高騰するスマートフォンの価格。昨今の急激な為替変動や物価高などさまざまな影響が考えられるが、10年ほど前からどのくらい値上げが進んだのだろうか。今回は値上げの理由について各所のデータを用いて考えてみる。
●10年前のスマートフォンはいくらだった?
スマートフォンの価格が10年前からどう変化したのかを、iPhone、Galaxy、Xperiaの3ブランド別にまとめてみた。機種は全てドコモでの販売価格(定価)を参照し、最低容量の価格を掲載している。Galaxy はSシリーズ、Xperiaは秋冬モデルにて選定している。なお、2018年のiPhoneは「iPhone XR」、2019年以降のXperiaは「Xperia 5シリーズ」の価格を参照した。価格はいずれも税込み。
価格を見ていくと、10年前からどのブランドも一括9万円前後の価格のまま2019年ごろまで推移している。規制強化前を含め、意外にも「過度にスマートフォンが安かった」という時期はないことが分かる。
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この状況が大きく変わったのは2019から2020年にかけて。2020年で10万円の大台に突入し、2021年以降は価格が毎年1万円ずつ上がるような状態が続いている。2024年ではおおむね14万円前後の価格で推移している。各社共、2024年のXperia 5 Vを除いて15万円を超えないような価格設定を意識しているのではないかと考えられる。
2013から2019年までは総務省の値引き規制が施行される前だったこともあり、今の価格設定とは異なる傾向だった。当時は利用期間によって料金を割り引くようなプランや一括1円などの過度な値引きが行われており、一括価格があまり表に出てこなかった。
当時は通信契約側で端末を割り引く仕組みなので、iPhone 5sに関しては全容量で端末料金が均一の設定だった。2015年ではiPhone、Galaxy 、Xperia共に同じ料金設定だった。通信契約の割引額を機種、容量ごとに変えることで、端末価格に差を持たせていた。
ちなみにドコモでは、Galaxy S6と上位モデルのGalaxy S6 edgeを取り扱ったが、取り扱い価格は同じ設定だった(割引施策「月々サポート」の金額は異なる)。米国では100ドル以上の価格差があったことを踏まえると、定価があまり機能していないようにも思える。
この他、消費税増税前(2014年 8%、2019年10%)であることも、以降の価格に影響しているだろう。
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●5G通信対応や為替の影響も大きい
それ以降で大きいのが、2020年の5G通信対応や、同年以降の為替による影響だ。5G通信に対応した初期モデルは新しい通信環境に適応させるためのチップを採用した結果、端末コストも高くなっている。Galaxyのハイエンドもベースモデルが5G対応版は999ドルからとなり、同じく5G通信に対応したiPhoneもこの年に100ドル値上げするなど、日本に限らず値上げ傾向だった
iPhoneをはじめとした海外メーカーの製品は特に為替の影響も受けやすい。日本メーカーでもスマホを構成する各種パーツや材料は輸入に頼っているので、原価高騰は避けられない。過去10年間の米ドルとの平均為替レートを照らし合わせると、2021年ごろから円安の傾向に進んだ。翌年からは急速に円安が進み、平均値で2024年までの2年間に40円も円安が進んだ。
世界的な物価上昇による原材料の高騰も、最終的な製品コスト上昇に拍車を掛けている。
これは日本も例外ではない。2020年を100とした場合の消費者物価指数は、2024年には109.6(総合値。生鮮食品を除く)としており、4年間で単純に10%ほど物価が上がっている。これも間接的ながらスマートフォンの価格が上がった理由と考える。
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●電気通信事業の影響は大きかったが、iPhoneは大差のない場合も
2019年10月に電気通信事業法が改正されたことで、日本の携帯電話の販売方法に変化が見られた。一方で、この変更によって全てのスマートフォンが大きく値上げしたわけでもない。ここではiPhoneとXperiaのドコモ版と直販版における価格推移を見ていこう。
2020年のiPhone 12が直販版で9万4380円に対し、2023年のiPhone 15が12万4800円。同じく直販版のXperia 5 IIが11万4400円に対し、Xperia 5 Vが13万9700円。値上げ幅はiPhoneが3万420円、Xperiaで2万5300円となっており、この4年間でそれぞれ値上げしている。
これはキャリア版でもおおむね似たような傾向だ。キャリア向けは一般に直販モデルよりも高価になる傾向だが、こちらの値上げ幅も同じように大きくなっている。それでもiPhone 15はキャリアの値上げ幅も1万7000円ほどと、2万7000円のXperiaと比較しても抑えられており、「売れ筋」の商品は価格差を抑えているという見方もできる。
一方で、フラグシップとなれば話が変わってくる。ここでは2020年と2024年のiPhoneのPro MaxシリーズとXperia 1シリーズの価格と値上げ幅を確認してみよう。
iPhoneは価格をそろえるため、iPhone 12 Pro Maxは256GBの価格を採用している
ここでは特にiPhoneの値上げ幅が大きい。米国定価は変わらないので、直販版の4万8000円の増加はそのまま為替の変動分とみてよい。一方でドコモ版の値上げは実に8万916円とかなり大きい。直販版との価格差も約1万5000円だったものが、4万7000円と実に3倍以上に広がった。
Android端末のXperiaも直販版の値上げ幅は5万2800円に対し、こちらもドコモ版は8万5888円と大きい。こちらは2020年のXperiaを優位とした価格設定も大きいが、これに加えて本体容量の増加、5Gのミリ波対応といった外的要因もある。
両者ともに為替の影響は大きいが、キャリアの値上げ幅もかなり大きい。これは2019年の法改正にて通信と端末の分離化が行われたことで、通信契約側で値引きしていた部分がそのまま端末に転嫁された。加えて、高価な機種は2年縛りの撤廃を理由に従来よりも数も出ないことから、キャリアの上乗せが大きくなっているように感じられる。
●近年は「サポートの長期化」も値上げの要因に
最後に、値上げや高コスト化の要因として、スマートフォンの「サポート期間の長期化」も考えられる。この流れは高コストになったことに対する付加価値的な意味もあると考える。一例に、OSのアップデート回数を示したものを並べる。
こう見ると、iPhoneのOSアップデートの回数が古くから多く、製品寿命が長い様子が目立つ。今でも2018年に発売されたiPhone XSシリーズでも最新OSが利用できるなど、OSアップデートに関しては手厚い。
Galaxyはドコモ向けにも継続的にアップデートを提供してきた。メーカー主導もあって2019年以降の機種で3回、2021年以降の機種で4回、2024年以降の機種では7回と段階的にアップデート期間を長期化させている。今のGalaxyは世界的に見てもAndroid端末の中ではGoogle Pixelと並んで長期サポートをアピールする機種になった。
ドコモ向けのXperiaは2014年のXperia Z3以降の機種で2回のOSアップデートを行っている。以降、2022年発売の機種までは2回の実績があり、2023年モデルも2回のアップデートが行われる予定だ。
ただ、提供キャリアによってその回数は異なり、同じ機種でも取り扱いキャリアによってアップデート期間が異なる様子も見られた。
Xperia 5シリーズではないものの、2024年モデルのXperia 1 VIは3回のOSアップデート、4年のセキュリティアップデートを保証している。
これらのOSアップデート期間の長期化は北米や欧州圏の規制によるものも理由だが、高コスト化するスマートフォンにおいて「長く使える」ことを付加価値として提供していることも事実だ。日本でも内閣府が公表した2024年の消費動向調査にて、携帯電話の平均利用年数は4.5年(2人以上の世帯)というデータが出ている。一般に携帯電話は4年以上利用する方が多いことを踏まえると、長期のサポートが求められていることは事実と考える。
OSの長期アップデートを提供するとなればその分の検証コスト、実装コストがかかってくる。その分、通信事業者も自社サービスへの最適化や動作確認を行わなければならなくなるため、将来的な管理コストも大きくなる。
この他に、修理サービスや各種パーツの提供も含まれているので、旧機種のパーツ管理コストも最終的なコストに加算されていく。このあたりも近年の値上げの遠因になっていると考える。
物価高や為替変動、キャリアの販売方法の変更などの要因が絡み合って、スマートフォンの「値上げ」となっていることが分かった。キャリアでは数があまり出ないハイエンド機種の値上げインパクトが強い一方、主力商品の値上げは最小限にとどめている。キャリア各社もかなり戦略的な設定とするなど、買いやすい価格で提供できるようにしている。
高価になった分、各社が長く利用できるよう修理保守やソフトウェアアップデートを充実させていることも事実。スマホの値段が上がっても、その分長く安心して使えるのなら、今の値上げ傾向も多少なりとも納得できるのではないかと考える。
●著者プロフィール
佐藤颯
生まれはギリギリ平成ひと桁のスマホ世代。3度のメシよりスマホが好き。
スマートフォンやイヤフォンを中心としたコラムや記事を執筆。 個人サイト「はやぽんログ!」では、スマホやイヤフォンのレビュー、取材の現地レポート、各種コラムなどを発信中。
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