います。
須藤 僕自身は、空飛ぶぺがさすは優雅なイメージもありますし、いまのたべっ子どうぶつにはいないキャラクターということで、ご提案しました。
●裏テーマは「モフモフ感」
ーー3DCGアニメとしてのクオリティーもとても高かったです。こだわった部分がありましたら教えてください。
池田 われわれの他にも小荒井梨湖というクリエイティブプロデューサーが参加しているのですが、彼女が非常にこだわっていたのは「モフモフ感」で、「モフモフに包まれたい」というのが、本作の裏テーマになっているんですよ。たべっ子どうぶつたちの、つい触りたくなるようなモフモフ感の毛並みが生まれたのは、最後の最後までこだわり続けた小荒井さんと、アニメーターの皆さまのお力です。ストーリーのなかなか埋められなかった最後の最後を、「モフモフ感」で救ってくれた感じがあったんですよ。脚本上ちょっと乱暴なんじゃないかと思う部分も、モフモフで説得力を持たせられたのは、日本のアニメの力があってこそなんじゃないかと思います。
竹 最初に須藤さんが「3DCGアニメでやりたい」と言ってくれたことも、ものすごく効いてますよね。2Dのアニメだと、モフモフ感を表現するのは本当に大変です。あんなにたくさん出てくるキャラクターを全部モフモフにするというのは、キャラクターの人数分「トトロ」を描くみたいなことですから、たぶん無理ですね。でも3DCGなら、しっかりモフモフ感をキープしつつ、たくさんキャラクターを活躍させられるんです。3DCGの手法で描くにはぴったりの企画でしたね。
ーー須藤さんも、そのモフモフ感を想定して3DCGを提案されたのでしょうか。
須藤 いやあ、そうなんですよねぇ(笑)。
池田 この顔はウソですね(笑)。
須藤 いやでも、2Dでは無理なんですね。
竹 少なくとも、2Dだとすごくお金がかかりますよ。3DCGにしていただいて良かったです。
●「顔ハメパネル」が一瞬映っている?
※以下、劇中の一部の小ネタに触れています。
ーー本作は画面の隅々まで作り込まれていて、小ネタもたくさん仕込まれていると思います。例えば、ぞうくんが読んでいた本のタイトルが「MURDER IN ZOO(動物園での殺人)」と物騒なもので笑ってしまいました。
竹 あれはアニメのスタッフの遊び心が効いているところですね。ぞうくんはミステリーやサスペンスのファンという設定もあるんですよ。
池田 ぞうくんはかなり頭がいいキャラクターなので、その内面は広げられそうですよね。
竹 他にも小ネタをあげるとしたら、「顔ハメパネル」がありますね。わたあめのゴットン軍団から追いかけられて、お城の外から隠れ家に行くまでのシーンは、本当はもう少し長かったんです。あのシーンの途中で、「たべっ子どうぶつの顔ハメパネル」が一瞬だけ映っているんですよ。彼らはあの世界のスターなので顔ハメパネルもあって、本人たちがそこに顔をハメて追っ手たちをやり過ごして……という流れが本編ではカットされたのですが、ちょっとだけ残っているんですよね。あのアイデアはやりたかったですねえ。
池田 他にも現場のアニメーターの方たちがけっこう遊び心をいろいろと入れているので、劇中で映る壁にかかった絵をよく見てみるとさらに楽しいかもしれませんよ。
竹 小ネタも含めて、何回見ても楽しめる感じになっていると思いますね。
●企業理念と知育的な要素を守った
ーー本作の物語は、なかなかにダークでハードなところにも踏み込んでいると思いました。例えば、らいおんくんはリーダーですが「てんぐ」になっていて、リーダーとしての資質を問われるというのは、身につまされる話だと思います。
池田 ああいうキャラクターの「欠点」を描くことを、ギンビスさんにOKをいただいてホッとしていました。
須藤 「こういうキャラクターでこういう話」だとギンビスさんに確認を取りつつ進めていたのですが、「それはやめてください」ということはなかったですね。
ーーギンビス社の皆さんにも、どういうキャラクターか分からないということもあったのかもしれませんね。
池田 公式にも、簡潔なキャラクター設定はあったんです。それなのに、よく許していただいたなと思います。
須藤 でも、ギンビスさんにも大きなテーマがありましたね。企業理念である「お菓子に夢を!」「お菓子を通して世界平和に貢献する」こと、またお菓子ひとつひとつに英語も書いてある「知育的な要素」は、しっかりと守ってほしいとおっしゃっていました。
ーー映画本編も、お菓子というモチーフを持ってして、ストレートに世界平和のメッセージを掲げている作品だと思いました。
竹 本当にそうですよね。
須藤 真面目に訴えていましたね。
●「お菓子の映画」になっていた
ーーメインキャラクターたちが動物たちそのままではない、「お菓子」なんだと思わせるギミックも面白かったです。
池田 そこが物語でいちばん苦労したことかもしれないですね。たべっ子どうぶつたちを冒険させるだけだとお菓子の映画にはならないし、かと言ってビスケットたちをそのまま映画の主人公にできるわけではないですから。だからこそ、けっこう早い段階から「お菓子を食べたらたべっ子どうぶつが現れる」という発想になっていましたし、それが後半のとある「作戦」にもうまくつなげることが出来ました。
ーーお菓子に対しての「人間」の思い入れも描かれた、「お菓子の映画」になっていますよね。
須藤 広い意味で「お菓子の映画」ということにはこだわってはいましたね。
池田 動物の映画は世の中にたくさんあって、参考のためにもたくさん見たのですが、本作は「そうじゃないよなあ」と思いましたね。それをみんなで話し合って、いまの形になったのはすごく大きかったと思います。
ーーお菓子の映画自体がほとんどないので、斬新な作品にもなっていると思います。
竹 実写映画であれば「チャーリーとチョコレート工場」もありますけど、あれはお菓子そのものではなく、作る人が主人公だったりしますからね。お菓子の「気持ち」がキャラクターになっている映画は、もしかしたら史上初なのかもしれませんね。
●「君は君のままで活躍できる」
ーー最後に、これから映画を見る方へのメッセージをお願いします。
須藤 作品の出来にはかなり自信があります。このタイミングで言うのもなんですが「たべっ子どうぶつ THE MOVIE」でできなかったことを、「2」でどうやろうかってことばかり考えているんですよ。まだそのオファーも受けていないのに(笑)。
池田 本作のたべっ子たちは本当にダメダメっ子たちなのですが、「ダメでも活躍できるぜ!」っていう、やっぱり「ポリスアカデミー」のような物語を描きたかったんですよね。「君は君のままで活躍できる」と言うメッセージが、子どもたちに届けばいいなと思っています。かつて子どもだった親御さんにも届くはず。是非お子さんと一緒に楽しんでください!
竹 誰かの人生を90分一緒に生きて、他の人の気持ちがちょっと分かるようになる」のが映画の素晴らしいところでもあると思うんです。どうぶつたちと一緒に大冒険を楽しんで、身近な友達はもしかしたらこんなことを考えてるかもしれないな、と子どもたちが少しだけ想像してみるきっかけになるとうれしいですね。
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「たべっ子どうぶつ THE MOVIE」は5月1日(木)より上映中。ぜひ、小ネタやモフモフ感も含めて、たっぷりと楽しんでほしい。
(取材・構成:ヒナタカ)
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