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コロナ禍の時代に、多くのアパレル企業が大きなダメージを受ける中、最も業績を伸ばしたアパレルのひとつがワークマンだったでしょう。コロナ前の2018年3月期にはチェーン総売り上げ797億円、経常利益118億円であったのですが、直近期2024年3月期ではチェーン総売り上げ1752億円、経常利益236億円と売り上げ、利益ともに2倍以上に成長し、業界でも有数の存在になりました。
元々、ロードサイドに展開する作業服、作業関連用品のチェーンでは最大手の存在ではあったのですが、作業服由来の機能性をウリにした、一般客向けのカジュアル製品も豊富に取り揃えたチェーンに変貌し、女性向けファッション中心のワークマン女子業態で、ショッピングモールにも進出していることはご存知の通りかと思います。このような変貌の要因は、ワークマンがアスレジャー市場に空きスペースを発見したことだとされています。
アスレジャーとは、アスレチックとレジャーを組み合わせた造語で、スポーツウエアやトレーニングウエアを日常生活の中で着用するというスタイルを指すとされていますが、これ自体は近年かなり浸透してきていました。
ただ、こうした市場の主流は国内外のスポーツブランド(adidas、NIKEなど)が占めていて、機能性は高いが価格もお高いという商品はありましたが、初心者、若年層にとっては手が届きにくいイメージもありました。
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ワークマンはSNSなどで、機能的な作業服が想定していないユーザーに利用されていることに気付き、安価な作業服を転用して、機能性に優れているが安いアスレジャー商品を投入しました。これらがSNS上でも話題になり、ワークマンの商品ジャンルとしてアスレジャー商品が確立されていきました。
コロナ期には、閉鎖空間での感染を避けるということから、ご存知の通り、アウトドアブームが起きていましたが、このジャンルでもワークマンの機能性素材を活用したアウトドア関連商品は大ヒットしました。アウトドアもアスレジャーの一部に位置付けられますが、ここでもスポーツブランド同様に、アウトドアブランドよりも安くて機能性は十分という商品を開発したことで、注目されるようになりました。
当初はワークマン店舗で作業服とアスレジャーを併売。よりカジュアル色を強めた「WORKMAN Plus」や、作業服を扱わず女性向けに特化した「#ワークマン女子」といった新業態を展開することで、ワークマンは急速に消費者に浸透していき、大きな成長を遂げたのです。
このワークマンの変貌は、ポジショニングマップを的確に設定して、そこにスペースを見出すという、絵にかいたような成功事例でした。ワークマンは自社の個人投資家説明資料の中に、アスレジャー市場規模というページを設けて、縦軸を高価格と低価格、横軸に機能性とデザイン性というポジショニングマップを作って説明していますから、一度、検索してご覧になっていただくと、その考え方がきれいにわかると思います。
こうした考え方は、オーナー家一族ながら、大手商社三井物産グループ幹部の経歴が長く、その後、会社に迎えられた土屋専務の存在が大きいようです。外からの俯瞰的な視点が加わることは、企業経営の変革には有効なのだという事例でしょう。
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アフターコロナとなり、アウトドアブームは失速し、ワークマンもその反動の影響を受けています。また、ワークマンの業績は踊り場に差し掛かり、「女子」業態も単独では地方展開が難しいとして、ワークマンCOLORSに統合されました。
しかし、会社は、お客さまの「声のする方に、進化する」の精神で、少しずつ変化し続けていく、と宣言しています。俯瞰的視点の下、この方針を続けていけば、また新たなスペースを見つけ出すのではないでしょうか。
※この記事は『小売ビジネス』(中井彰人、中川朗/クロスメディア・パブリッシング)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです。
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