
立石正広がセカンドを守っている──。
今春リーグ開幕前に実施された創価大のオープン戦。試合前のシートノックを見ていると、背番号1をつけた立石が二塁のポジションに入ったことに気がついた。
【今秋のドラフト上位候補】
立石は今秋のドラフト会議で目玉格になりうる大器である。その豪快な打撃は日本人離れしており、昨秋の明治神宮大会では4試合で打率.667、2本塁打、6打点の大暴れで準優勝に貢献。本人は将来的なメジャー志向を公言している。
大学2年時は一塁手、3年時は三塁手を守り、大学最終学年は二塁手にコンバートされた。今秋のドラフトを考えると、この意味は大きい。ただでさえ打撃力が評価されるなか、二遊間を守れるとなれば希少価値がさらに増す。立石のスカウト評価がより高騰する可能性があるのだ。
実際にシートノックを見る限りでは、立石の二塁守備は問題なく映った。とくに目を引いたのは、スローイングの強さだ。三塁を守っていた時から強肩を武器にしていたが、二塁手になってさらに力強さが際立っている。併殺時に二塁ベースから素早くスナップスローをするだけで、一塁に向かってボールが鋭く伸びていく。
|
|
さらに二塁手特有の動きである、ゴロを捕球した直後に反転し、二塁ベースに入った遊撃手に送球する動作も難なくこなしている。
立石本人も手応えを語っていた。
「セカンドの守備は冬からずっと練習してきて、だいぶ形になってきました。これからリーグ戦が始まると、難しさは出てくると思うんですけどね。今年は基本的にセカンドを守るつもりでいます」
4月28日、埼玉・飯能市民球場での東京新大学リーグ・流通経済大戦(3回戦)で、立石の二塁守備を中心に再びチェックしてみた。
この日までに創価大はリーグ戦で4勝3敗。杏林大から勝ち点を落とし、前日には流通経済大に2対10と屈辱の7回コールド負けを喫していた。苦戦しているように映るが、創価大の佐藤康弘監督は「想定内」と明かした。
|
|
「もちろん優勝するつもりでやっていますが、最下位になる可能性もある。それくらいリーグのレベルが上がっているんです。昨秋の横浜市長杯(関東地区大学野球選手権大会)では、リーグ3位の杏林大が他連盟の優勝チームに完封勝ちしましたよね。どのチームも力があるので、本当に大変です」
対戦チームは「打倒・創価」をもくろみ、徹底的に研究してくる。当然ながら、立石へのマークも厳しくなる。昨秋はリーグ戦で不調だったこともあり、立石は打率.244、0本塁打に封じられている。
今春はこの試合までに打率.320、3本塁打を記録していた。ただし、佐藤監督は「簡単に三振する時もあるので、まだまだ物足りない」と辛口だ。
【元プロコーチは太鼓判】
リーグ戦での立石の失策数は1個。フライを落球して記録されたエラーだという。
しかし、この日の立石は守備面で微妙な動きを見せた。
|
|
左側の強烈なゴロに対して逆シングルでグラブを差し出すも、打球に触れることができない。難しいバウンドではあったが、プロで二塁を守る選手であれば止めてほしいプレーだった。
さらに正面の平凡なゴロを弾き、あわててボールを拾って一塁にトス。かろうじてアウトにする、危ないプレーもあった。これが立石の語っていた、緊張感のあるリーグ戦特有の「難しさ」なのだろうか。
試合は創価大が2対0と優位に進めるなか、6回裏の攻撃で立石に見せ場が訪れた。変化球に泳ぎながらも右翼方向へと運び、そのままフェンスオーバー。2ストライクと追い込まれていたこともあり、ノーステップ打法でのソロ本塁打だった。
エース左腕・齋藤優羽(4年)の好投もあって、試合は創価大が3対0で快勝。勝ち点を獲得している。
バックネット裏には3球団のスカウトが視察に訪れていた。立石の二塁守備について尋ねてみたが、「プロでも当然できるでしょう」「肩が強いのがいい。今日は土のグラウンドコンディションも難しかったのでは」と軒並み高評価だった。
創価大の守備を指導するのは、高口隆行コーチ。創価大のOBであり、日本ハム、ロッテ、巨人でプレーした元プロの内野手だ。高口コーチも立石の二塁守備について、「問題ないです」と太鼓判を押す。
「今年初めてセカンドを守って、サードと比べて一塁への距離が近いので余裕をもってプレーできていると感じます。細かいプレーもこなれてくるはずです」
二塁ゴロを捕球後に反転して二塁ベースへと送球する動きは、高口コーチが立石にアドバイスを送っている。
「基礎的なことですが、まずは捕ってから投げること。その順番だけを間違えないように言っています。投げることに気が向いて捕ることがおろそかになると、悪送球につながってしまいますから」
試合後の立石を直撃すると、守備面での反省が口をついた。
「今日は危なかったですね。いつもはすごく捕りやすい球場なんですけど、今日はノックの時点で『イレギュラーするかも』と思ってしまって。試合では全体的に(打球を)待ちすぎたかなと感じます。もっとしっかりと捕りにいけたらよかったですね」
強烈なゴロを逆シングルで捕りにいったシーンについて聞くと、立石はこう答えた。
「あれは『捕れたらファインプレー』くらいに思っていたんですけど、難しい打球をどれだけ捕れるかが大事になってくるので。もっと練習しないといけないですね」
【母はバレーボールの元日本代表】
その一方で、佐藤監督は立石の守備について感嘆した様子でこう語っている。
「この前、強烈なライナーをジャンプしてキャッチしたんですけど、あれはすごかったですよ。普通の選手ならその場でジャンプするところを、立石は2〜3歩下がってからジャンプして、ドンピシャで捕った。さすがだなと思いましたし、母の遺伝子なんでしょうねぇ」
立石の母・郁代さん(旧姓・苗村)は元バレーボール選手で、日本代表としてバルセロナ五輪にも出場したキャリアがある。父も大学までバレーボールをプレーし、2人の姉はいずれも現役でプレーするバレーボール選手。バレーボール一家に育ち、立石は「ジャンプは今も得意です」と胸を張る。
脚力も高く、昨年12月の大学日本代表候補合宿では50メートル走の計測(光電管を使用)で6秒07をマーク。この日の試合でもスピーディーなスタートを切り、盗塁を決めている。この運動能力の高さも、立石の野球人生を支える大きな財産になりそうだ。
今季第4号を放った打撃については、「入っちゃった」と実感を語っている。
「2ストライクになっても変化球が来るだろうなと、ノーステップになっても変化球を張っていました。『ライトフライかな』というイメージだったんですけど、逆方向に入っちゃいました。でも、あとで動画を見返したら、腰が引けることなくちゃんと体が残って振れていたので。そこはよかったのかなと思います」
立石は使用するバットにも特徴がある。スラッガー系の打者は、細い形状で重心が先端寄りのトップバランスのバットを使う選手が多い。だが、立石の使うバットは、中心から先端にかけて太い形状のミドルバランス。ソフトボール選手が好んで使うバットのようだ。立石にとって「振り抜きやすい」という実感があるという。
一見すると、野球界で流行している「魚雷バット」に少し似ている。そんな感想を伝えると、立石は「今度、魚雷バットを試打させてもらうんです」と明かした。
「今のバットに満足しているので、よっぽどのことがないと試合では使わないと思うんですけど。メリット、デメリットがあると思うので、まずは試してみたいですね」
今後、もし立石が魚雷バットを携えて打席に入るシーンがあるとすれば、よほど感触がよかったということだろう。
5月3日の駿河台戦(1回戦)で、立石は4試合連続となる5号本塁打を放った。5月4日時点で、創価大は勝ち点3(7勝3敗)でリーグ2位。勝ち点4(8勝1敗)の共栄大を追っている。5月17日からの最終節、創価大と共栄大の直接対決で創価大が連勝すれば、創価大の逆転優勝。共栄大が1勝でも挙げれば、共栄大の優勝になる。
6月には大学選手権、そして大学日本代表候補合宿などビッグイベントが控えている。秋が近づくにつれ、立石正広の評価はどこまで高まるのか。見逃せない戦いが続く。