「代用ヘリ使えるが…」 対馬病院長が語る壱岐沖3人事故の余波

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2025年05月06日 06:01  毎日新聞

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離島医療の現状などについて話す長崎県対馬病院の八坂貴宏院長=長崎県対馬市で2025年4月15日午後2時32分、宗岡敬介撮影

 4月6日、長崎県・対馬から福岡市東区の福岡和白病院へ向かっていた同院の医療搬送用ヘリコプターが長崎県・壱岐島沖で転覆した状態で見つかり、搬送していた患者や医師ら3人が死亡した。事故から1カ月。患者を送り出した県対馬病院(同県対馬市)の八坂貴宏院長(62)が毎日新聞の取材に応じ、「患者を助けるために搬送したのにショックだ」とする一方で、「島の医療に救急ヘリ搬送は不可欠で、安全管理を徹底してほしい」と語った。


 ――事故が起きた日、患者をヘリで搬送することになった経緯を教えてください。


 ◆患者が対馬病院に救急搬送され、CT(コンピューター断層撮影装置)検査をしたところ脳出血があり、医師は手術が必要と判断しました。長崎県のドクターヘリについても説明しましたが、患者側の希望で福岡和白病院のヘリで搬送することが決まりました。患者を助けるために搬送しましたが、命を落としたことはショックでした。


 ――対馬では脳外科の手術はできないのですか?


 ◆対馬病院では無菌室を設置して抗がん剤治療をできるようにしたり、心臓カテーテル治療をできるようにしたり、一つ一つ、できる医療を増やしてきました。ただ、脳外科や、解離性動脈瘤(りゅう)などの心臓血管系の手術はできません。


 手術には設備と専門の医師、スタッフの三つが必要です。設備の整った大きな病院が近くにあったとしても、脳外科医や複数の看護師がいなければ手術はできません。対馬市の人口規模では症例数が少なく、全国的に不足している脳外科医らを確保し続けることは難しい。医療には人口規模が関係します。


 ――脳や心臓の病気は命に関わる危険性があります。


 ◆脳出血や脳梗塞(こうそく)、動脈瘤破裂などが起きれば、数時間で命を落とす可能性もあります。このため、まずは予防に取り組んできました。脳出血などを起こさないために、糖尿病患者は血圧の管理をしっかりする必要があります。それでも発症した場合は、本土にヘリで搬送し、高度医療につないできました。


 ――事故を受け、福岡和白病院は医療搬送用ヘリを無期限で休止しました。


 ◆他の代用ヘリが使えており、救急搬送ができない状態にはなっていません。ただ、例えば自衛隊のヘリを要請すれば災害派遣になるので、離陸まで1時間近くかかります。福岡和白病院が運航していた民間ヘリは医師同士の関係性で要請でき、機動性がありました。対馬は福岡の経済圏と文化圏にあり、家族が福岡で暮らしていることも多い。福岡への搬送を希望する声は多く、福岡和白病院のヘリは有用で、患者のためになっていました。


 ヘリに乗りたくないという人を無理に乗せることはできません。事故後、ヘリには乗りたくないという医師もいます。しかし、ヘリでの搬送がなくなれば、島の医療の一つの形がなくなります。救急ヘリ搬送は不可欠です。二度と同じ事故が起きないよう、安全管理などを徹底してもらいたいです。【聞き手・宗岡敬介】


対馬病院からヘリ搬送 年間平均57件


 4月6日に起きた福岡和白病院の医療搬送用ヘリの事故では、搭乗していた6人のうち、女性患者(86)と付き添いの息子(68)、男性医師(34)の3人が亡くなり、救助された男性機長(66)ら3人も骨折などのけがをした。ヘリはエス・ジー・シー佐賀航空(佐賀市)が運航。唐津海上保安部と国の運輸安全委員会が事故原因などを調べている。


 ヘリは長崎県対馬病院からの要請で患者を搬送していた。対馬病院によると、ヘリによる患者搬送は最近5年間の平均で年57件あり、その4割が福岡和白病院のヘリだった。事故後、同院のヘリは無期限休止となっている。



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