脳の名医が考えた“行動を振り返って書く”脳活で認知症を予防、継続のコツと始めるべき世代

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2025年05月05日 07:10  週刊女性PRIME

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手を動かしながら書くスピードが脳の活性化にいいそう。思い出しながら書くことで記憶が脳に定着する ※写真はイメージです

 物忘れなどが多くなり、中高年世代でも将来が心配、と感じる人も少なくないだろう。そんな人におすすめなのが『脳活手帳』という方法。

“1日遅れで書く”がポイント

日記を1日遅れで書くというものです。月曜日には日曜日のことを思い出して書くわけです。さらには1日を午前・午後・夕方・夜の4つに分けてそれぞれ手書きしてもらいます

 そう話すのは、脳神経外科医で“脳の名医”の異名をとる石川久先生だ。手帳に書き込むだけで予防になるという『脳活手帳』を提唱。なぜ当日ではなく、1日前のことを書くのか。

「1日前の午前中に何をしたかを書こうとする際には、まずは“今日はこれをしたけど、昨日の午前中はどうだったかな?”と当日の行動を振り返り、それから前日の記憶を引っ張り出してきますよね。

 1日前のことを書くことで記憶の復習を2回することになり、より脳を働かせることになります。ちなみに、1回の振り返りでは記憶の定着率は30〜50%ほどですが、2回振り返ると50〜80%に上昇します。

 記憶を2回引っ張り出すことで、より強く脳に定着させ、記憶力をより高めることができるのです」(石川先生、以下同)

 スマホやパソコンではなく、手書きするという点がよいそう。

「書くという動作は、記憶を復習しつつ手を動かしながら文章を作る行為だからです。手を動かしながら書くときのスピードは、脳で記憶を復習しつつ文章として再構築するのに最適な速さ。さらに、それを小さな限られたスペースに書くことがおすすめ。短い言葉にまとめる思考力の向上に役立ちます」

 パソコンなどに頼っての入力では、入力が上達すれば上達するほど記憶を引き出すには速すぎる。“あれは漢字だと、どう書くのだったかな?”と、脳を動かす機会も減ってしまう。

「手を動かすということもいいんです。あまり字を書かないデジタルネイティブな若年層には、将来に不安を感じることもあります」

 脳活手帳を実施した人からは、《書くことにより、記憶力の向上と漢字力の向上が表れている気がする》(59歳男性)《ひと言でまとめる癖がつき、日常生活でも考えをうまくまとめられるように》(78歳女性)といった驚きの声が、多数寄せられているという。

悲しい記憶も脳活には大切

 書き出した手帳から、2週間ごとに“一番うれしかったこと”“一番悲しかったこと”と感情を振り返ることも効果があるそう。

うれしかったことや悲しかったことなどを、少し時間を置いた1日後に振り返ることで、それが起きたときの感情や行動を客観的に分析することができます。“こう思ったのがいい結果を生んだ”“こう思ったのがよくなかった”等々ですね。

 それらを基に、“よし、だったら明日はこういう1日にしよう!”“こう生きたらもっと楽しくなるはずだ”など、いい方向性の情動を持って眠りについていただきたい。こうすることで、翌日への明るい展望や何かにトライする行動力の向上を狙っています」

 楽しかったことだけでなく、悲しいことを思い出すことにも、実は大きな意味がある。

喜怒哀楽すべての活動をきちんと発動させないと、脳の活動は鈍ります。悲しいことがあったときにはそれに浸ることも、脳には大切。ちなみに泣くことは脳の浄化にとてもいい。嫌な感情が一掃されて、気分がとてもすっきりします

 この感情の振り返りは実施した人からも好評で、

《一番好きなコーナーは“一番うれしかったこと”の記入欄。楽しかったことを思い出すのはとっても楽しい》(82歳女性)との声も。

 大切なのは楽しかったこと、悲しかったことを振り返ることで、“あれをしたら楽しそう”“これで失敗したから今度はこうしてみよう”と意欲的な行動が促されることでもある。

手帳の虫食いは気にしない

 意欲が本格的に低下してしまうと、認知症の前段階。書くのが面倒と感じたら黄色信号。

「ただし、脳活手帳では、虫食い、つまりは書かなかった日があることを気にしないのが継続するコツ。翌日、“昨日は忙しくてとても書く気にならなかった”とでも書くようにすれば十分に合格点です」

 続けていくことで少しずつ書けるようになっていく自分を実感し“やればできる!”と思えるようになることが大切。

「1行でもいいので書くようにしましょう。また、昨日のことを思い出せないのであれば、“短期記憶力”も低下しているかもしれません。ですが、続けることで思い出しやすくなり、“基礎思考力”も高まって、文章にまとめやすくなるなどの変化に気づくはずです

 ちなみに、脳活は中高年世代から始めたほうがよさそうだ。

「認知症予防を目的に行うのなら、男女とも性ホルモンが減少し始め、集中力が衰える50歳ぐらいから始めるのがよいでしょう。

 認知症の前段階であるMCI(軽度認知障害)の方であっても効果が期待できますし、すでに認知症を発症していても、感情の起伏やうつ症状改善の助けになると思います。その場合は当日のことを書いたり、そのとき、そのときにメモのようにして書いてもいいでしょう」

 そして、この書くだけの手帳と並行して、おすすめしたい脳活が独り言だという。

独り言を言うとき、そのときの状況や頭に浮かんだことを短い言葉にまとめて口にしていますよね。実はこの“言語化”が認知機能に非常に良い影響を与えます。周りへの配慮はしつつも、ぜひ意識的に習慣化していきましょう。

 例えば、“5分後にお鍋の火を止める”“ここでしょうゆを大さじ2入れて”など作業とともに口に出してみましょう

 “ひとりツッコミ”もよい。テレビを見ながら「それは違うでしょ!」など独り言を言うのも同じ効果が期待できるとか。そして、運動することも意識するべきと石川先生。

「高齢者ならば散歩がおすすめ。有酸素運動の中でも身体への負担が小さく、骨盤を刺激することになるからです。骨盤を支える筋肉は身体の中でもっとも大きな筋肉です。ここを刺激することで全身の代謝血流がよくなり、脳の老廃物であるアミロイドβやタウタンパク質の排出が促されます」

 以前は散歩をはじめとする有酸素運動は20分以上継続することが必要とされていたが、最新の学説では、5分ずつ4回など小刻みでもOKだとか。

さらには絵を描く、クロスワードを解くなど、面白そう、やってみたいと思うことに取り組んでいただきたい。どのような脳トレも、それだけで脳の機能を改善することは残念ながらできないんです。さまざまなことを意欲的に行い、いろいろな脳を動かすこと。それが認知症を遠ざける重要な方法です

お話を伺ったのは……石川 久先生●医師・国際医療福祉大学 病院講師。学習院大学、近畿大学医学部卒業。開頭手術やMRIの画像診断などを含め、1万人以上の脳を診てきた“脳の名医”。救急医として、救急医療および全身管理を専門とし、市民講習会などでも貢献。テレビなどメディア出演も多数。『認知症を予防する!医師が考えた書くだけ脳活手帳』(アスコム)を上梓。

取材・文/千羽ひとみ

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