日本の小売業で最も時価総額が高い企業といえば、アパレル業界最大手、ユニクロ、GUです。誰もが知るファーストリテイリングで、日本企業全体でも6位(2024年10月時点)と屈指の優良企業になっています。
総売り上げ3.1兆円、うち1.7兆円は海外ユニクロ事業と、まさにグローバル展開で最も成功した小売業であり、今後、さらなる成長が続くと見込まれる企業です。この成功のベースとなっているのが、製造小売業(SPA)というビジネスモデルであることは、よく知られていると思います。
SPAとは、製造、配送、販売を、自社で構築したサプライチェーンにおいて一気通貫することで、生産性を向上させることにより、コスパの高い製品を持続的に供給していく仕組みを備えた小売業ということです。
こうした仕組みの何が優れているの? というのは、既存のアパレルの流通構造との比較がわかりやすいと思います。既存のアパレルにおいての最大の問題点は、百貨店、量販店等大手小売との置き在庫という取引慣行にあったと考えられています。
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百貨店の衣料品売場には多様な商品が大量に陳列されていますが、一般的には売場にある商品は、百貨店の在庫ではないのです。どういうこと? と思われるでしょうが、これはアパレル事業者の在庫であって、売れた時に同時にアパレル→百貨店→消費者へと所有権を移転して百貨店の売り上げ計上がされていました。
さらに言うと、売場の接客員もアパレル事業者のスタッフであることが大半です。(ちなみに今では会計基準の変更により、売り上げには計上せず、差益のみを計上するやり方に変わっています。ご興味があれば、「収益認識に関する会計規準」で検索してみてください)要は、小売は在庫リスクを負担せず、陳列場所を提供していたのであり、売残りリスクはアパレル事業者が負っていたということです。
この慣行は、高度成長時代、売場を確保しさえすれば売れたので、アパレルが大手小売に有利な条件を提示して売場の獲得競争をしたことから生まれています。当然、売れ残ればその分はアパレルの損失となるのですが、売り上げが拡大している局面ではあまり気にしなくてよかった、ということです。
しかし、損失は価格にオンされていきますので、過剰生産が増えると価格は高止まりするということでもあります。そして、バブル崩壊以降、右肩下がりの時代になると、売残り損失はどんどん大きくなり、コスパが下がって、さらに売れなくなる、という負のスパイラルが常態化していたのです。こうしたアパレル流通のひずみは、全量買い取り仕入で返品なしが前提のSPAのコスパを際立たせることとなり、SPA台頭の背景となりました。
1990年代以降、IT技術の普及があり、POSによる販売、在庫状況の即時把握、物流や生産工程の一体管理も可能となりました。また、同じころ、ロードサイド市場が拡大していたことによって、百貨店、スーパーに依存しない出店による成長も可能になっていました。
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ファストリは、SPAとして在庫リスクをITにより把握しつつ自社で抱えることで、既存アパレルを圧倒するコスパを実現しました。また、ロードサイドで販売量を拡張することで、売り切る体制も構築して、高い収益を実現しながら、さらにサプライチェーンへの再投資を継続したことが、今につながっています。
在庫リスクを本源的に解決することなく、他社に押し付けることで回避しようとした百貨店、量販店は衰退しました。逆に、リスクに正面から向き合って解決したファストリは、小売業トップの企業価値を生み出しました。
その基盤となったのは、ITという技術革新であったと言えるでしょう。技術革新を先んじて取り込み、積極的にリスクを取るものが勝者となる、そんな教訓が、ファストリの歴史から見えてくると思うのです。
※この記事は『小売ビジネス』(中井彰人、中川朗/クロスメディア・パブリッシング)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです。
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